第二十話 覚悟
このお話で一番最初に浮かんだシーンを、やっと書くことができます。ここまで来るのにもう大変でした。ここまでお付き合いいただいた皆さん、本当にありがとうございます。
あたしたちは、地上でどこか休めるところはないか探した。溶岩は火口から四方八方へとまんべんなく流れている。そういう地形なのだろう。それでも少し離れたところに高台があり、そこまでは火砕流も達してはいなかったので、そこで少し休むことにした。青々とした原っぱに二人で寝転がる。
「私がユキノハナ草を食べて寝ている間、アリエルはずっと私にスプリームシャインを注いでいてくれたんでしょう」
なんだ、ばれてたのか。あたしは別にエレーヌが気づかなくてもいいと思っていた。だた病状が回復してくれればそれだけでよかったのに。
「ほかにすることなくてヒマだったから」
「ふふ。アリエルは嘘が下手だね。そのアリエルがくれたエネルギーを、今も体のなかで感じる。普通は体が治癒すれば自然と消えていくものなんだけれど」
あたしは興味を惹かれて聞いた。
「どんなエネルギー?」
「私の持っている自分のエネルギーってなんていうかすごく規則正しくて、いつも一定なんだけれど」
「ああ、お行儀がいい感じね」
あたしが嫌みのつもりで言うと、エレーヌは意に介さず笑う。
「ふふ、そうね、育ちがでちゃうのね」
やっぱり、エレーヌの方が上手だ。手ごわい。
「でもアリエルのエネルギーは、あたしのなかで強くなったり弱くなったり、ぎゅっと一点に集中したかと思えば、四方に拡散したり。でも、すごくパワーを感じるの」
「ああ、落ち着きがないんだ。あたしと同じで」
確かに今でこそなんとか制御できているけど、最初のころは自分の力をコントロールするのが難しかった。
「多分、きっとアリエルのエネルギーはこの世界で最強だと思う」
「そんな、言いすぎだよ」
火山からの熱風に混じって涼しい風が吹いてくる。
「だから、きっとできると思う。私たち二人なら」
ああ、そうか。それが言いたかったんだ、エレーヌは。エレーヌの瞳がきらっと光を宿したのが分かった。あたしはエレーヌを信じて、ただやってみるしかないと思った。
そのあと二人で少し眠ってしまったようだ。頬に当たる雨粒で目が覚めた。
「雨か」
好都合だとあたしは思う。この火山にはなんとしても鎮まってもらわなくてはならない。そのためには渡りに船といったところか。エレーヌはまだ目を閉じて規則正しい呼吸を繰り返していた。
あたしはエレーヌを起こさぬよう、そっと起き上ると、地面を踏みしめて伸びをした。体の芯から力がみなぎってくるのが分かる。この往生際の悪さというか、諦めの悪いしぶとさは一体どこからくるんだろう。この前センター長から言われた言葉も胸をよぎる。あたしのこの浄化の能力はどこから来ているのか。どうしてこんなにしぶとく強力なのか。
「アリエル」
エレーヌに呼ばれてあたしは振り返った。「行こうか」と言うとエレーヌは頷いた。もう災害対策班の助けは期待できない。彼らも、ありったけの力を振り絞ったのだろうし、今どこかに無事でいるとしても、さっきと同じようなサイズの竜巻はもう起こせないだろう。
あたし達はどちらからもとなく手をつないで、火口へと近づいていった。すさまじい量の噴煙にともなって、マグマの塊が火口から飛び出してくる。あたしとエレーヌはそれを巧みに避けながら、自分たちの安全が守れ、かつ火口にもっとも近い位置を探る。
ここなら、まあ、なんとかいいかな、と思い、二人で目を閉じスプリームボールを作ることに意識を集中し始める。熱いことは熱いが、さっきほどではない。十人で作ったスプリームボールが、噴火の勢いを弱めることに少しは貢献できたのかもしれない。
「エレーヌ、アリエル、加勢させてもらうよ」
後ろから急に声がしたので振り返ると、そこにはキラがいた。
「リーダー!」
「キラ!」
エレーヌとあたしは同時に驚きの声を上げていた。
「生きていたんですね」
「おいおい、勝手に殺すなよ。ほかの7人も全員無事だ」
「よかった」と心から安堵した様子のエレーヌ。
「意識を失った私達を、ドラゴンが救出してくれた。だが、ほかのメンツはもう戦えそうにない。ひどく消耗していて」
あのサイズのスプリームボールを作ったのだから、無理もない。
「リーダーは大丈夫なんですか」
「ああ。でもなんか不思議なんだよな。いつもの自分の能力じゃないような気がするんだ」
エレーヌは、そうか、と納得がいったような顔をした。一体、なんだろう。
「それ、アリエルのエネルギーですよ。なんだか体のなかをあちこち動き回って変な感じしません?」
失礼な、とあたしは思う。
「ああ、そうなんだよ。しかもコントロールしづらい。そうか、あのときの」
浄化班への入隊試験のことを言っているのだとすぐに気づいた。確かあのとき、キラの足のやけどを治した。
「普段は自分のやつ使ってるから気づかないけど、こういう緊急時にでてくるんだな」
