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スプリーム☆シャイン!  作者: 丸山梓
10/21

第十話 ついに能力開花?

頑張ってますねー、アリエル。ローズドメリア最高峰に登頂、そのまま帰国、エレーヌの家に直行ですから。このまま、息切れしないで頑張ってほしいところです。

 エレーヌの家の立派な門の前に立ち、思い切ってチャイムを鳴らす。沈んでいく夕日と夕焼けが路地の向こうに見えた。運がよければ、もうエレーヌも仕事を終えて帰ってきているだろう。


 この家に来るのも相当久しぶりだ。十歳くらいまでは遊びに来たりもしていたのだが、エレーヌが飛び級してしまってからは、全くと言っていいほど来なくなった。それにしても豪邸だ。門からはきれいに整えられた庭しか見えない。それもそのはず、エレーヌの父親ヘンリーは、国営放送の社長なのだから。


「はい、どちらさま」


 出て来たのは、エレーヌの母親、ミレナだった。いくつになっても清楚な雰囲気の人だ。無造作に着ているエプロンすら清楚だ。


「あら、アリエルじゃない。久しぶりねえ。元気だった?」

 エプロンの後ろから、ミレナの足にしがみついてカイトが顔を出す。


「はい、まあ、なんとか。あの、エレーヌは?」

「ああ、帰ってきてますよ。エレーヌ、お客さんよー」

「はーい」


 階段を下りてきたエレーヌを見て、なんだか少し痩せたような気がした。そして、両手には、白いアームカバーをしている。あたしがそのアームカバーをいぶかしげに見ていると、エレーヌは言う。


「このあいだの山火事でちょっと怪我したの。それだけ」

「ふーん」


 いつも完璧な仕事をするエレーヌにしては珍しいことだ。あたしは特に気にかけず、本題に入った。


「ねえ、ユキノハナ草って知ってる?」


 あたしが早速、玄関先でバッグから昨日採ったばかりのユキノハナ草を取り出すと、エレーヌとミレナは、目を丸くした。


「え、それってローズドメリア国の秘境に咲くっていうアレ?」

「そう。知ってるなら話は早い。これ、カイトにあげる」


 ミレナとエレーヌは二人で肩を抱き合って、喜んだ。二人の目には涙が浮かぶ。


「いいの!? ほんとに、ほんとにいいの? どうやって手に入れたの?」


 あたしが今までの経緯を話すと二人は驚いていた。居間にあげてもらい、カイトに土だらけのユキノハナ草きれいに洗って、花びらを食べさせる。きっと新鮮なほうが効果も高いだろう。


「ねえ、アリエル。飛べたんなら、もう浄化の能力も完璧に使いこなせるんじゃない?」


 カイトが花びらを手づかみで口へ運び、むしゃむしゃごっくんとするのを見つめながらも、エレーヌは言う。あたしはへ? と一時的に思考が停止した。出張中はローズドメリアのアクアポニクス・センターを軌道に乗せて、どうにか自力でユキノハナ草を採取することしか頭になかった。


「あはは。無我夢中ですっかり忘れていたんだね。アリエルらしい」

「なっ、失礼ね」

「アリエルは昔から変わらないね。いつも何かに一直線」

「あたしは、どうせ単細胞だよ」


 エレーヌはくすっと笑いながら、居間を出ていき、何かを抱えて戻ってきた。それは茶色い野兎だった。足に包帯を巻いている。


「昨日の山火事のとき、見つけたんだ。右足をひどくやけどしてて、走れなさそうだったから保護した」


 目の大きな、毛並のいい大柄の兎だ。山火事ではさぞ怖い思いをしたことだろう。


「この子、治せる?」

「え? あたしが?」


 エレーヌは当然とばかりに頷く。


「うん。明日私が治そうかと思ってたけど、ちょうどよかった」


 正直、自信ないなと思ってしまう。浄化の能力開花のため、今まで試みてきたのは、植物ばかり。それも小さな葉っぱとか。いきなりこんな体格のいい兎を一人で治せるだろうか。


