第十九話 作戦開始!
エレーヌはやっぱり元気でいてくれないと困りますよね(笑)
エレーヌと共にスタッフルームに入ると、みんなが驚きの声を上げた。
シンがうれしそうに声をかけてくる。
「エレーヌ、もう大丈夫なの?」
「うん、心配かけたね」」
驚いたことに、集合時刻には十人全員が集まっていた。つまり、脱落者はだれもいないということだ。
みな口ぐちに言う。
「こんなことで死ぬ俺達じゃないしな」
「楽勝よ」
「やってやる」
なかでもマホの言葉があたしの胸に響いた。
「誰だって、親や友達はいるでしょ。なら条件は同じ。子どもがいたっていなくたって悲しむ人がいるのは変わらない。」
それを聞いていたキラも嬉しそうにニヤリとする。
「それじゃ、作戦を発表する。みな、よく聞いてくれ」
キラの発表した作戦とはこうだ。ブロゴブ山の火口に十人で青白い炎をぶつける。火口の深くまで届かせなければいけないので、今までで一番威力のある炎の玉、スプリームボールを作らなくてはならない。火口はまだ噴火の勢いが衰えていない。そこで、浄化班がなるべく近くまで火口に近づけるように、災害対策班が風で噴火の炎や噴石を遠ざけておいてくれる。
「なんだ、浄化班の単独任務かと思いきや、あいつらとの合同かあ」
ラスがあけすけに言う。確かにあたしもキラの作戦を聞いてげっと思ってしまった。
「まあ、そういうな。あいつらにはあいつらなりの責任の取り方があるんだろう」
キラはラスを見て言う。今回の事態は災害対策班の隊員により引き起こされた。ラスは、まあ、仕方ないよなあ、という風に頷いた。
「どうなったら成功と言えるのですか」
そう質問したのはマホだ。確かにそれも知っておきたい。
「火口にわれわれの炎の玉がうまく命中して入って、なかのマグマを冷え固まらせることができれば、成功だ。これで、マントル対流の乱れによる大規模地震および気候変動は解決する」
それを聞いた大半のメンバーは表情を硬くした。前例がないことなのだ。本当にできるのか。もし失敗したらどうなる。
「さっきまでの勢いはどうした。心配するな。もし失敗したら、災害対策班が我々を救助してくれる」
「そりゃまた屈辱だな」とラス。
あたしもできることなら、成功して災害対策班の世話にならずに終わりたい。
そこでエレーヌが口を開いた。
「私たち十人なら必ずやれる。わたしはそう信じてる」
その強い口調、毅然とした瞳に誰もが心打たれた。
「そうだな。おれも信じるよ」
ケンが言うと、みな「ぼくも」、「わたしも」と口をそろえ始めた。どの表情も一様に明るく、目には強い決意が表われていた。みな、プロジェクト・カルムの一員であることを誇りに思っているのがよく分かる。
「よし、じゃあ、いくぞ」
キラはそう言うと、窓を開け放ち、ピーっと指笛を拭いた。遠くからドラゴンが大きく羽ばたいてこちらに向かってくる。
「リーダーが、ドラゴンを呼べるなんて知らなかったな」
エレーヌが珍しく驚いている。
「ふふ。実は私もこれが初めてだ。機密班にこうしてドラゴンを呼べと習った」
「なんだ、そうか。俺も驚いたよ」
とケンが言う。とにかく今回は異例づくしの旅になりそうだ。ユキノハナ草をエレーヌのために採りに行こうとしたときは、渡航禁止であんなに遠く感じたローズドメリアなのに、国家プロジェクトとなれば、こんなに簡単に行けてしまう。それだけ今回の任務は重要だということなんだろうけど、なんだか拍子抜けだ。
十人でドラゴンの背中に乗り込むと、もう定員いっぱいという感じだった。出張で乗ったドラゴンには、乗客用のかごがあったが、緊急時とあってそんなものはついていない。
「ぎゅうぎゅうだな」
「もう少し、そっちにつめてよ」
なんてラスとマホのやりとりが聞こえてくる。あたしはなんとかエレーヌの隣に十分なスペースを確保できて息をついた。少し離れたところに災害対策班の乗るドラゴンも見えた。災害対策班は青の制服だから、すぐ分かる。
空を飛び続けて数時間後、ローズドメリアと思われる陸地が見えてきた。さらに進むと赤い溶岩が噴出している山が見える。ベルヴォル山の東に位置する山、ブロゴブ山だ。溶岩が激しい勢いで噴出している。近づくたびに熱を帯びた空気が段々と濃くなるのが分かる。
あの溶岩がまさに噴き出しているあの場所にいかなくてはいけないのか。考えるだけで危険さが分かる。
あたし、なんでこんな危険なことに参加するはめになったんだっけ。どうしてプロジェクト・カルムになんて入ろうと思ったんだっけ。ふいにそう考えてしまって、あたしは首をぶんぶんと横に振った。
ことの発端はエレーヌという若き天才が身近にいたことだった。でも今は、ここにいることを誇りに思っている。それは確かだ。
