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スプリーム☆シャイン!  作者: 丸山梓
17/21

第十七話 親友

高台と言えば、友達とサンフランシスコに旅行して、夜、その地では有名な夜景スポットに言ったのですが、霧で全く何にも見えなかったことがあります。翌日には帰国予定でリベンジもできず。当時は残念で仕方ありませんでした。

 空を飛んで家に向かっていると、肩にとまっていたインコが突然しゃべった。あたしはびっくりして、あやうく空中でバランスを崩しそうになる。


「アリエル、電話。アダンから」

 アダンか。ああ、びっくりした。


「もしもし」

「ああ、よかった、繋がった。アリエル、時間がないから手短に話すよ。今日の夜、セントラル・シティで一番高い丘にいて。来れば分かるから。それじゃ」


 それだけ言って通話は終わった。もう、それだけじゃ、何が起こるのかさっぱりわからない。けれど、アダンにお願いしていたユキノハナ草がついに手に入ったということなのかもしれない。あたしは、期待に胸を膨らませながら、言われた通りに、セントラル・シティで一番標高の高い丘、マルセール台に向かった。


 夕焼けが遠くに見えた。地平線のなかに少しずつ、ゆっくりと埋まっていく。そして今度は夜空が、星たちで輝きだした。もうすぐ本当の夜が来る。


 あたしはローズドメリア国の方向をじっと凝視していた。何時間待っただろう。最初は立ち上がって見ていたが、足の裏が痛くなってきて、地面に腰を下ろして夜空を見上げていた。次第にその姿勢も疲れてきて、今度は寝そべって空を見た。今のところ、何も起こらない。一体、何が起こるというのか。


ああ、もう限界。寝そう。そう思った時だった。


 遠くの空に何かが見えた。だんだんこちらにせまってくる。何だろう。あたしは思わず起き上がった。ゆさゆさと大きな翼が揺れている。あれはワシだ。それも、かなり大きい。ワシがユキノハナ草を届けてくれるということだろうか。なんてことを考えていると、今度は声がした。


「おーい、アリエール」

 え、と思ってよーく見ると、ワシの上にはアダンが乗っていた。ワシは直滑降してあたしの足元でぴたっと止まる。

「へへ。来ちゃった」

「……」

 あたしは驚いて声も出ない。


「はい。これ」

 アダンの手にはユキノハナ草が握られている。

「うわ、これ、どうやって?」

「こいつのおかげ」


 そう言ってアダンはワシの頭をなでた。そういえば、このワシ、どこかで見たような。


「アリエルがユキノハナ草を採りに行ったときに、一緒に飛んでいったのがこいつ。アキナだよ。ローズドメリアには一人しかいない動物と話せる人物に頼んで、アキナにその場所、覚えてるか聞いた。そしたら覚えてるっていうから、じゃあ採ってきてよって頼んだんだ」


 アキナは賢い。頼りになるわあ。


「でもあたしと一緒のときはもっと小さかったような」

「うん。あのときは子どもだったから。成鳥になるとこれくらいふつう」

「そうなんだ。でもまさか、アダンまで一緒に来ると思わなかった」


 あたしがそう言うと、アダンは自嘲気味に笑った。


「政変は? ブランデルさんは元気?」

「それが……」


 それからアダンはぽつぽつと語り出した。ブロゴブ山の噴火をきっかけにローズドメリアの政変は、ブランデルさん側の敗北に終わったらしい。火砕流や噴石の落下、それに旧勢力からの総攻撃を受け、多数の死者が出た。


 ブランデルさんは副大統領の地位を下ろされ失脚し、今は投獄されている。ブランデルさんを補佐していたアダンも当局に命を狙われる事態になり、すんでのところで、アキナとともにこの国に逃げてきた。


