第十六話 裏切り
地震はないにこしたことないですが、万一の場合に備えて、我が家でも備蓄をしています。最近では、ペットボトルみたいな容器にフィルターが付いてる濾過装置みたいなのを購入しようと思ってます。まだ買ってはないですけど。川の水とかでもOKらしいので。
帰り道、インコ電話でキラから連絡があった。あたしのインコは急に起こされたものだから、びっくりして早口になる。まるで録画した国営放送を二倍速で聞いているかのような早口だ。あたしは慌てて聞き耳を立てた。
電話の内容は、緊急ミーティングを開くので、至急スタッフルームに集まってほしいというものだった。いよいよ自宅待機解除かな。もうシェルターにいることにいい加減飽き飽きしていたので心躍った。
スタッフルームに入ると当然ながらそこにはあたしを含めて9人しかいなかった。病気だからとうぜんだけど、この場所にエレーヌがいないなんて。なんだかとても心細い気分になる。
キラが立ち上がって言う。
「みな、緊急に集まってもらいすまない。機密班から情報提供、および協力要請があった。今回の地震に津波、それに巨大台風、何か変だと思わないか?」
その問いに対して、スーリが控えめに発言する。スーリは普段あまり目立たないが、任務はしっかりとこなす芯の強い女の子だ。
「確かにおかしいと思います。地球規模で何かまずいことが起きているのですか」
キラは頷く。
「ああ。機密班もその辺をずっと探っていたらしい。そして分かったことがある」
みんなが一斉に身を乗り出す。
「これは本当に極秘情報なんだが、我がプロジェクト・カルムの災害対策班に属する人間が、ローズドメリアの旧勢力と手を組んで、やってはならないことをした」
ローズドメリアと聞いて、あたしは嫌な予感がした。
「アンティ山脈のブロゴブ山の火口に、自分の能力による火を大量に注ぎ込んで、人為的に火山を噴火させたということだ。ブロゴブ山のふもとには、新勢力の拠点があった。噴火によって新勢力の力を封じ込めようという狙いがあったようだ」
そこにいる全員の動きが止まった。そして、誰もが信じられない、というようにお互いの顔を見合わせる。特定の団体の利益に貢献する行為、および人命救助以外の目的での自然破壊行為は、プロジェクト・カルムという類稀なる特殊能力を持つ集団に属する者にとって一番の禁忌事項だ。ことが明らかになれば、プロジェクト・カルムとい存在そのものの信頼性が根底から揺らぎかねない。
キラは冷静に続ける。
「その人物の特定はもうされている。近いうちに、機密班より相応の処分が下るだろう。問題は、この噴火による影響だ。ここのところの地震、大雨、強風は全てこの噴火により地球全体のバランスが崩れたことにより発生している。私たちのいるこのアリストメリアだけじゃなく、ローズドメリアでも同程度かもっとひどい災害が発生している。噴火を終息させない限り、この天災も続く」
ケンが意外そうに言う。
「たしかに噴火のニュースは観たが、そんな大規模な噴火には見えなかった。一部の地域で溶岩流、火砕流が発生したとは言っていたが」
「そうなんだ。ふもとの地域のみの被害で済んだことは不幸中の幸いだったんだが、問題は二つある。一つがマントル対流。もう一つが噴煙だ。」
「まさか、マントル対流にまで影響が及んで大陸プレートが動いたなんて言わないよな?」
ラスは勢いこんで言うと、キラはまたしても冷静に頷いた。
「そのまさかなんだ。大陸プレートの移動はこれからも続く見込みだそうだ。まだまだ地震が頻発する可能性がある。それにもう一つ、噴煙があまりにも広く広がったせいで、気候のバランスが崩れてきている。これからの気候がどうなるか誰も予想できない」
確かにこのセントラル・シティでも、空には黒い雲が立ち込め滅多に日が出ない日が続いている。これは天候が悪いせいではなく、火山の噴煙が地球全体に広がってきていることによるということなのだろう。天候の悪化は即、食糧問題に直結する。アクアポニクス・センターも太陽の恩恵を受けて今まで稼働できていたのに。
ケンもラスも黙り込んで、再びスタッフルームに沈黙が訪れた。
「あの、マントル対流ってなんですか」
あたしがこう質問すると、キラはがくっとうなだれた。だって分からないんだから仕方ないじゃない。ああ、こんなときエレーヌがいればこっそり教えてもらうのに。
シンが見かねて教えてくれる。
「地球の内部構造は、外側から順番に、地殻、マントル、外殻、内殻で構成されていて、内殻が地球の一番中心にあるんだ。外側から数えて二番目にあるマントルは、簡単に言えば岩のようなものでできてるんだけど、部分的に温まって膨張したり、冷えて縮んだり、を繰り返していて、常に内部は動いている。それがマントル対流さ。ついでに言うと、そのマントルの上に固い岩盤でできた板状のプレートがいくつも、お互いに微妙に重なり合いながら存在していて、マントルが動くと、そのプレートも動いて、僕たちのいる地表面に地震を起こす。キラが言ってるのは、今回の噴火がブロゴブ山の下の下にあるマントルまで影響してしまって、それでプレートが動いて、地震が頻発してるんだっていうこと」
うーん、分かったような、分からないような。でもみんな、キラのあれだけの説明で分かるみんなってすごい。キラが気を取り直したように言う。
「そこで、機密班のわが班に対する要請は、みなも予想がついていると思うが、この火山を鎮め、マントル対流を自然な形に戻すこと。および、噴煙を回収して大気を元通り清浄な状態に戻すことだ。これは我々浄化班にしかできない仕事だ」
キラは全員の顔を見渡して、さらに続ける。
「これはプロジェクト・カルム内部で起こった事件だ。自分のケツは自分でふかなければならない。プロジェクト・カルムのメンバーになった以上、そのことを忘れないでほしい。だが一方で、この任務は相当な危険が伴う。いつもならこんなことは言わないんだが、今回だけは言おう。この任務から抜けたいヤツは抜けろ。命の保証はいつもできないが、今回はそれ以上にできない。特に、サラ、マホ、シン、お前たちには確か子どもがいたな。それぞれまだ小さいはず」
キラの言葉を聞いた三人は黙りこんだ。
「即答できなくてもいい。参加する意志のある者は、明日朝10時にここに集まってほしい。連絡は以上だ。質問は個別に受け付ける」
こうして緊急ミーティングは解散になった。キラのデスクに集まる者、数人で固まって話をする者、反応は様々だった。でも、あたしは決めていた。エレーヌがいなくてもこの任務に加わろうと。あたしはそう思って一人スタッフルームを後にした。
そろそろ終わります。




