俺と加美さん
「ようこそ天国の入り口へ」
目の前の女性は俺にそう言った。
さっきまで俺は病院の集中治療室で手術を受けていた。
バイクで事故って瀕死の重傷だった。
こんなパルテノン神殿みたいなところに搬送されたはずはない。
「あんた、誰?」
「私は神です」
「加美さん、かぁ」
堀が深い顔立ちなので外国人だと思っていたが、どうやら日本人のようだ。
とするとここは日本のどこかのテーマパーク。
さっきから周囲を飛び回っている天使も俺の頭の上に浮いている金の輪っかもよくできたギミックに違いない。
「天国」と形容されるほど面白いアトラクションなのだろう。
「死亡した原因は?」
「志望した原因か?」
このアトラクションに参加しようと思った理由だろうか。
しかし気づいたらここにいたので答えようがない。
仕方ない、適当に答えておこう。
「えー……と、もともとここに来たかったんだよ」
「なるほど」
加美さんは懐から羊皮紙を取り出し、サラサラと走り書きをした。
ちらりと「自殺」という単語が見えた気がしたがきっと見間違いだろう。
「これからあなたは生まれ変わるわけですが何になりたいですか?」
「何になりたいかって?」
小学生のころ「将来の夢」というテーマで何になりたいか作文を書いたことがある。
その頃から俺の夢は変わっていない。
「もちろん世界を救う勇者様だぜ!」
「ただいま勇者は満員となっております」
「あらら。そうなの?」
俺の他にも同じことを考えるやつがいるとは。
RPGだって勇者は人気だものな。
「現在空いているのは……」
加美さんは羊皮紙をめくった。
「そうですね、メイドなんでいかがでしょう」
「メイド?」
「家政婦、女中、奉公人。他人の家に住み込んで家事をする女性のことです」
「ふーん、よく分からんけど面白そうじゃん」
「それでは、メイドで決定ですか?」
「おう」
「それでは転生の儀を行います」
加美さんが手をかざすと俺の体が白い光に包まれた。
やっとアトラクションが始まるらしい。
「新しい世界では楽しいこと困難なこと多々あるでしょう。お気をつけて」
加美さんの言葉を最後に俺の意識は光の中に沈んでいった。