「僕はひきょう者だ。志半ばに終わったブランデルさんのことを思うと胸が痛いよ。でも、これ以上、どうにもできなかった。どうにもならなかったんだ」


 ぽろぽろと涙を流すアダンをあたしはそっと抱きしめた。今はそうするよりほかにない気がした。


「アダンはひきょう者なんかじゃない。いつかきっとブランデルさんが解放される日が来る。それまであらゆる手を尽くそうよ」

「うん。ありがと」


 アダンはそっとあたしから離れると、大きく深呼吸した。そして、いつものアダンに戻って、気を取り直したように言う。


「ところでさ、アリエル、僕、逃亡生活で一文なしなんだ。これからアリエルのうちに居候させてもらってもいい?」

「えー! アデルのところは?」


 そうだ。アダンには実の弟、アデルがいる。アデルは今、こっちのアクアポニクス・センターで働いているのだ。


「それが、連絡がつかなくて。なんでかなあ」

 アダンはぽりぽりと頭をかいた。逃亡生活で一文なしと聞けば、当然助けてあげたいところだけど。


「うーん、いいけど、あたし、明日からいないよ」

「え? どうして?」

「ローズドメリアへ行くの」

「???」


 アダンは首を傾げている。まあ、当然の反応だろう。それができないから、ユキノハナ草を採ってきて、と無理なお願いをしたのだし。


 そのとき草むらからがさごそと音がした。クマ? それともオオカミ? あたしとアダンはお互いに顔を見合わせた。ここは、この町で一番高い高台、マルセール台。降りるにしても、その草むらの方面に行かないと降りる道がない。


「よ、兄ちゃん」


 草むらから出て来たのは、アデルだった。ジャージ姿にニット帽。いかにもラフな格好でラフな挨拶。アダンがふっと息を吐いて言う。


「驚かせるなよ。お前、どうして今日ここに俺が来るって分かった? そしてどうしてインコ電話に出ない?」

「まあまあ、そんなに慌てなさんなって。地震が来る前から俺は一週間、仕事休みもらって、旅してたの。で、久しぶりに留守電聞いたら、兄ちゃんからだったから来てみた」


 あたしはそれを聞いて、おっと思う。インコ電話でも留守電機能つきは、かなり高度なインコだ。それを持ってるなんてすごい。


「来てみたって、お前。電話くらいしろよ」

「はは。ごめん、ごめん」

「ったくもう」


 アダンはあきれ顔だ。あたしは、アダンがお兄さんぶりを発揮するのを初めて見た。アダンって弟の前ではこんな感じなんだね。意外。


「これはこれは、アリエルさん。しばらく見ないうちに、またおきれいになられましたね」


 アデルの言葉を聞いて、あたしはいらっとした。そうだ。こいつがアクアポニクス・センターでしたこと、あたしは覚えてるぞ。あたしは平静を保って言った。


「シンシアが、アデルの女たらし加減には困ったものだって言ってたよ」

「え、そうなのか。お前、ここでもそんなことを」


 アダンが心底嫌そうに、アデルを見る。この反応を見る限り、前科がありそうだ。


「あ~あ、風向きが悪くなってきちゃったから、帰ろうかな。兄ちゃん、寝るとこないなら、うち来なよ。狭いけど、歓迎するよ。アリエルさんちに居候できなくて残念だったねー。じゃあねえ」


 アデルは手をひらひらさせながら去っていった。

「あいつ。覚えてろよ」


 アダンは心底悔しそうだ。あたしは必死で笑いをこらえた。アダンよりアデルのが一枚上手だ。そんなことを思っているうちに、あたしは思い出した。


「そんなことより、エレーヌに会いに行かなくちゃ!」

「じゃあ、アキナに乗せてもらおう」

 アダンはいつもの調子に戻っていた。

「うん。じゃあ、あたしが先導する」


 アダンがアキナに乗り込んだのを確認すると、あたしはひらりと宙を舞った。後ろを振り返ると、ちゃんとアキナもついてきている。アキナと話せなくてもこれならなんとかなりそうだ。


 渡されたユキノハナ草には残念ながら花はついていなかった。もう花の咲く時期は過ぎてしまったらしい。それでもほかの部分でも効果があるかどうかは、やってみないと分からない。


