第十三話 異変
祝アリエル入隊。これからも地球のために頑張って!
その夜、あたしは久しぶりに安心してベッドに入った。ここのところ、ずっと自分が本当にプロジェクト・カルムに入隊していいものか、ずっと悩んできた。けれど、キラからやっと入隊の許可が降り胸のつかえがすっと、とれた感じだった。あたしは、よかったー、と心の中で万歳しながら、ものの三秒で眠りに落ちていった。
なんだか遠くで、ゴーっと音がする。そう思って目が覚めた。夢かと思ったけど、目を開けて体を起こしても、やっぱりゴーっと、轟音のような音がするので、ママの寝室に行ってみた。ママも気になったらしく、眠い目をゴシゴシこすりながら、起き出すところだった。
「あれ、アリエル。起きてるの。なんか音するよね、何の音だろね」
そう言って、居間に歩いていったので、あたしもついていった。胸騒ぎがする。ママがペリカンを起こし、国営放送をつけた。二十四時間やっているのでありがたい。
でも次の瞬間、そこに映った映像で、あたしもママも凍りついた。そして、ママはペリカンを脇に抱え大慌てで外に飛び出した。その画面に出た映像は、地震で倒壊したビルや道路だった。そとに出ると町じゅうにサイレンが鳴り響いている。この町にも大地震が五分後に来ると、国営放送は伝えていた。
「どこに逃げる?」
外では大勢の人がパジャマ姿のままごったかえしている。こんな光景はいまだかつて見たことがない。「早く逃げろ」、「荷物はいいから」、「火の元は見たか」といった怒号があちこちから聞こえるので、あたしも、ついつい大声になる。
「とりあえずシェルター!」
ママが叫びながら、後ろも見ずに全速力で走るので、あたしも必死であとを追った。財布を持って出ればよかったと思ったが、もうあとの祭りだ。インコだけは、肩にちゃんとつかまってくれていたので、いざというときも安心だ。
シェルターは、万一のときのために、市が寄付を募って作った立派なものだ。市内に三十か所近くあると聞いたことがある。一つのシェルター当たり三百人は入る。あたしたちは一番近いシェルターを目指して走った。そしてシェルターの入り口に飛びこむと後ろからもどんどん人が入ってくる。
あたしたちは押されるように、シェルターの奥へ奥へと押しやられた。全力で走ってきたので、気管はもちろん肺の奥のほうまで痛い。あたしはぜいぜいと荒い息を繰り返した。ママはあたしよりいくぶん冷静だ。辺りを見回して落ち着ける場所はないか探している。そして、人気の少ない一角を見つけると、あたしの肩を抱いて歩き始めた。
もう少しで座れると思った、そのときだった。突然、大きな揺れがきた。立っていることができず、思わず二人でしゃがみこむ。無意識に頭を手で覆ったけど、考えてみればここはシェルターだから、上から落ちてくるものはないのだった。強い縦揺れが長い間続く。しっかり口を閉じていないと舌を噛みそうだ。
「すごいのが来たね」
揺れが収まって、ママがぽつりと言う。あたしは呆然として、かえす言葉も出ない。
「そうか。こんな大きな地震は初めてだね、アリエルは」
しばらくして、また地面が大きく揺れた。今度は長い横揺れだった。あんまりにも長く続くので、船酔いしたみたいに気分が悪くなってきた。揺れが止まっても、まだ体が揺れているような感覚が治らない。
放心状態のまま、しばらくその場に座りこんでじっとしていると、インコが電話ですと言う。キラからだった。
「私だ。出動命令だ。浄化班はこれから災害対策班と合流する。スタッフルームに来い」
そういえば、プロジェクト・カルムは浄化班だけではないんだった。まだどきどきする心臓をなんとかなだめながら、立ちあがる。
「ママ、ちょっと行ってくる」
母はとても驚いた様子だ。
「ええっ、こんなときにどこへ行くの」
「ちょっと、そこまで」
あたしが冗談めかしてそう言うと、ママは、少し悲しげな顔をして、それから気を取り直したように、茶目っけたっぷりに言った。
「気をつけてね、プロジェクト・カルムのメンバーさん」
ママはママなりに心配だろうけど、今そんなことは言っていられないといった心境なのだろう。昨日の夜、正式なメンバーになったよ、と言ったときのママの顔は忘れられない。うれしいような悲しいような顔をしていたっけ。
あたしはもう、国家公務員なのだ。一時的に自分の安全を確保したら、次はアリストメリア国民のために働かなくてはならない。出口に向かって歩いていくと、避難してきた人たちが口ぐちに声をかけてくる。
「お嬢さん、まだ外は危ないよ」
「こんなときにどこへ」
「もう一度揺れが来るかもしれないから、もう少しここにいたら」
その度にあたしは、昨日、キラからもらったプロジェクト・カルム浄化班のバッチを見せた。すると、人々はすぐ納得して頭を下げてくる。握手を求めてくる人さえいた。
「頼んだよ」
そう声をかけられて、そうか、あたしは人に頼られる立場になったんだと改めて思った。そう思うとなんとなく、心にずしっときた。初めての大地震に呆然としている場合じゃない。あたしがしっかりしなくては。
出口から飛び立つと、眼下に暗闇のなかで火災を起こしている建物がいくつも見えた。災害対策班は、これをこれからどう処理するのだろう。
まだまだ続きます!