火口手前一キロのところで、あたしたちの乗るドラゴンは静止した。代わりに並走していた災害対策班のドラゴンが前に進む。風のスペシャリストたちが、風向きをコントロールして溶岩の流れる向きを一方向に集約しようとしていた。彼は、災害対策班のなかでも今回特別に選ばれた特殊部隊だ。
ドラゴンにしがみつく体勢から立ち上がり、全員一直線に並んで火口に意識を集中するのが見えた。真ん中の隊員が振り上げた手を下ろす。その瞬間、強烈な風が湧きおこり、竜巻のようになってすさまじい勢いで火口へと進んだ。
「よし、今だ。いくぞ」
キラが先陣をきって飛び出すとエレーヌがすぐさま後を追った。それに続いて8人が一斉に続く。あたしも覚悟を決めて飛び出した。
災害対策班の竜巻のおかげで、噴石の流れが一時的に西へ傾いた。そのためキラは火口の東側へあたしたちを誘導する。チャンスは今しかない。
「円陣!」
キラの言う通りに円陣を組んで、スプリームボールを作り始める。熱風が体にまとわりつく。この任務に地球を守るという目的がなければ、すぐに投げ出してしまいたくなるような暑さ。背中から顔から、とにかく全身から汗がじわりと噴き出してはぽたぽたと垂れる。熱で顔もたちまち真っ赤になる。
スプリームボールは見たこともない大きさに成長していた。十人それぞれが自分の限界に挑んでいるのだ。あたしもさらにスプリームボールを大きくしようと意気込んだ。スプリームボールの大きさは直径三十メートルくらいになったが、まだキラのゴーは出ない。スプリームボールが大きくなるに従い、円陣も段々と大きくなる。じりじりとした熱気が顔に当たって痛い。
もうこれ以上の力は出せない。あたしは自分の限界を感じた。目の前のスプリームボールが揺れる。でもそれは、スプリームボールじゃなくて、あたしが揺れているのだった。
暑さと体力の限界で、意識がもうろうとする。でももっと大きくしなければ、火山に十分な影響を与えられないのだろう。噴煙のすごさからそれだけは分かる。ああ、でもほんとうにもうダメ、倒れる、と思ったところで、キラのゴーが出た。
あたしは最後の力を振り絞って、両腕を振り上げ、力いっぱい振りおろした。一面青白い炎で何も見えなくなった。肩で荒い呼吸を繰り返しながら、空中に留まって回りを見回すとあたしのほかに誰もいない。
え、どうして、と思った瞬間、青白い炎スプリームボールが火口に吸い込まれるように入っていくのが見えた。噴煙も噴石も上がらなくなり、火口のなかでオレンジ色の輝きを放っていたマグマも一瞬、その色を失ったかに見えた。
「成功!」
と、あたしが喜んだのも束の間、火口の下のほうから新しいマグマが湧きあがってくるのが見えた。あたしはとっさに上空へと逃げた。逃げる途中でエレーヌがふらふらになりながらも飛んでいるのが見えたので、その腕をつかんで必死に上へ上へと上がっていった。
回りの空気が冷たくなり出したので、まあ、この辺でいいかと上昇を止めた。
「エレーヌ、大丈夫?」
エレーヌは肩で息をしながら答える。病み上がりなのだ。無理もない。
「うん、ハアハア、ちょっと、ハア、今回は力を使いすぎたかな」
「そうだね、あたしも同じ」
「ほかのメンバーは」
あたしたちは二人で辺りを見回したが、だれも目視できる範囲には見当たらない。最悪の事態が心に浮かぶが、それを口にするだけの勇気が出ない。
「災害対策班か、乗ってきたドラゴンに回収されたよね、きっと」
エレーヌがそう言ってくれたのが救いだった。
「そうだね。そう思いたい」
「作戦は失敗、かな」
あたしが呟くと、エレーヌはやりきれない顔をした。
エレーヌが今の状況を確認したいというので、あたしはエレーヌの腕を自分の肩に乗せ、ゆっくりと飛行しながら、危険の及ばない範囲でなるべく山に近付いてみた。
火口付近ではかなり激しく噴煙があがり、ドーン、ドドーン、という不気味な音が響いている。やっぱり、ドラゴンも人影もまったく見当たらない。エレーヌはその様子を深刻な表情で見ていた。今度はあたしがエレーヌを励ます番だった。
「きっとみんな安全なところに逃げたんだよ」
「……うん」
エレーヌの苦しげな表情を見つめながら、今、あたしがすべきことはなんだろうか、と思った。このままアリストメリアに戻って、地球が段々と崩壊していくのをみていることしかできないのか。いろんな人の顔が浮かんだ。ママ、シンシア、アダン、センター長、ブランデルさん、キラ、ケン、シン、マホ、ラス、そのほかの浄化班のメンバー達。
不思議なことにあたしにはまだ少し余力が残っていた。あんなに限界まで能力を使ったのに。エレーヌと目が合う。まだ、いけるという目をしていた。
「このままじゃ帰れないよね」とあたしが言うと、エレーヌは頷く。
「少し休んだら、二人でもう一回やってみよう」
あとちょっとです。