「まあ、ここは私たちしかいないし、失敗しても大丈夫だよ」


 カイトは庭に遊びに行き、ミレナは台所にお茶を入れに行っていた。エレーヌは、あたしの戸惑いなど気にとめない様子で、兎の足に巻かれた包帯を解く。赤くただれた患部が痛々しい。


「うーん、わかった」


 あたしは迷った挙句、やってみることにした。深呼吸をして、両手に意識を集中する。すると数秒で、思ったよりも大きな青白い炎、スプリームブルーが出て、あたしはあせった。今までにない大きさだ。


 強い風が両手に吹き付け、顔にも届いて前髪も舞い上がる。あまりの威力に、あたしはコントロールを失いかけ、スプリームシャインは大きくなったり小さくなったり、突然消えてまた現れたりする。


「だいじょうぶ、そのまま続けて」


 エレーヌの落ち着いた声で、どうにか平静を保つことができた。両手のひらの間に生まれたサッカーボール大の炎の大きさを維持したまま、今度は兎に意識を向ける。両手をそうっとテーブルに置かれた兎の右足に向けると、青白い光、スプリームブルーは、キラキラと患部に吸い込まれるように消えていった。


 しばらくすると兎はやけどなどなかったかのようにぴょんぴょん辺りを跳ね回る。あたしは、情けないことにそこでまた意識を失った。エレーヌの「やったね!」という、らしくない、はずんだ声が遠くで聞こえた。


 気がつくと、見慣れない天井が見えた。いや、天井というよりこれは天蓋付きベッドだ。ああ、ここはエレーヌの部屋だ。ほんとに久しぶりだな。そんなことを思いながら、体を起こすとそこにエレーヌの姿はなかった。


――あたし、昨日から能力を使いすぎたんだ。


 そういえば、体があちこち痛い。飛びすぎたせいで背筋も腹筋も痛いし、アンタレ湖湖畔で落ちたときの全身打撲もまだ治ってない。というより目先のことに追われて、自分の体のことはすっかり忘れていた。


「気がついた? 疲れていたのに無理させてごめん。配慮が足りなかった」


 エレーヌが入ってきて、紅茶をベッド横のテーブルに置いてくれる。


「いや。自分でもこんなに疲れてるとは思ってなくて。それよりあたし、どれくらい寝てたの」

「二時間くらいかな」

 来た時は夕方だったのに、外を見るともう真っ暗だった。

「やば。帰らなくちゃ」


 きっと母も心配している。がばっと起きようとしたが、全身に痛みが走って無理だった。特に兎を治療した両腕が痛い。思わず顔をしかめてしまう。


「私も最初の頃、飛びすぎるとよくそうなったよ。無理しないで横になって」


 エレーヌに言われてあたしはしぶしぶ体を起こすことを諦めた。すると、あたしの体にエレーヌが手をかざしている。


「いいって。いいって」


 あたしは断ったけど、エレーヌはほほ笑んで、首を横に降る。ユキノハナ草のお礼、ということなのだろうか。エレーヌは目を閉じ、思い切り深く集中しているのが分かった。そして、はっと息を強く吐き出したのと一緒に、あたしは自分の体が一瞬、真っ青な光、スプリームブルーに包まれたのが分かった。


 体全体がじわっと熱くなり、そしてだんだんとその熱が冷めていく。どんどん体が軽くなるのが分かる。こめかみ、肩、腕、太もも、ふくらはぎ、そこらじゅうに広がっていた痛みも取れていく。


「これでだいじょうぶ。飛ぶのもそうだけど、浄化の能力も結構体力を消耗するから、慣れるまでは気をつけて」

「う、うん。ありが、とお」

 なんだか調子が狂ってしまう。親切なエレーヌにどう接したらいいのかわからない。


「ね、アリエル、プロジェクト・カルムに入って。みんなに紹介する。今のアリエルの能力なら絶対入れるから」

「うーん、そうかもしれないけど、でも」


 センター長になんて説明したら。それにアクアポニクス・センターの仕事もそれなりに気に入っていた。


「仕事のこともあるし、ちょっと考えさせて」


 あたしは、あそこで働き続けたかった。センター長には沢山の恩がある。急には無理かもしれないけど、少しずつでも返していきたい。


 あたしは、夕食を食べていけばという誘いを断って、エレーヌの家を出た。驚くほど体が軽い。それにアリストメリアの風は、ローズドメリアと違って、適度に暖かく、砂ぼこりもなく、本当に気持ちいい。ようやく、アリストメリアにいるんだっていう実感が湧いてきた。


