第十二話 キラの八重歯
キラの厳しくも優しいキャラ設定は、結構すらすらと書けて気に入ってます。
目覚めの悪い朝だったけど、久しぶりに大規模な山火事が発生したというので、浄化班のグループに混ぜてもらい、出動した。この十人での任務は初めての経験だ。過去十五回のエレーヌとの活動実績を見て、キラがあたしも混ざることを許可してくれたのだった。もうすぐ試用期間も切れるのでギリギリのタイミングだ。ミスはできない。
緊張気味のあたしの隣で、エレーヌはただほほ笑んでいる。この許可もエレーヌのキラへの事前交渉があったに違いないのだ。エレーヌは絶対にそんなこと言わないけど。
火災現場に着いた。リハーサルどおりに、エレーヌの左隣に陣取り、あたしも円陣に加わる。キラの声がかかる。
「じゃあ、いくよ。せーの!」
円陣の真ん中に青白い炎が現れたかと思うと、いっきに巨大化する。今回のあたしの炎を大きくするタイミングは、ほんのわずか遅れたけど、ほぼどんぴしゃだったと思う。
「いいね、いい感じ。じゃあ、みんな行くよ。Ready, set, go!」
キラの緊張感あふれる掛け声で十人が一斉に手を振り上げ、巨大な炎を森のなかへ投げつけた。山火事の炎が一瞬で静まっていく。そして辺りは黒から緑に、一瞬でその色を変化させた。何度見てもその様は圧巻だ。あたしは思わず息をのんだ。
焼け残りがないか、見回っていると、メンバーのラスとシンが声をかけてくる。
「アリエル、デビューおめでとう」
確か、この黄色い髪の人はシンだ。
「9人のときより、えらく軽かったぜ、ありがとな」
長身で黒髪で、がっちり体育会系の体型のこの人は、確かラス。制服来てて分かんないけど、この人の腹筋は確実に割れていると思う。
「あ、ありがとう」
シンはいつも笑顔で物腰柔らかだ。
「これからもその調子でよろしく!」
「よろしくね」
二人はあたしと交互にがっちり握手するとまた見回りに戻っていった。なんとか今日は無事に仕事ができたらしい。あたしは心から安堵した。
スタッフルームに戻るとキラに呼ばれた。もうすでにキラのデスクの横にエレーヌもいる。
「アリエル、君を正式にプロジェクト・カルムのメンバーに迎える。健闘を祈る」
キラはそう言って、握手を求めてきた。あたしは慌ててその手を握り返す。
「よかったね、アリエル」
エレーヌが嬉しそうに拍手すると、ほかのメンバーも立ちあがって一斉に拍手してくれる。あたしはなんだか恥ずかしかった。こんなことされるのは、いつぶりのことだろう。
「アリエル、プロジェクト・カルムの入隊条件二つ目を覚えてるか?」
キラは相好を崩さず、入隊試験のときと同じ目をして言った。
「はい。人間性です」
「そうだ。エレーヌと行動を共にすることで、だいぶ磨かれてきたようだが、まだ不安定さが残る。それは技術面も同様」
あちゃー、この人はぜーんぶお見通し。初めての十人態勢でうまくいったと思ったのに、ほんのわずか、あたしが出遅れたのを、この人はきっと気づいている。うーん、イメトレの、手がすっぽ抜けた感じが現実になってしまった。
「これからも修行に励めよ」
そう言って、キラはニヤッと笑った。そのとき、上唇の下左右に斜め下にとがった歯が一本ずつ見えた。
「キラって八重歯なんだ」
あたしは思わず呟いてしまった。猫の犬歯みたいでかわいい。キラは慌てて口を押さえる。
「私は自分の八重歯が嫌いだ。気にしていることを。しかも、呼び捨て。サブリーダーのエレーヌでさえ、リーダーと呼ぶんだぞ」
「ああ、こりゃ大物が入ったね、リーダー」
ラスがニヤニヤと笑う。そのやり取りを聞いていたほかのメンバーもくすくすと笑っている。
「あ、えと、すみません」
あたしは一人頭をかいた。もしかして、八重歯がバレるのが嫌だから、今まで笑わないようにわざと厳しい顔してたのかも。そう思うと、なんだかおかしい。あたしは頬の筋肉を上げないようにどうにかこらえるのに必死になった。
まだまだ続きます!