 あたしとアダンは、エレーヌの邸宅の前に立ち、呼び鈴を鳴らした。あんなに大きな地震を受けたはずなのに、この家はほぼ無傷に近い。相当頑丈な造りになっているんだろう。


「…すごいうちだね、もしかしてエレーヌってお金持ち?」

「もしかしなくてもそう。エレーヌはお金持ち」


 お父さんは国営放送の社長だし、本人は国に生活を保証されたプロジェクト・カルムのメンバーになって長い。


「エレーヌってどんな人なの?」


 アダンに無邪気に聞かれてあたしは言葉につまった。以前のあたしなら、とにかくやな奴、と言ったに違いない。でも今はどうだろう。


「エレーヌは幼馴染で親友。いいヤツよ」

「ふうん。アリエルが言うならそうなんだね」

「当然」

「いいなあ、友達」

「アダンにはいないの? 友達」

「いることはいるけど、しばらく会ってないなあ。仕事のせいにするわけじゃないけど、極秘任務ばっかりだったからね」

「ふうん」


 そんなものかな、と思ってしまう。そんなことを話しているうちに、玄関の扉が開き、あたしたちはなかへ通された。エレーヌの母、ミレナが応接間で待っていてくれた。


「来てくれてうれしいわ。エレーヌもきっと喜ぶわ。そちらの方は、お友達?」

「あ、はい。友達のアダンです」


 あたしがそう言って紹介すると、アダンはミレナに笑顔で会釈した。初対面の人にも自然に笑顔が出るなんて、アダンはやっぱり世慣れている。


「あれから、エレーヌは」


 ミレナは辛そうは顔をした。


「あんまり良くないわ。毎日、お医者さまが往診に来てくださるけど、打つ手なしだと言われてるわ。生きているのが不思議なくらいだと」

 ミレナは目頭にハンカチを当てる。

「そうですか、エレーヌに会いたいのですが」


 あたしはそこで、ユキノハナ草をミレナに見せた。途端にミレナの悲しげな顔が輝く。

「まあ」

「でもこれ花がないんです。もう時期を過ぎてしまったので。それでも、いちかばちかエレーヌに食べてほしいんです。」

「わかったわ」


 あたしたちはエレーヌの部屋に移動し、ベッドに横たわるエレーヌの元に駆け寄った。悪夢にうなされているかのように、肩で苦しそうに息をしながら、荒い呼吸を繰り返している。頬はやせこけてしまい、この前より確実に悪化しているのは目にも明らかだった。辛い気持ちを抑えて、わざと明るい声で言う。


「エレーヌ、起きて。これを見てよ」


 エレーヌはうっすらと目を開けた。ようやく聞きとれるかどうかの小さな声で呟くように言う。


「ウソ……これ、どうやって」


 目の前のユキノハナ草に心底驚いた様子だ。

「ここにいるアダンがね、採ってきてくれたの」

「僕じゃないよ、こいつだよ」


 とアダンはアキナの頭をなでた。アキナは目を細めてぴぃっと小さく鳴いた。なんとなくあたしたちの会話が分かるらしい。あたしにはシンシアがいないと、アキナの言うことはさっぱり分かんないけど。


「そうなの。危険を顧みずにありが…とう。ほんとに…ありが」


 ユキノハナ草へと伸ばしたエレーヌの手ががくんと下がった。エレーヌは目をつむったまま動かなくなった。


 あたしは、目の前で起こったことが理解できなかった。


「エレーヌ! エレーヌ!」


ミレナが必死でエレーヌの肩を揺さぶるのを、ただ呆然と見ていた。


嘘だ。ここまで来てこんな残酷なことってない。


いつの間にかカイトが部屋に入ってきていた。

「お姉ちゃん、ごめん。僕のせいだ。僕の……」

 ミレナがぎゅっとカイトを抱きしめる。


 間に合わなかった。間に合わなかった。間に合わなかった。その言葉だけがあたしの頭のなかで、半鐘のようにこだました。


あともう少しで終わります。

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