表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大英雄が無職で何が悪い  作者: 十文字青
sacrifice for liberty編
60/120

第59話 正妻



 鉄血王国でノール嵐を終息させるという大偉業をなしとげた俺は、惜しまれつつもイチカ、モモヒナ、ミリリュを従えてテムジンにまたがり、新天地を求めて旅に出た。


 出るつもりで、実際、出たんだが、なぜかハイネマリーまでくっついてきやがった。


「わはー……」


 問題のドワーフ娘は、気がつくと空を仰いだり遠くを眺めたりしてぼけーっとしている。休んでいても、歩いていてもそうだ。


「うなっ」


 ……で、何かにけつまずいてすっ転びそうになったりする。


「……大丈夫か。おまえ」

「だ、大丈夫だッ」

 ハイネマリーは、あはは、と笑ってみせて、

「すまない。見たことがないものばかりなので、つい。かのごときふつつかものゆえ、旦那様におかれましては、心配をおかけして申し訳ありませぬ」

「それ、やめろ」

「む? 何をやめればいいのだ?」

「旦那様っつーの」

「だ、だが、キサラギはハイネマリーを女にしてくれたッ」

「だからそれは……」


 俺は鞍上でため息をついた。あれは行き違いというか、正直からかっただけだと何度も説明したんだが、どういうわけかハイネマリーは理解しない。


「しょうがないんじゃない」

 イチカが、はっ、と笑った。

「あんたがやったことなんだから。ちゃんと責任とれば?」

「俺は何もやってねーよ」

「どうだか」

「何プリプリしてやがるんだ、おまえは」

「べつにプリプリなんかしてない」

「してるだろうが、明らかに」


「ぷりんぷりんっ」

 と、いきなりモモヒナがミリリュのオッパイをつついて、

「ぷりんぷりんっ。ぷりんっ。やははははー」

「ちょっ、モ、モモヒナさん、やめてくださいっ、そこは……っ」

「んー。どうしよっかなぁー。やめぇぇぇぇぇ……ないっ。ぷりんぷりんぷりんっ」

「きゃあっ。い、いけませんっ。そこは、キサラギ様にしか……っ」

「チッ」

 とイチカが舌打ちをした。


 柄、悪いぞ、おまえ。


「とにかくだな」

 俺は前髪をかきあげて、

「ハイネマリー。俺はおまえの旦那じゃねえ。女になるとかっつーのは俺にはよくわからねー概念だが、まあ何だ、そういう関係になるっつーのはようするにガキをこさえるようなことをするっつーことだろ」

「……ガキ?」

 ハイネマリーは顔を赤らめて下を向いた。

「そ、そうだ。ええと、ハイネマリーもよくわからないのだが……そういうことだと、思う。たぶん。そして、それはハイネマリーが夜這いをしたことによって、成功してしまったわけだが……」

「いや、成功してねーからな」

「えッ!?」

「言ってんだろうが。何回も何回も。あんなおまえ、お手とかおかわりとか回れとかやってガキなんかできたら、そのうちガキだらけになってガキであふれるぞ。いや、普通あんなことはしねーだろうから、そうでもねーか」

「で、で、でも……」

「でもじゃねえ。俺とおまえはなーんにもやってねーんだ。まっさらの状態だ。いいかげん納得しろ」

「ならば、ここでやる! 今やる! ハイネマリーは何をすればいい!?」


「はいまりは何するのかなあ?」

 モモヒナが目を輝かせてミリリュに尋ねた。

「そ、それは……」

 ミリリュは顔が少し赤い。

「な、なんと申しあげればよいのか……つ、つまり……しとねをともにするというか、なんというか……」

「うぉー。しとねって何?」

「しとねというのは……お布団のことです」

「ふとんをともにする? 一緒にねむねむするってことかなぁー」

「そ、そうです……ね。それだけでは、ないと思いますけど……」

「ほかには何するのー?」

「それは、ハイネマリーも知りたいッ!」

 ハイネマリーがミリリュに詰めよって、

「教えてくれ、エルフ! ハイネマリーはキサラギと一緒に寝て、それから何をどうすればいいのだッ!?」

「で、ですから、その……殿方の、ええと……ピーを……」

「ピーとは何だッ!?」

「ピ、ピーとは、ようするに……」

「わおーっ」

 意味がわかっているのかいないのか、モモヒナはやけにはしゃいでいる。

「ピーをピーするんだねっ。ピーピーピーだねっ。わほーっ」

「もう、やめて……!」

 イチカが頭を抱えて叫んだ。

「そんな話、しないで! そういうことするなら、こっそりやってよ! わたしは関わりたくない!」


 しん、と静まりかえった。


 俺にとってもどうでもいいことだし、じつはイチカと同意見だ。これで収まってくれるかと思ったら、ミリリュがイチカに向きなおって、えらく真剣な顔つきで、

「イチカさん。それはイチカさんの本心なのですか」

「……え?」

 イチカは気後れしたような顔をした。

「そ、そうだけど」

「本当に、本当?」

「……本当、だけど?」

「正直に申しあげますが、わたくしは」

 ミリリュはでかすぎるオッパイとオッパイの間に手を押しつけた。

「これまで遠慮してまいりました。何を遠慮してまいったのかまでお話ししなければわかりませんか」

「……わからない、けど」

「そうですか」

 ミリリュはなぜか悲しそうな表情を浮かべた。

「では、お話しします。わたくしは側妻そばめでよいと思っておりました。いいえ。側妻でさえなくてもいい。ただおそばにお仕えさせていただければそれで、それだけでよいと考えていたのです。なぜだかおわかりですか、イチカさん」