まったくすごいエネルギーだよ、こいつは。キラは呟くように言う。エレーヌはそれを聞いて、珍しくあはは、と大声で笑った。
「さて、じゃあ、やるか」
「はい」
改めて三人で円陣を組み(円というより正三角形なのだけど)、意識を集中する。あたしは目を閉じた。十人でもできなかったのに、三人で可能なのか、という弱気な気持ちになってくる。
でも、ここで絶対に失敗するわけにいかない。地球がこれからも平和に続くなら、あたしはここで力尽きても構わない。最後の最後にはそう思って、思いっきり、ありったけの力を両手に込めた。
エレーヌが、世界が平和なら自身はガント病で死んでも構わないと思った、その気持ちが少し分かった気がした。
あたしはこの世界を、地球を愛している。
目を開けると、炎の色がとんでもない色になっていた。
「え? 虹色!」
驚いて、エレーヌとキラを顔を見る。二人とも驚いた顔をしていた。キラが叫ぶ。
「虹色は、全ての不可能を可能にする神秘の色だと言われている。無償の愛を完全な形に高めたときのみ出現する色だと」
それを聞いて思った。キラもエレーヌもこれで死ぬ気だったんだ、と。三人の心が死を覚悟して一つになったとき奇跡は起きた。
それでも、あたしは自分の目が信じられなかった。目の前のスプリームボールはどう見ても、三人分の力の合計じゃなかった。今、エレーヌとキラとあたしの力が合わさってシンクロしている。三人の出すスプリームシャインの色は、いつもの白と違い、それぞれ微妙に違っていた。エレーヌの色はなんとなく青みがかり、キラの色は赤っぽく、あたしの色は黄色っぽかった。それが全部合わさって、きれいな虹色に輝くのだった。
自分の力だけではどうにもならないものが、キラとエレーヌの力と合わさることで可能になる。1+1+1が単純な3ではなく、千にも億にもなっている感覚だ。それはほかの二人の方でも同じだろう。
「私たちの力、シンクロしてる」
あたしが思わず呟くと、キラもエレーヌもあたしを見て笑った。エレーヌが言う。
「私も知らなかったけど、シンクロってこんなに気持ちいいんだね」
本当だ。本当に気持ちがいい。あたしはこの瞬間、エレーヌに対する嫉妬の感情をすっかり解放している自分に気づいた。いろんなことがあって、だいぶ整理できていたつもりだけど、最後の最後まで残っていた嫉妬のかけら。言いかえれば自分への劣等感。
エレーヌの冷静さは青。キラの情熱は赤。あたしのコントロールできないほどのパワフルさは黄色。みんなそれぞれに持ち味がある。だからそれを信じて磨いて、お互いに精いっぱい活かしていけばいいだけ。それだけで、こんなに気持ちいい。あたしはここにきてようやく、自分のことを芯まで深く愛することができた気がした。そして、それには何の努力も苦痛も伴わず、あっけないほど自然な流れだった。
キラがいつものゴーを出さなくても、あたしには分かった。今がそのときと。お互いに目を合わせ頷く。
三人で同時に手を振り上げ、虹色に輝く光の玉を火口深くに向けて放った。放ったあとも三人の手からきらめく光の束が火口に向け、降り注ぎ続けていた。一時間経っても、二時間経っても、その光の束は消えることがなく、日が傾いて夕やけ空になった頃、ようやく消えた。
あたしは放心状態で静まりかえった火山を見降ろしていた。もう噴煙もわずかにしか上がっていない。流れ出たマグマは冷えて固まり、夕日を浴びて黒光りしている。いつもの山火事での作業のように、全てが噴火前の元通りの状態に再生、というところまではいかなかったようだ。火山の周辺では、マグマの流れ落ちたあとが生々しく残る。
「まあ、こんなもんかな。これ以上は無理」
キラが淡々と言う。これが自然のありのままの姿なのだろう。またここからきっと自然の持つ力で徐々に復活していくはず。なぜだか自然とそう思えた。キラがエレーヌと談笑している。キラが満面の笑顔になり、八重歯が光る。
あたしはこらえきれずにまた言ってしまった。
「キラの八重歯、やっぱり可愛い」
「うるさいわ」
「さあ、帰りましょう」
エレーヌが冷静に言う。
「おう。そうだな。帰ったら祝勝会だ」とキラ。
「やったー」
あたしは一人で歓声を上げた。
しばらくするとほかの浄化班のメンバー7人を乗せたドラゴンが迎えに来てくれた。どこか安全な場所に避難していたらしい。
「いやー、いいとこみんな、アリエルに持ってかれちまった。ひどいぜ」とラス。
「アリエルのパワーって虹色なのね、知らなかった」とマホ。
「あたしだって知らなかったよ。もうびっくり」
「いや、あれはシンクロがなせる技だ。私とエレーヌの力が加わってああなった。アリエル一人で虹色にするのは到底無理」とキラ。
「キラ、ひどーい」とあたし。それを聞いてみんなが笑う。
アリストメリアへの帰路はみんな疲れてるはずなのに、なぜだか気分が高揚して、話が途切れることがなかった。
次で終わります。