 あたしはこれからどうするべきなんだろうか。ローズドメリアに行くまでは、自分の能力をもっと高めることしか考えてなかった。浄化の能力がもっと使えるようになったら、このひどい劣等感から自由になれるだろうと。とにかく自分のことばかりだった。


 でも、実際に行ってみたら、ローズドメリアで現地の人のために知恵を絞ったり、エレーヌの弟、カイトのためにユキノハナ草を採取する方法を考えて、実行に移したりすることの方が大事になってしまっていた。


――純粋に他人のために頑張ったのって、これが初めてだったかもしれない。


 実際に能力を使えるようになっても、あたしは別にあたしだった。特に前と何も変わらない。ただ自分のことはさておき、人のためになれたことは嬉しかった。よく分からないけど、これが自分に自信がついたってことなんだろうか。


 家に帰ると母が、ごちそうを作って待っていてくれていた。あたしは、ローズドメリアの砂漠地帯がいかに乾燥していて最悪だったか、現地のスタッフがサニーレタスを見たことがなかったことなどを延々と話し続け、ママを笑わせた。


「それで、肝心の浄化の能力はどうなったの」

 真剣な表情のママに、あたしはそうだったな、と思う。

「まあ、成功ってとこかな」

 ママの顔がほころぶ。まったくすぐ顔に出る人だ。


「へえ。今度ママもやってもらお」

「すんごい疲れるからやだよ」

「一度くらいいいじゃない、けち」


 むくれるママを見て笑いながら、今日も平和だな、と思った。そういえばベルヴォル山から無事帰れたのって、あの女の人のおかげだった。あの人がいなければ今の平和はない。あの人の助けがなければ、ママは今頃、あたしの遺体の前で泣いていたかもしれないんだ。


「どうしたの真剣な表情して」

 大豆のコロッケをほおばりながら、ママは言う。


「あのね、ママは巫女さんだから話すんだけど、笑わないで聞いてね。あたし山の神様に助けてもらったの。あの助けがなければ多分あたしあそこで死んでいた」


 ママが詳しく聞きたがったので、あたしはそのときの状況を逐一話した。ママはコロッケを持っていた箸を一旦、テーブルに置き、じっとあたしの話を聞いていた。真ん中にエメラルドの石が入ったティアラをした長い髪の女性、と言ったところでママの動きが完全に止まった。


 そして神殿でのママのように、両手を組んで額に当て、祈りの言葉を捧げ始める。そして、最後に「ミストレイアスさま、お守り下さりどうもありがとうございます」と言って深く頭を下げた。



 大地の神ミストレイアスさまはこの地球全体を統べる大地の神様だ。


 確かにあの女性は、ベルヴォル山の神様ですかと聞いたらただほほ笑んだだけだった。山の神様なんかじゃなくもっとすごい神様だったのか。なんかちょっと失礼なこと言っちゃったかも。


「とんでもない方に助けられたわねえ。ママは明日も出勤したらお礼を言うわ。あんたも時間のあるときでいいから、セントラルセイクリッドに参拝しなさい」

 

えー、あそこ、お香のにおいがきついからいやだよ、と内心思いつつも、あたしは神妙に頷いた。ミストレイアスさま、理由は分からないけど生かしてくれたことに感謝します。


 翌朝、出勤するとセンター長に呼ばれた。あたしは、自分から出張報告に行くつもりだったので少し面食らった。センター長は会議室に入って振り向くなり、険しい顔をあたしに向ける。


