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スプリーム☆シャイン!  作者: 丸山梓
14/21

第十四話 エレーヌの秘密

重ーく、暗ーい話になってきました。お付き合いいただける方は、お付き合いください。もう少しするとまた明るくなってきます。

 プロジェクト・カルムの浄化班スタッフルームに降り立つとすでに、エレーヌが来ていた。ひどく青ざめた顔をしている。この事態だ。無理もない。


「エレーヌ、大変なことになったね」

 あたしが声をかけると、エレーヌは頷いた。

「父の安否が分からないんだ」

「え」

「会社を見てくると言ったまま、戻らない」


 エレーヌの父親ヘンリーは、国営放送の社長だ。ニュースの配信やら、ラジオやら、とにかくこの国に一つしかない放送会社の社長なのだ。だからこそ、この緊急時に放送を途切れさせてはいけない、という強い思いが働いたのかもしれない。


「きっと大丈夫だよ」


 と、あたしはなんの慰めにもならない言葉をかけるしかない。制服に着替えて、ほかのメンバーにそれぞれの地元の被害状況などを聞いているうちに、全員がそろった。それを待っていたかのように、キラの説明が始まる。


「各人に電話で説明したように、これから、災害対策班と合流する。土砂で埋まった陸路の復旧作業、人命の救助にあたる。合流するのは久しぶりのことだから予め言っておくが、今回、浄化の能力はほぼ役に立たないと思ってもらっていい。プライドを捨てて任務に当たること。担当指揮官の指示に従い、忠実に任務を遂行すること、いいな」


 あたしは、キラの説明の意味がさっぱり分からなかった。浄化の能力は使えない、プライドを捨てるって一体どういうことなんだろう。


 あたしが、説明を求めてエレーヌを見ると後で説明するよ、と目で言っていた。同じ敷地内にある災害対策班の本部まで早足で移動する間に、エレーヌはこっそり教えてくれた。


「元々、浄化班と災害対策班は仲が悪い。災害対策班の連中の能力は破壊的なものが多いんだ。いろんなものを火で燃やしたり、風や水で壊したりする。災害時なんかにはそれも役に立つんだけれど、私たち浄化班からみると野蛮に見えるし、彼らからすると私たちのすることが生半可に見える。それに彼らは自分たちの方が格上という意識がある。だから、こんな風に緊急時に浄化班が加わると嫌な顔をして、手下のように扱うのさ」


 あたしは、それを聞いて、なるほどと思った。土砂崩れで埋まった道路の砂や岩、木々なんかを、彼らは、火や風や水の力で一瞬で吹き飛ばす。それに対して、浄化班のできることといえば、自然を元の姿に戻すことだけだ。あたしはそれだけでも、いやむしろそのほうが優れていると思ってしまうのだけど、災害対策班の方々はそうは思わないということなのだろう。


 あたしは素朴な疑問をエレーヌにぶつけてみた。


「浄化班は人命救助にあたってはいけないの?」

「いや、いけなくはないんだけど、体力的な問題かな」


 確かに、人間に対して浄化の能力を使って傷を治すのは、動植物の数倍、体力を消耗する。どんな強力な能力者でも連続しては使えない。それは、実際、初めて入隊試験でキラのやけどを治して実感したことだ。確かに能力を使うよりも、救急病院に搬送したほうがお互いに幸せかもしれない。治してもらう方も、そんなに無理をしてまで、治してもらいたいと思わないだろうし、あたしたちも何十人も連続では無理だ。


 災害対策班の本部に着くと、浄化班は二人ずつのグループにされた。あたしはエレーヌとともに第5連隊に配属され、北部沿岸地域に派遣されることになった。災害対策班には、飛行能力がある者がいない。あたしとエレーヌで先に行って、空から偵察することになった。状況を随時、本部へインコ電話で報告する。本部で聞いた話によると今回の地震は、アリストメリアの北西30キロの海底が震源で、震源の深さは六十キロ。あたしたちが向かう地域で津波が発生する恐れもある。


 時は一刻を争うとあたしたちは、飛行の速度を上げた。長い夜が明けようとしていた。うっすらと住宅街や山々の様子が見えてきた。やはり、住宅地や工場で火災が起きている。これが山火事なら、すぐに降りていって火を消すのに。浄化の能力は、建物などの人工物に対しては、効力を発揮しないというのが痛い。それにそれが仮にできたとしても、今は災害対策班の指令通りに動かなくてはならない。


