第44話 キャッキャウフフ
「そろそろよさそうだな」
クソドワーフどもが完全にノール穴に突入してから、俺は悠然と行動を起こした。
「あいつらを追うぞ」
「はーい、先生っ!」
モモヒナは相変わらずいい返事だ。
「もし、ノールキングがいなかったら……」
イチカがぶつぶつ言っている。しかし、なんでそこまでネガティブになれるのかね。結果なんざ出てみなきゃわからねーんだから、心配したってしょうがねーっつーのに。
「大丈夫です、イチカさん」
ミリリュはそんなイチカの背中を撫でて慰めている。
「他ならぬキサラギ様の考えに、間違いなどあろうはずがありません。ノールキングは、必ずいます!」
「……ミリリュって、なんでそこまでキサラギのこと信じられるの?」
「なぜキサラギ様のことが信じられないのですか?」
ミリリュはきょとんとしている。話が噛みあいそうにねーな、この二人は。
「……くそッ! ハイネマリーはオズヴァンどのやジークベルンどのと一緒に、先陣を切りたかったのだッ! なぜ邪魔を……ッ! この唐変木めッ!」
娘に罵られても、ゴットヘルドはどこ吹く風といった様子だ。まあたぶん、言われ慣れてるんだろうな。
俺はゴットヘルドと、それからついでに悪人面のヴィーリッヒと目を見あわせた。ヴィーリッヒはどうもゴットヘルドの友だちみたいだから、何か通じあってる的な部分がありそうだ。多少はあてになるっぽいな。
こうして俺たちは、クソドワーフどもにつづいてノール穴の中へと足を踏み入れた。
中はすり潰されたようなノールの死骸だらけだ。ドワーフの死体は皆無じゃないが、ほとんどない。
クソドワーフどもの最後尾が見える。やつらの前進速度はそう速くない。狭ぇーしな。
間もなく追いつくと、後ろのクソドワーフどもを前のクソドワーフどもが押して、早く行け、いや自分を前に行かせろと喧嘩をおっぱじめていた。どうしようもねーやつらだ。まあ、止めて止まるようなものでもねーだろうし、とりあえず放っておきゃいい。それどころじゃなくなれば、クソドワーフどもも態度をあらためるだろう。
「おまえは策士だな、キサラギ」
と、唐突にゴットヘルドが言った。
「こいつらを肉の壁にする。そんな策、おれにはとても思いつかん」
「皮肉かよ」
「いや、違う。戦いとは、あるいはそんなものなのかもな」
「……おぬしが戦いを語るなどッ!」
すかさずハイネマリーが父親に突っかかった。だが、父親のほうは無視だ。
「何の犠牲も払わずに勝つことができればいい。そうもいかんのなら、何を犠牲に差しだすかだ。おれはそこで迷う」
「命があるではないかッ!」
ハイネマリーはあきらめていないようだ。つーか単純に、無視されてムキになってるのかもな。
「この命がッ! いつでも、いかようにでも使える我が身の命を犠牲にすればいい! それこそが漢の戦いなのだッ!」
ゴットヘルドは首を横に振ってみせただけだった。
やれやれ、だな。
ゴットヘルドにはどうしても犠牲にできない、したくない、大切なものがあるのだ。それなのに、よりにもよって大事な「それ」が、戦いのために自分の命を捨てたがっている。
「馬鹿につける薬はねーんだとよ」
俺が短く笑って言うと、ハイネマリーが詰めよってきた。
「どういう意味なのだッ!?」
「どうもこうもねーよ。そのまんまの意味だろ」
「このハイネマリーを愚弄するのかッ」
「べつに、おまえ限定で言ったわけじゃねーぞ。おまえのことは正直、馬鹿だと思ってるけどな」
「なッ……面と向かって、馬鹿とは……ッ」
「違うっつーんなら、賢くなってみせろ」
俺は両肩を軽く回して、銃を構えた。
クソドワーフどもの前進がぴたっと止まった。
最後尾のクソドワーフどもが、
「あ?」
「何だ!?」
「どうした!?」
「なんで進まねえ!?」
「ふざけてやがんのか!」
「ぶっ殺しちまうぞ!」
とかわめき散らしている。
ここからだと前のほうの様子はまったくわからないが、何かが起こっていることは間違いなさそうだ。