「君は、僕に黙ってユキノハナ草を採取に行ったそうだね」


 頭のなかがパニックになる。誰がセンター長にその話をしたのだろう。やっぱりブランデルさんかな。ブランデルさんとセンター長は旧知の仲だ。


「は、はい」

 あたしは、余計な弁解をせず素直に認めた。センター長は、そんなあたしの態度を見て、険しい顔から一転してにこっと笑った。


「いや、昨日の夜、エレーヌから電話があったんだよ」

「エレーヌから?」

 あたしは、心のなかでブランデルさんに謝った。疑ってごめんなさい。


「ああ。君はエレーヌの弟さんのために命をかけてユキノハナ草を採りに行ったそうだね。別に止めはしないから、ぼくにも少し相談してほしかったけどね。多少の知識ならあったからね」


 センター長は少し悔しそうに言う。よかった。そのことで怒ってるわけじゃないみたいだ。


「す、すみません」

「まあ、終わったことだし、それはいいんだ。弟さんの病状もこれで少しずつよくなっていくだろう。それは本当に素晴らしいことだと思う。エレーヌの電話の本題はね、そこじゃなくて」


 あたしは首を傾げる。

「え、そのことじゃなく?」

「プロジェクト・カルムに君を下さい、という話だったんだ」

「え」

「君はここにいなかったから、当然知らないと思うが、この前の山火事で、プロジェクト・カルムのメンバーが一人亡くなった」

「まさか」


 あの精鋭部隊にそんなことが起こるとは考えもしなかった。息ぴったりの連携プレー。巨大なスプリームボール。それでもやはりプロジェクト・カルムの仕事は死と隣り合わせの危険な仕事なのだ。


「エレーヌがサブリーダーを務める浄化班では今、欠員が出たまま9人で処理にあたっている。私としては君という優秀な人材を手放したくはないところだがねえ、状況が状況だしねえ」


 センター長は、いきなりあたしの手をとった。あたしの両手を包み込むようにそっと握る。


「おめでとう、アリエル。いや、ほんとうにおめでとう。私の施設からプロジェクト・カルムのメンバーが生まれるなんて、こんなに名誉な、うれしいことはない」

 

 あたしはその言葉に面食らった。えらく先走るなあ、今日のセンター長は。


「いやいや、センター長、あたしはまだ行くなんて言ってませんよ。エレーヌにも少し考えさせてほしいと」

「お、そうだったか。いやでもねえ、もう採用しちゃったし、こちらも」

「えっ」

「なんとなくそんな気がしてたんだよね。出張に行く前から、君の浄化の能力、今にも花開きそうだったし。だからね、新人君を一人、もう雇っちゃったんだよ。ね、だから、安心して行っておいで」