 半分くらい進んだところで、エレーヌが休憩したいと言い出した。今、状況がどれくらい切迫しているかエレーヌ自身も良く分かっているはずだった。一体、どうしたんだろうか。少し遅れ始めたエレーヌを振りかえると肩で息をしている。表情も苦しそうだ。あたしは慌てて、エレーヌを抱きかかえて地上に降りた。降りると運よくそこは公園だった。エレーヌをベンチへそっと寝かせる。


「こんなときに申し訳ない」

「どうしたの、エレーヌらしくないよ」

「ごめん。ちょっと疲れただけ」


 エレーヌは5分でいいから寝かせてほしいと言うので、あたしは頷いた。それでも回復しなかったら本部に連絡して、エレーヌを置いて、あたし一人でも行こう。あたしはそう決意して空を見上げた。ぽつぽつ、と雨が降ってき始めた。エレーヌが濡れないように、自分の上着を脱いでかけてあげた。そのとき、エレーヌの腕が落ちてきたので、おなかの上に乗せてあげようとその手を持ち上げた。あたしが手を触ってもエレーヌはピクリともしないで、よく寝ている。手をつかんだつもりがアームカバーだけを持ってしまい、するりとカバーだけ外れてしまった。


「!」


 あたしは、エレーヌの腕に浮き上がっている斑点を見て声が出なかった。もう一度、エレーヌの腕を取り、そこに現れているものを凝視する。こんなこと信じたくなかった。エレーヌは、生まれながらにして美貌、才能、慈悲深い心、仲間、家柄、健康、全てを手にした、特別な人間だと信じていたかった。


 特別な存在とそうじゃない存在がいると思うことで、あたしは自分をなぐさめていたところがあった。でも、今分かった、それはあたしの弱さだ。ほんとはみんな辛いのだ。地球上で誰ひとり例外なく、厳しい現実に耐えながら毎日を生きている。その事実を真正面から受け止めるがこんなに悲しいことだなんて思いもしなかった。涙があふれてくる。


「どうして」


 その斑点は、ガント病の初期に現れる典型的な症状だった。エレーヌの弟、カイトだけじゃなく、エレーヌもガント病だったなんて。あたしは自分の目が信じられなかった。そうならなぜエレーヌも、カイトにユキノハナ草を持っていったとき、私も食べると言わなかったのか。どうして、今まで病気のことをあたしに打ち明けてくれなかったのか。

 

 ずっと一緒にいたんだからチャンスは今までに何度でもあったはずなのに。あたしは今までのエレーヌの態度を思うと涙が出た。純粋にカイトの病気の回復を喜んでいたエレーヌ。エレーヌはきっと自分のことなんてどうでもよかったんだ。カイトが元気で暮らしていければそれで。でもそれはエレーヌのノートの一ページ目に書いてあったことと矛盾する。


1、自分を愛し、信頼すること。


「自分を愛せって、自分で書いてたのに、一番実践できてないのは自分じゃないの」


 あたしは、空と同じように泣いた。涙がとまらなかった。あたしのしゃくり上げ声で気づいたのか、エレーヌが目を覚ましあたしの頭をなでる。アームカバーが外れていることに気づいたのだろう。


