密林に現れた魔狼Ⅰ
この小説を開いていただきありがとうございます。
作者のはやぶさじんと申します。
まずはこの小説を開いていただいたこと。
改めて感謝申し上げます。
文才の自信は・・・ですが
精一杯考え、精一杯書いていこうと思います。
応援して頂けたら幸いです。
カンカンと日照る太陽の光を生い茂る木草が遮り、地面は水分を放出できずぬかるんでいる。
生い茂る木々は風をも遮り、ジメジメとした湿度が肌にまとわりつく。
そして、40℃近い気温が苛立ちに拍車をかける。
彼は熱帯雨林を舐めていた。
「くそったれな環境だ。」
額の汗を拭いながら簡易片眼望遠鏡を覗き込む青年は呟く。
青年の名は"シーゼット・リアレン"
青年はこの地方では珍しい黒髪を目にかかるくらいまで伸ばしたことを後悔していた。
おかげで暑さが過度に感じている。
余計に暑くなっているのは髪だけが原因ではない。
彼が身にまとっている軍服は通気性が悪く、発汗性も良くない。
熱帯雨林とは相性が悪すぎる。
1時間。そろそろ交代の時間か。
このくそったれな環境下で目標を探し始めて1時間が経過した。
仲間が掴んだ情報からすると目標は必ずこの地点を通っていくはずだ。
「シーゼット、交代の時間。」
後ろから若い女の声で呼びかけられた。
この声は"イヴ・レイシュバッツ"のものだ。
シーゼット「おぅ、あと少しだけ視させてくれ。」
言いながら振り返ると
そこには腰までまっすぐ伸びた金色の後ろ髪。
前髪を銀のピンでとめている細身の少女がいた。
彼女は澄んだ水色の瞳でシーゼットを見つめながら答えた。
イヴ「私は構わない。」
イヴはもの静かで必要以上の口をきかない。
そのせいもあり、不思議な雰囲気をまとっている。
シーゼット「暑いな。」
イヴ「・・・」
イヴは答えない。
が、シーゼットにはわかる。
シーゼットは望遠鏡から目を離し、イヴのほうへ目を向けた。
顔色一つ変えず、暑さを感じていないように見えるが、額や首を見るとじわりと汗が出ていた。
シーゼットに見られていると気づいたイヴがシーゼットを見る。
その表情はまるで「別に熱くなんてないわ」と言っているように見えた
シーゼット「ぶっ、ははははははは。」
シーゼットはたまらず吹きだす。
イヴは人の顔を見て突然笑い出すシーゼットにムッとしたが、表情には出さなかった。
しかし、シーゼットにはその感情も筒抜けだった。
それがさらにシーゼットの笑いを盛り上げてしまう。
イヴ「なに?」
さすがに感情の混じった声がイヴから発せられた。
シーゼット「いや、やっぱりお前ってわかりやすいなって思ってな。」
イヴ「??」
なぜシーゼットは笑っているの?
イヴは怪訝な顔をしながら、首をかしげる。
笑いがおさまると、シーゼットはまた望遠鏡を覗き始めた。
まだ代わる気はないようだ。
望遠鏡から見える景色はひたすら木だ。
どこをかしくも見ても全く代わり映えのしない景色。
ひたすら、木、木、木、木、木、木・・・・・・・・・・・・・・・・・
また10分くらい経過した頃
珍しくイヴから口を開いた。
イヴ「ここから見える景色はそんなにいいの?」
シーゼットは内容に驚いたが、確かにここまで熱心に覗いていたらそう見えるのかもしれない。と納得した。
彼は望遠鏡を覗いたまま冗談交じりに答える。
彼女がそのまま受け取ってしまうことを知りながら。
シーゼット「ぷっ。あぁ、いいとも。」
イヴ「じゃあ、それを独占しているあなたは意地悪ね。」
お、ちょっと怒った。
おもしろがるシーゼットはさらにイヴをからかう。
シーゼット「はいはい、怒るなよ。今見せてやるから。そろそろ"この絶景"を誰かと共有したいと思っていた所だ。」
この絶景を、のところを強調しながらシーゼットは望遠鏡をイヴに渡した。
シーゼットには望遠鏡を手にしたイヴの表情がパァッと明るくなったように見えた。
それがまた、シーゼットを笑いに誘うのだった。
イヴはそんな事露知らず、望遠鏡を覗き始めった。
壮大で美しい景色を想像しながら・・・
しかし、イヴの目には想像していた景色は映らなかった。
見えるのはただの木。
ひたすら木だった。
イヴ「これが絶景?」
望遠鏡から目を離し、シーゼットを見るとおかしそうに笑いをこらえていた。
騙されたと気づいたイヴは望遠鏡をシーゼットの腹に強めに押し付けて戻っていった。
シーゼット「痛ぅ。ちょっとやりすぎたな。これは少し引きずりそうだ。さてと。そろそろ来てくれないと。いい加減このジャングルからオサラバしたいもんだ。」