 あたしはそれを聞いて、なあんだ、と思う。あたしが決断する前からもう周りは動いていて、気づいたら進むべき道は一つになっている。急にさみしい気持ちになった。


「そんな顔しないで。また、いつでも遊びにおいで。なんなら収穫作業を手伝ってもらってもいいし。君が顔を見せればピラルクもきっと喜ぶだろう」

 あたしは大いに戸惑いながらも頷いた。

「はい。来るなって言われても来ます」

 最後の方は涙声になってしまった。いやだな、こんな湿っぽいの好きじゃないのに。


 涙をふいて会議室を出ると、今度はシンシアが待っていた。


「アリエル、ここをクビになるって本当?」


 それを聞いてあたしは思わず、ずっこけそうになる。


「ク、クビじゃないよ~。ただ辞めるだけ。誰がそんなこと言ったの」

「なんとなくセンター長の様子を見てたら、そんな気がしただけ。いきなり新人さんが入ってきたりしてさ、なんかもうびっくりし通しだよ」

「ふうん。ね、新人さんってどんな人?」

「うーん、一つ下の男の子だけどね、可愛い顔で金髪の天然パーマ。でもよく気がつくし、よく動くし、とにかくいい子だよ」

「へええ」


 なんか特徴が誰かに似ているなーと思ってしまう。え、まさかね。


「名前は?」

「アデルくんだって」

「ふうん」


 やっぱり、アダンなわけないよね、とあたしは一人納得して、スタッフルームに入った。


「あ、先輩、おはようございます」

「おはよー」


 と、適当に返事をして、その顔を見て驚いた。やっぱりその顔はアダンだった。

「え、これってどういうこと? あなたはアダンじゃないの?」

「アダンは僕の兄です。兄にここを紹介されて来ました」


 そうかあ、アダンはブランデルさんの部下だし、ブランデルさんはセンター長の友達だ。ありえない話じゃない。ブランデルさんは、国内にアクアポニクスの技術者をもっともっと養成したいのかもしれない。


「そう、頑張ってね」


 あたしは、今月いっぱいで退職だ。それまでに彼にできうる限りを叩きこんで辞めたいと思った。とは言っても、もうあたしがいない間に大抵のことは学習してしまってあたしにできることはほとんどないのかもしれないけれど。


 仕事の合間を見て、ピラルクに会いに行った。相変わらず、ゆらゆらと水中を泳ぐその姿は優美だ。あたしはその姿にしばらく見とれていた。さて、仕事に戻ろうと振り返ったとき、すぐ後ろにアデルがいて、あたしは驚いた。


「ピラルク、好きなんですね。僕も好きですよ」

「ああ、この子はあたしが持ち込んだ子だから特にね、思い入れがあるの」

 

 まっすぐあたしを見つめるアデルの瞳は、アダンみたいにちゃめっけたっぷりではないけど、でも少し面影があって、アダンはあたしに自分のこと、忘れてほしくなくてアデルをよこしたのかもしれないなあ、とつい感傷的なことを思ってしまった。っていうより思いあがりかな、こんなこと思うの。


 アデルは、急にあたしに近付いてくると水槽とアデルの体であたしを挟むようにして、水槽に片手をついた。


「ちょっと、なにするの!」

「ふうん。これがアダンの好きになった人か。悪くないね」


 そう言ってあたしの顔ギリギリまで顔を近づけてくる。アダンそっくりの顔に一瞬どきっとする。でもこの人はアダンじゃない。アダンならこんなことしない。


「やめてよ」


 あたしがアデルを両手で突き飛ばすと、アデルは数メートル後ろに吹っ飛んで尻持ちをついた。そういえば、ローズドメリアに行ってから体力仕事ばっかりだった。それでえらく腕力がついてしまったのかも。


 いててて、とお尻をさするアデルに私は一言。

「十年早いわ」

「は、はい。出直して来ます」

 なんだ、素直なところもあるんじゃないの。


 その日、帰ってみると案の定アダンからメールが来ていた。ペリカンが口を開いて文面を見せてくれる。


アリエルへ

 今日、出勤して驚いたでしょう。僕もこんなにうまくいくと思わなかったのだけど、本人があっさり了承してくれたので、アデルにそっちで頑張ってもらうことにしました。できることなら、僕自身が行きたかったのだけど、ブランデルさんの側近としての仕事がまだまだ残っているので、残念です。

 少々、女好きなのが、玉に傷だけど仕事は一生懸命やる、いいやつです。どうか、よろしくお願いします。

 

 あたしは、アダンのメールを読んで笑ってしまった。アダンの最大の誤算は、あたしのアクアポニクス・センターでの勤務が今月いっぱいだ、ということだろう。アデルを見て自分を思い出してほしいと思ったのかもしれないけど。まあ、無理もないか。あたしだってこんなことになるとは思いもしなかった。


 でももしかすると、それはあたしの自意識過剰もいいところで、そんな感傷的なこと、アダンは全く考えていないという可能性もありうる。だとしたら赤っ恥をかくのはあたしだ。あたしは返信メールに下手なことは書かないで、無難にまとめよう、と思った。簡単に三行書いて送信すると、ペリカンが「もう、いいんですか。いやあ、ママと違って話が分かるなあ」と感慨深げに言う。毎日ママに酷使されて、よっぽどうんざりしているのだろう。

まだまだ続きます。ちょうどこれで半分くらいかなあ、と思います。

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