「別の道を通って先回りできるか」
俺が尋ねると、ヴィーリッヒがハッハッと笑って、ついてこい、というふうに腕を振ってみせた。引き返して、別の経路をたどるつもりのようだ。
俺たちはクソドワーフどもからこっそり離れてしばらく後戻りし、天井の高さが一・二、三メートルしかなさそうな支道の支道とも言うべきトンネルに入りこんだ。ドワーフは前屈みになれば通れるが、俺たち人間は中腰にならないといけなくて、わりと歩きづらい。
「イチカ」
「……何よ」
「平気か」
「な、何が?」
「いや。やっぱなんでもねえ」
「なんでもないって……そっちから言いだしといて……気になるじゃない」
「だろうな」
「え?」
「気にさせる遊びだからな」
「はあっ!? なんでそんなこと……っ」
「ちょっとした暇つぶしだろ」
「緊張感なさすぎ!」
「いっちょんちょん、いっちょんちょん」
「……何? モモヒナ」
「んとね、あのね、いっちょんちょんのおけつが、ぷりーんってなってるんだよ」
「やっ……!?」
「バーカ。言うなよ、モモヒナ。せっかくおもしれー感じになってたんだから」
「み、見てたわけ……!?」
「ちらっとな」
「ちらっとは見たんだ……!?」
「うっせーな。でけー声出すなよ。クソ狭ぇーんだから」
「……だめ。もう。わたし。なんか、大事なものが壊れちゃったみたいな気がする……」
「そんくらいで壊れちまうんだったら、たいして大事じゃなかったんだろ」
「壊したあんたが言わないで!」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ」
「あんたはどうせ気にしないでしょ、わたしに何を言われようがっ」
「気にしねーけどよ」
「してよっ! 少しくらいはっ!」
「めんどくせーやつだな」
「うふふ」
ミリリュが笑った。
「……なぜだッ」
ハイネマリーがなんか怒ってる。
「なぜそんなにキャッキャウフフしているのだッ、おぬしらは……ッ」
「ハイネマリーさんもしてみませんか。キャッキャウフフ」
「黙れ、エルフめッ! おぬしらのそばにいると、魂が汚れるッ! ナイス・漢がこのハイネマリーを呼んでいるのだッ! 漢ッ、漢ッ、ナイス・漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、漢ッ、うわあああああああぁぁぁ……ッ!」
ハイネマリーのやつ、何を発狂してやがるんだと思う反面、まあ結局、キャッキャウフフの一つや二つしたいお年頃なんだろうとも思う。俺はべつに楽しくはないが、ハイネマリーの目には楽しそうに映ってうらやましいのだろう。貧しそうだな、ドワーフの青春。
「近いぞ……!」
先頭のヴィーリッヒが叫んだ。
たしかに、前のほうが騒がしい。
「この先はホールだ」
とゴットヘルドが呟くように言った。
「ホール? 何だそりゃ」
俺が尋ねると、ゴットヘルドは、
「倉庫じゃないが、倉庫みたいに広くなっている場所だ。かつて倉庫だったか、これから倉庫になるのか。結局、ホールのままか」
「なるほどな。どっちにしても、突っこむな。様子を見てからだ」
ヴィーリッヒとハイネマリーはうずうずしているようだが、他は全員、うなずいてみせた。
でも、騒がしい、か。
それどころじゃねーな。
「うおおおおりゃあああああああ!」
「づおおおおおおあああああ!」
「がおらあああああああ!」
「どないせっちゅんじゃあああああああ!」
「ごんたくれこらあああああ!」
「うおっせええええい!」
「ぎいいやあああああああああああ!」
「どおっ!?」
ドワーフどもの声だけじゃない。
グシャッ。
ガッシャンッ。
ボガッ。
ドゥグッ。
すさまじい音も聞こえる。
もうすぐホールだ。
あと少し。
ヴィーリッヒがホールの手前で立ち止まった。
俺も止まって、ホールをのぞきこむ。
「うは……」
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