「アリエル。ごめん。そうなんだ。私は自分で自分を愛せていないね。この世界が平和なら、ガント病で死んでもいいなと思っていた。今まで黙っていてごめん」


 雨が強くなってきた。あたしたちは雨宿りができそうな小屋の下に移動した。そこでエレーヌは、ずっと心に秘めていた思いを語り出した。


「あたしがこの病気に気づいたのは十歳の頃。たまたま受けた献血の血液検査で知った。当時は感染はしていても発症はしないキャリアの段階だった」

「え、それって」

「そう、飛び級の試験を受けたすぐあとだよ」


 そんな昔からエレーヌはこの病気と闘っていたのだ。裕福な家庭に生まれ、成績も優秀で、誰からも愛されていたエレーヌ。そんな彼女にも悩みはあったのだ。


「ごく最近まで病気の進行も穏かだったから、このままいけるかなって思ってた。

でも今頃になって急にきつくなってきて」

「どうして誰にも言わなかったの」

「誰にも言わなかったわけじゃない。読心術を会得しているキラは知っているよ。もちろん、口止めしてあるけどね」


 それにしたってエレーヌは馬鹿だ。いつまでも発症しないキャリアの状態を保てるわけがない。


「あたし、ローズドメリアに行って、もう一度ユキノハナ草、取ってくる!」

「無理だよ。今、あの国は内戦中だ。とても治安が悪くて行かせられない」

「それでも行く!」

「アリエル、だめだ」


 エレーヌの必死の制止にあって、あたしはアダンのことを思い浮かべた。


「じゃあ、友達に頼んでみる。この前の出張で知り合ったの」


 アダンならきっと頼まれてくれる気がした。それが無理でも、きっといいアドバイスをくれるだろう。


「わかった。でもその友達にも無理はさせないでよ」


 私が頷くと、エレーヌはほほ笑んで、またゆっくりと眠りに落ちていった。今まで相当無理をしていたんだろう。


 それから、あたしは災害対策班本部にインコ電話で、エレーヌが体調不良を起こしたため、現地には一人で行くこと、エレーヌは帰りにあたしが拾って帰ることに同意してもらった。かなり冷たい反応だったが、あたしは極力気にしないことにした。


 これ以上、エレーヌに能力は使ってほしくない。余計に体力を消耗する。そして、同じくインコ電話でキラに同じように連絡した。インコは眠たいのか、不機嫌だ。「今日はちょっと電話多いよ」とキレぎみだ。ごめん、ごめん。明日は少し控えるから。


 事情を聞いたキラは、ショックはショックのようだが意外と冷静だった。


「そうか。それほどに悪化していたか」

「そのようです。悪化したのはごく最近と言っていました」

「本人が今はまだ初期だし、ぎりぎりまでやります、というから本人の意向を尊重していたんだが、私の判断ミスだったかもしれん。すまない」

「いえ、そんな」

 あたしは、キラのユキノハナ草の存在について話した。キラはその話を興味深そうに聞いていた。

「そうか。そんな花があるとはなあ。期待して待っているよ。もう誰一人としてメンバーを失うのはいやなんだ」

 キラの悲しげな声にあたしは神妙に頷くしかなかった。

「はい」

 

 あたしは、エレーヌを置いて北部沿岸地域へ急いだ。向かい風が強いが、体力にはまだ余裕がある。しばらく行くと、海らしきものが見えてきた。そこだけ朝日を浴びて光っている。


 しかし、その海の色は不気味な灰色をしていた。さらに近付くと、高さが十数メートルはあるだろう、大きな波が、今まさに沿岸部の町をのみ込むところだった。多くの車や建物が流されていく。なかには当然人もいた。衝撃的な光景にあたしは声が出ない。心臓がドクドクとすごい音を立てる。


 何もできない自分がもどかしかった。せめて、できることをしようと思い、インコ電話を本部にかける。インコは「えー、またあ」と明らかに迷惑そうな顔をしたが、今度は無視した。こっちだって仕事なのだ。


「こちら、第5連隊偵察隊、北部沿岸部に到着しました。たった今津波が発生したところです。沿岸部は壊滅的な状況です。大きな波が海岸を越えて住宅まで達しています」

「こちら、災害対策班本部。了解。高台の開けた場所で、第5連隊が拠点とできそうな場所を探して至急連絡せよ」


 あくまで事務的な対応にカチンと来る。目の前で人が流されているのに、安全な場所を探して連絡しろ、だと。目の前の助けを求める人より、自分たちの保身が先か。そう考えると怒りが爆発しそうになる。出発前にキラが言っていたのは、こういう事態に備えてのことだったのか。あたしはこぶしをにぎりしめながら、高台を探した。


 第5連隊の人数は三十人。それぞれ馬に乗って来る。運搬用の馬車もある。人も馬も馬車も全部入れて、活動できる場所といったら、山の上に立つ学校か施設みたいなところしか思い浮かばない。あたしは海岸部からなるべく近い高台の広い場所を探すことにした。


 しばらく飛んでいると、丘のような場所がみえてきた。丘の上は広い高台になっている。ここなら二、三百人は裕に入るだろう。丘の頂上に至る道には沢山の人々が列をなしている。しかし、どれほど人が押し寄せようと、ここならきっと三十人と馬くらいならなんとかなるだろう。


 そう思って、無線を手に取ろうとしたその時だった。丘の反対側は海に面した崖になっている。そこに必死にしがみついている人影が見えた。子どもだろうか、背丈はそれほど高くない。あたしはそこへ飛んで行ってみた。近づいてみると、やはり子どもだった。少年のようだ。