「……な、なんで……ていうか、ミリリュが何を言ってるのか、わたしには……」

「おわかりにならないのですか?」

「……わ、わから……」

「そうおっしゃるのでしたら、わたくしはもう遠慮いたしません」

「し、しなきゃいいでしょ」

 イチカは投げつけるみたいに視線を斜め下に向けて、唇だけ変に笑わせた。

「わけわかんないし。何のことだか、さっぱり」

「そういうことでしたら、わかりました」

 ミリリュは一礼すると、ハイネマリーに歩みよっていった。

「ハイネマリーさん」

「……お、おう」

 ハイネマリーはあとずさった。

 あのでかいオッパイを目の前に突きつけられたら、まあ、そうなるだろうな。

「な、何だ。どうしたのだ、エルフ。いきなり、あらたまって……」

「わたくしはここに宣言いたします」

「……宣言? な、何を……」


「キサラギ様は、あなたには渡しません」

 ミリリュは傲然とオッパイを突きだすようにしてハイネマリーを見おろした。

「わたくしがキサラギ様の妻になります」


 ハイネマリーは口をぽかんと開けて、

「なッ……」

「ちょっ……」

 とイチカが目を瞠った。

「うひょーっ」

 モモヒナは跳びあがった。


「や……待てッ」

 ハイネマリーは血相を変え、挑みかかるように背伸びをしてミリリュに顔を近づけた。

「そ、そんなことはッ! 認めぬぞッ! そうだ、認めてたまるものかッ! ハイネマリーはキサラギを夫にするッ! そのために、ハイネマリーは国を出てキサラギについてきたのだからなッ! 父さんも応援してくれているッ! 次に里帰りするときは、父さんに孫の顔を見せるときだッ! ハイネマリーはすでにそう決めているのだッ!」

「どうやって子供を作るのかも知らないくせに」

「く……ッ、そ、それは、それは……創意工夫でなんとか……ッ」

「せいぜいがんばってくださいませ。わたくしは何をどうすればいいのか存じておりますので、そんな無駄な努力は必要ありませんが」

「……追いつけ、追い越せなのだッ」

「ああ、それから、ドワーフと人間の間には子供ができづらいのですよ。ですが、エルフはそのようなことはありません。過去、人間族との混血は、エルフにとってめずらしいことではなかったのです。お父上にお孫さんをお見せするというあなたの夢は、可能か不可能かという点においてもなかなか困難そうですね」

「……そ、そんなものは、気合いで……ッ」

「気合いを入れてお手やおかわりをしたところで、子供はできませんよ?」

「くぅぅ……ッ、性悪エルフめ……ッ」

「性悪にでも何でもなります」

 ミリリュは一度、目を伏せて、きゅっと下唇を噛んだ。

「……キサラギ様の妻になるためならば。そのためなら、わたくしは何だって……」


「おい」

 俺は首を左右に曲げた。

「もういいかげん、そのへんにしとけ。行くぞ」


「……へ?」

 イチカがぎょっとしたような顔で俺を見た。

「行くぞって……この空気で、あんた、なんでそんな、平然と……」


「空気ィ?」

 俺は呆れて笑った。

「知るか、そんなもん。それより、忘れんじゃねーぞ。俺は絶賛旅の途中で、おまえらはそのお供なんだ。どうでもいいことで俺の旅を遅らせるんじゃねえ。置いてっちまうぞ」


「……ど、どうでもいい?」

 ミリリュの目が泳いでいる。

「ど、どうでもよい……ことなのですか? キサラギ様にとっては……」

「あったりめーだろうが。ツマだかツマミだかツバメだかソバメだか知らねーけどな。そんな煮ても焼いても食えなさそうなモノには興味ねーんだよ。だいたい、なんでおまえら、勝手に仲違いみてーなことしてやがるんだ? そんなことして、俺が喜ぶとでも思ってんのか? おまえらは俺を喜ばせたいのか? 不愉快にさせたいのか? どっちなんだ?」

「そ、それはもちろん! キサラギ様には喜んでいただきたいです……!」

「ハ、ハイネマリーだってそうだッ! キサラギには誰よりも何よりも、幸せでいてもらいたいッ!」

「うにぃー。あたしも、きさらぎっちょんがにこにこしてるほうが楽しいなー。いっちょんちょんはー?」

「え? わ、わたし……は……」

 イチカはうつむいて、胸をかきむしるように押さえた。

「……わたしは……べつに……とくに、そんな……キサラギがどうだろうと……そりゃあ、楽しいほうがいいに決まってるし、不幸せよりは、幸せのほうが……で、でも、それは一般論っていうか、みんなそうっていうか、と、友だち、だから……友だちにはそうあってほしい、みたいな……ただそれだけで……」

「何ごちゃごちゃ言ってんだ、おまえは」

 俺はため息をついた。

「おまえは俺のこと友だちだと思ってて、友だちには幸せでいてほしいんだろ。それでいいだろうが」

「……そうだけどっ!」

「まあ」

 俺はテムジンの馬腹を軽く蹴って進ませた。

「おまえのことを俺がどう思ってるかは、また別の問題だけどな」

「え……」

 イチカが、それってどういう……とか言っている声を背中で聞きながら、だから、と俺は思った。


 お供だって言わなかったか?

ラブコメは苦手です。><


感想、評価、レビューなどいただけますと、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