再び望遠鏡を覗くと・・・
たまたま見ていた木々の中に一本の木が突然倒れ、そしてそこに狼を模して造られた機械が現れた。
BD-01 世界初戦闘用兵器として開発された獣器。《ウルフ》と名付けられた獣器だ。
10年前、ゲイゼル連邦国とナイツェルン帝国のアイレンの戦いでウルフが初参戦した。
ウルフはそれまでの戦闘の常識を覆した。
ウルフを開発したゲイゼル連邦国軍は高速機動を可能としたウルフに密接な連携をとらせ、わずか8機のウルフで5倍のナイツェルン帝国軍の兵力を翻弄し押し返すことに成功した。
ウルフの登場したこの戦いを期にゲイゼルはナイツェルンに反撃、報復を開始し、ナイツェルン帝国を落とした。
このままウルフを開発したゲイゼル連邦国が大陸のトップとなり、引っ張って行くかに思われた。
が、ゲイゼルに潜伏していたナイツェルンの生き残りの内偵がウルフの設計書などの情報を盗み、大陸中にこの情報を売りさばいた。
各国は急いでウルフを製造し、対ゲイゼル体制を整えた。
結果、10年後の現在。
ゲイゼルが大陸の主導権を取ることもなく、大陸中の国がウルフを後ろ盾ににらみ合っている。
なのでウルフ自体は珍しくはない。
大陸の国のほぼ全てが生産し、軍事活用している。
だが、現れたのはただのウルフではなかった。
通常ウルフはグレーの濃薄でカラーリングされている。
※森林地帯や砂漠では保護色の迷彩カラーに塗装される場合もある。
が、このウルフは特異だった。
白色の単色で塗装されたウルフ。
また、独特の改修がされていてウルフより格段に性能を上げていた。
これと対峙し、生き残ったものは少ない。
生き残った者はそろってこういうのだ。
「あれは狼なんかじゃない魔狼だ。化物だ。勝てるはずねぇんだ。」
そういって除隊し戦場を去っていく。
今では二つ名までついている。
《魔狼・フェンリスヴォルフ》
シーゼット「今回も随伴機はいないか。」
特徴は色だけでない。
この魔狼は狼の規格超えているのだ。
ウルフは単独戦闘には向いていない。
元々電撃戦のために合わせられ作られた獣器なため数で押すことを想定されているからだ。
通常8~16機で部隊を編成するのに対し
このフェンリスヴォルフはいつも単機で行動し、要所を突く遊撃を得意としている。
これがシーゼットたちが待っていたものだ。
シーゼットは望遠鏡を胸のポケットにしまうと、イヴが戻っていったほうへ走り出した。
1時間何もせずただひたすら望遠鏡を覗いていたせいで脚が固まったようで走りにくかったが、気に留めている暇はなかった。
前に歩いているイヴを見つけた。
雰囲気から察するにまだ怒っているようだが、今はゆっくりフォローする時間はない。
後ろから腕を掴み、走りながら引っ張った。
イヴ「・・・・・・・・・・・」
シーゼット「フェンリスヴォルフが来た。急ぐぞ!!」
イヴ「・・・・・・・・・・・」
イヴは何も言わずに走ってくれたが、その瞳はジッとシーゼットを捉えていた。
無言の圧力に耐え難かったシーゼットは頬を掻きながら
シーゼット「悪かった。任務が終わったらなんでもしてやるから。な?機嫌直せよ。」
すると、イヴの目が変わった。
イヴ「・・・じゃあ、帰ったら本買って。」
シーゼット「本なんかでいいのか?お前の嫌いな洗濯とか掃除でもいいんだぞ?」
イヴ「・・・・・・・・・・・」
一瞬また怒ったが、すぐに戻った。
むしろ一瞬口元が緩んだように見えた。
イヴ「・・いい。」
シーゼット「えっ?」
イヴ「本でいいよ。あなたが選ぶ本で。」
シーゼット「選ぶって俺本読まねぇからよくわかんねぇぞ。」
イヴはそれでも、と頷いた。
シーゼット「わかった。じゃあ、そのために生きて帰らないとな。」
イヴ「そうね。」
彼らが走った先には1機の獣器が鎮座していた。
BD-11 《ジャッカル》
ウルフより小柄だが、機動性は上がっている。
が、あまり戦闘向きの機体ではなく、主に偵察や隠密作戦の際に用いられる獣器だ。
特徴である先端に向けて尖っている大きな耳は広域無線を取ることを可能としている。
また、ウルフが3人乗りに対してジャッカルは4人乗りである。
ジャッカルの前に2人の人が立っていた。
1人はイブキ・キタザワ少尉。
白い肌、それを映えさせる長い深い紺色の髪と猫目が特徴で、ここの隊長だ。
担当は背部のコクピットで、索敵・策士揮官をしている。