「助けて!」


 あたしは慌てて少年の手を取った。そして、小脇に抱えて崖の上に上げてあげた。


「釣りをしてたら、大津波警報が来て、怖かった」


 少年の腕はまだ震えていた。あたしは持っていたタオルを少年の肩にかけてあげた。


 インコ電話で高台を見つけたと連絡すると、連絡が遅いと一喝された。事情を話せばまた怒られそうなのでやめておいた。二時間ほどすると第5連隊もやってきた。それまでのあいだあたしは、さっきの子どものように助けを求める人はいないか見て回った。


 さきほどの連絡で本部からは現場で待機とのお達しがあったが、今の状況でそんなことはしていられない。実際、現地の状況はひどいものだった。電柱を抱きしめて震える人や建物の屋上で足首まで水に浸かりながら空を見上げる人々、馬車の荷台の上に上がっている人、挙げればきりがない。あたしは救助が必要な人を見つける度に、一人ひとり抱えて安全な高台へと運んだ。インコが電話だというので出ると、第5連隊の隊長からだった。


「今到着したが、なぜ現場で待機しない? 本部から連絡があったはずだが」

「人命救助を優先しただけです」

「ふ。お前一人でできることなどたかがしれている。それよりこちらの命令に従え。いいな」

 ぎりぎり歯ぎしりするほど悔しかったけど、あたしはしぶしぶ返事をした。

「はい」

「まったくこれだから、浄化班との仕事は嫌なんだよ」


 吐き捨てるように言われて、あたしはキラの言葉をまた思い出した。プライドを捨てて、忠実に任務に当たること。自分の置かれた立場が心底嫌になる。でも、今はそれしかないようだ。それからあたしは、災害対策班のメンバーたちに金魚のふんのようについて回った。


 彼らの後方支援があたしの役割だ。他の災害対策班の女性たちと一緒に、水分補給のための水を確保したり、炊き出しの準備にしばらく追われた。あたしはエレーヌのことが気がかりだったので、隊長にかけあって早引きさせてもらった。隊長は苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、あたしは思いっきり無視してやった。知るか、あんなやつ。


 精神的にも肉体的にも強烈に疲れていたが、あたしは高速で飛んでエレーヌの元へ向かった。道すがら、災害対策班の活躍ぶりが見えた。災害対策班は火と水と風を自在に操る能力者たちの集団だ。まず馬車が通れるように土砂で埋まった道を、風圧や水圧で吹き飛ばす。


 それでも取り除けないものは、火で燃やしてから水で消火する。そして建物の屋上や家のなかに閉じ込められた人々を人力で救助する。怪我をしている人には応急処置をして、馬車で救護所へ運ぶ。破壊しては助け、破壊しては助けの連続技だ。浄化班とはまったく発想が逆だった。もちろん、人に対して危害を与えないよう注意を払っているのだろうけど。


――なんていうか野蛮。ついてけない世界。

 それがあたしの本音だった。


 しばらく飛んで、エレーヌを避難させた小屋を見つけて急降下する。エレーヌの元に駆け寄ろうとするとそこにはすでに数人の人がいた。数人の子供たちと保護者らしき女性だ。あたしは思わず近づいて声をかける。


「あの、あなた方は」

「この子たちがここに病人がいるっていうから、飲み物と食事を持って駆けつけたのよ。あなたはこの子のお仲間?」

「はい。そうです。今ちょうど迎えにきたところで」

「そう。なら安心ね」


 女性と子供たちは帰っていった。あたしはお礼を言って深深と頭を下げた。自分たちもおそらく地震で大変な思いをしているだろうに。実際、公園の周辺の住宅もかなりの被害を受けていた。


「エレーヌ、大丈夫?」

「ああ、うん。ちょうど水がほしいと思っていたところだったから、子供らが見つけてくれて助かったよ」

「うん。よかったね」


 エレーヌの横には、パンと水が置かれていた。水が入ったコップは半分ほど減っている。

エレーヌがパンを食べ終わるのを待って、あたしはエレーヌを背負い、空へ飛び出した。


「重くてごめんね、アリエル。任務はどうだった?」

「疲れたなんてもんじゃないよ。隊長には開口一番怒鳴られるし」

状況を話すとエレーヌは笑った。

「あはは。アリエルらしいね」

「災害対策班は、軍隊出身の人が多いからね。そりゃもう厳しい縦社会で命令は絶対なんだよ」

「ふーん」


 飛び始めて半分の道のりまで来たところで、体力が切れてきた。さすがに、エレーヌをおんぶしての連続飛行はきつい。エレーヌに心配はかけたくないのに、全然平気っていう顔をしていたいのに、自然と息が切れてきてしまう。


「アリエル、私のせいでかなり疲れてきてるね。少し休もう。私も自力で飛ぶから」


 あたしはここで休んだら、もう飛べない気がした。できれば一気に休憩をはさまず帰りたい。それにエレーヌに今自力で飛ばせたくない。体に負担がかかりずぎる。


「大丈夫。あと少しだから」


 そう言った自分にすぐ後悔することになった。とにかく息が切れる。体がふらつく。ベルヴォル山での悪夢がよみがえる。あのときのような失神した挙句の急落下は避けたい。エレーヌがいるせいで、いつもの定位置から頭の上に移動しているあたしのインコまでもが本気で心配して言う。「アリエル。だめだ、助けよぶ。電話かけるから命令を出せ」


 ねぼすけのインコに心配されるなんて心外だ。あたしは意地でも飛び続けようと思った。


 そのとき、遠くに人影が見えた。あれは鳥じゃない、確かに人だ。さらに近付いてきてぼんやり人影が見えてきた。ラスとシンだ。


「キラに言われて来てみたぜ」とラス。

「大丈夫か、エレーヌ」と優しく声をかけてくれるのはシンだ。


 そう言いながら、空中で布を広げる二人。あたしは彼らが何をしているのか分からなかった。そして、帯のようなものを4人に繋がるように結ぶ。


「これ、どうするの」


 あたしが聞くと、二人は笑った。シンが言う。


「これは空飛ぶ絨毯さ。さ、エレーヌこのまま布の先端につかまって。エレーヌを中心にしてアリエルも」


 あたしは言われるがままにした。布の上に、左から順番にあたし、エレーヌ、シン、ラスと続く。


「よし、じゃあ、飛ぶぜ。Ready, set, go!」


 ラスがキラそっくりの口調で合図すると、あたしたちは空中に静止した状態から再び飛行を始めた。確かにこのほうが簡単に飛べる。エレーヌの体重を三人で分散できるからだろう。


「よし、作戦成功!」と言ってラスは豪快に笑う。

「もしかして、これやってみるの今が初めてとか?」

 あたしがおそるおそる聞くとシンは満面の笑みで頷いた。

「うん。うまくいったでしょ」


 いやいや、まあ、なんとかなったからいいようなもの、もし失敗したらどうなってたのさ。ため息をついて隣を見ると、エレーヌが歯を食いしばっているのが見えた。


「エレーヌは飛ぼうとしちゃだめだよ」

「あはは」

「あはは、じゃないよ、もう」

「そうだぞ」とラス。

「僕らもいるんだから、心配ご無用」とシン。

 あたしたちは夕焼けを右に見ながら、南に向かった。仲間がいるってなんかいいな、とぼんやり思った。


 あたしは、セントラル・シティに入ったところでシンとラスにお礼を言って、再びエレーヌをおんぶするとエレーヌを自宅まで送り届けた。エレーヌはさすがに体力が切れたのか、あたしの背中ですやすや寝ていた。エレーヌの母親、ミレナは驚いた様子だ。


「エレーヌに何があったの?」

「エレーヌもガント病だったんです。それを今まで黙っていてこんなことに」

「まさか、そんな」


 ミレナは信じられない様子だ。あたしは、こんなことになるまで病気のことを家族に言わなかったエレーヌの精神力の方が信じられない。


「まずは、エレーヌを休ませてあげたいんです」


 あたしは、エレーヌをおんぶしたまま、エレーヌの部屋に向かった。エレーヌを起こさぬようそっとエレーヌの天蓋付きの立派なベッドに寝かせる。


「おばさん、ちょっとこれを見てもらえますか」


 あたしの後ろで見守っていたミレナに、エレーヌの腕を見せると、耐えかねたようにエレーヌの父親、ヘンリーの胸に顔を押しあてて泣き出した。こうしてみると、ヘンリーは、エレーヌがあんなに心配していたけど、無事だったのだ。愛情深いエレーヌ、父親より、まずは自分の病気のことを気にかけるべきだろうに。


あたしは今にもユキノハナ草をもう一度採ってきますと言いたかったが、ぐっとこらえた。不確定なことを今は言わない方がいい。万一だめだった場合にがっかりさせたくない。あたしはお茶でもと引きとめるミレナの誘いを断って、エレーヌの家を出た。


まだまだ続きます。

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