以前はウルフの操縦席を担当したこともあったらしい。
もう1人はナルス・バレンティ曹長。
子供っぽい顔とそれをさらに際立たせる低い身長。
ブロンド色のくせっ毛が特徴。
担当は首部の広域通信士。
イブキ「お、来た来た。2人で帰ってきたってことは」
ナルス「魔狼の奴が来たって事だよねぇ。」
2人は一足先にコクピットから垂れる末端に足掛けのついたロープに足をかけ、位置調節可能の取っ手についているスイッチを入れた。
するとゆっくりロープが巻かれ彼らをコクピットへ持ち上げていく。
遅れてシーゼットとイブがやってきた。
シーゼットは2人と同じように登っていく。
シーゼットは頭部の操縦席が担当。
獣器の心臓、操縦者だ。
イヴは腹部にあるコクピットが担当なため3人のように登る必要はなかった。
コクピットを開き、乗り込む。
彼女の役割は、オペレーター。
自機の状況を操縦士に伝えたり、情報の処理を担当としている。
イヴは起動状況で全員が搭乗したことを確認すると
イヴ「イブキ隊長。全システムの起動を確認しました。問題はありません。」
イブキ「了解。いつでも行けるぞ、シーゼット。」
シーゼット「操手了解。目標地点まで移動する。」
シーゼットが左のハンドレバーをゆっくり押し込むと、座っていたジャッカルが腰を上げ、ゆっくり歩き出した。
ジャッカルの歩みを振動で感じながら、さらにレバーを押し込んでいく。
するとジャッカルの歩みは早くなっていき、最終的には大地を蹴るように駆けていた。
イズナ「ぬかるみにはハマるなよ。ハマった状態で魔狼に出くわせば即食いちぎられる。」
シーゼット「ハッ、俺がそんなミスするか。」
彼の操るジャッカルはぬかるんでいそうなところを避けながら颯爽と駆けていく。
イズナ「目標地点まであと500ってところだな。あと10秒もしないうちに着く。そこで身を隠せ。」
シーゼット「了か・・
ナルス「おい、嘘だろ!?イブキ!!」
ナルスが後ろから迫り来る何かに気がついた。
咄嗟にイブキに呼びかける。
ナルスの声にイブキは後ろを振り返ると・・・
イブキ「なっ!?シーゼット!!!後ろだ、回避!!!!!」
シーゼット「!!!」
イブキの声に危機を感じたシーゼットは、咄嗟に膝の間にある進行方向を操作する縦式レバーを弾くように左に倒し、すぐさま右のハンドレバーに持ち替える。
そして間髪入れずに左右のレバーを奥まで一気に押し込む。
するとジャッカルは瞬時に左斜め前へ跳んだ。
緊急回避行動。この間約1秒。
あと1秒遅れていればジャッカルは弾かれていただろう。
さっきまでいた場所にふた回りも大きな白い魔狼が飛びかかってきたのだ。
衝撃はぬかるんだ地面がもろに受け、大量の泥が弾け飛んだ。
「おぉ、避けた。」
シーゼット「ちぃ!」
シーゼットは緊急回避によって崩れた体勢を戻すため、着地時にジャッカルも前足だけ踏ん張らせた。
前足には負担がかかってしまうが、この勢いのまま魔狼の方へ向くにはこれしかない。
ガガガガガガッ
ジャッカルの前足が地面と摩擦する音と振動を感じながら前を見据える。
シーゼットの狙い通り、ジャッカルはフェンリスヴォルフを前方に捉えるように着地した。
不安は前足にかけた負荷によって損傷していないかだが・・・
シーゼット「イヴ!!前足のダメージは??」
イヴ「確認する。・・・大丈夫。ほとんどダメージは無いわ。」
シーゼット「そうか。」
ホッとするのはまだ早い。
奇襲を仕掛ける予定だったが、既に捕捉されてしまっている。
元々戦闘向きでないジャッカルと常から多勢を相手に単機で戦い、生き残ってきた魔狼とでは戦闘力が段違いだ。
ナルス「あいつ、僕たちの行動を気づいて裏をかいてきた!?」
魔狼がゆっくりこちらを振り向く。
「へぇ、やるじゃないか。なかなかの操手だ。」
魔狼を操る操手は楽しそうに呟く。
「けど、そんな狼もどきであたしらのフェンリスヴォルフに勝てるかな?」
シーゼット「確かにこれは畏怖を覚えちまうな。」
イヴ「シーゼット?」
シーゼット「心配すんな。負けるとは言ってない。」
勝てる算段もないけどな。
最後のは口には出さなかった。
シーゼット「帰って本を買いに行くんだろ?」
イヴ「・・・うん」
シーゼット「なら俺をしんじ・・
イヴ「あなたを信じるわ。だから勝って。」
シーゼットは握っているレバーをギュッと握り直し
シーゼット「任せろ!!」
言い切ると同時に左のレバーを押し込み、ジャッカルを魔狼に向けて全速で走らせた。