第29話 裸ニーソ
マカロォの店「スターダスト」で朝方まで飲んで、といっても俺は酒が嫌いなので酒量はさほどでもないが、またアルノートゥをぶらついてからミリリュの家に戻った。
俺にあてがわれた部屋のドアを開けると、なんでか知らないがモモヒナが魔法使いの服を脱いでいる最中だった。
「あ」
と俺が言うと、モモヒナが服を肩のところまで上げたままこっちを見て、
「ほ?」
「着替え中、か」
「だよー。昨日、お風呂入んないで、寝ちゃったからねー」
「そうか。なんかよくわかんねー理屈だけど」
「わかんないかー」
「まあな」
「そっかあ」
まあ、とりあえず脱ぐのをやめて着なおすんだろうなと思っていると、モモヒナはそうしなかった。
べろっと魔法使いの服を脱いでしまった。
モモヒナはもう、チチバンドとパンツ、それからオーバーニーソックスしか身につけていない。
下着姿に毛が生えたようなものだ。
しかも、モモヒナはチチバンドまで外そうとしている。
さすがの俺もこれには呆気にとられた。
「……ちょっと待て」
「にょ?」
「いや、にょ、じゃねーだろ。って、おい」
モモヒナはチチバンドを外した。
当然、オッパイがあらわになった。
そんなに大きくはない。
小振りだが、ふにゅっとした感じだ。
「……ふにゅって何だ」
「ふにゅ? おっぱいぱいのこと?」
モモヒナは自分のおっぱいを両手で持ちあげてみせた。
「はっ。ふにゅっとしてるかも。いっちょんちょんは、ぽいんっ、だし、みりりゅんはどかーんだけど。あたしは甘さひかえめかなあ」
「甘さは関係なくねーか」
「あははー。ゆわれてみたら、そだねー」
「……つーか、な」
「ふゅ?」
モモヒナはパンツまで脱ごうとしている。
俺はとりあえず部屋の中に入ってドアを閉めた。ドア開けっ放しってのはちょっとまずいだろう。でも、俺が部屋の中にいるのはどうなんだ? モモヒナは平気そうだけどな。なんで平気なんだ、こいつ。
「よーいしょっと!」
脱いだし。
パンツまで。
残るはオーバーニーソックスだけだし。
モモヒナはベッドに腰を下ろして、さらにそのオーバーニーソックスも脱ごうとしている。
「モモヒナ」
「何ー?」
「念のために訊いとっけど」
「うん」
「俺、後ろ向いたりとかしてたほうがいいか?」
「なんでー?」
「……なんでだろうな」
「すぐ終わるよー」
「そうか」
「だよー。ん、しょっと。あー。脱げないなあ。くつした。きついきつい。どうしよ。そーだっ。きさらぎっちょん、くつした、引っぱってー」
「俺が? 引っぱんのか?」
「うん。やだ?」
「……べつに、いやじゃねーけど」
いいのか、これ。
頼まれてるんだし、いいか。
俺はオーバーニーソックスの爪先の部分をつまんで引っぱってみたが、なかなかうまく脱げてくれない。
「だめだろ、これじゃ。こう……何だ。くるくるっと、上のほうからやってかねーと」
「やってやってー」
「うーむ……」
まあ、いいか。
オーバーニーソックスは膝の少し上くらいのところでくしゃくしゃっとなっている。俺はそこに指を突っこんだ。
ふと視線を上げると、モモヒナの股間が目に入った。
まばたきをして、さらに上を見る。
少しぷにっとした腹。
ふにゅっとした感じの、やわらかそうなオッパイ。
そして、目があった。
モモヒナは急に頬を染めた。
「うにゃー。なんか、恥ずかしいよお」
「……今さらか? おまえ、恥ずかしがるポイントがずれてんぞ」
「そーなん?」
「だいたい……」
言いかけて、俺は口をつぐんだ。
ドアが開いたからだ。
「モモヒナ、朝ご……」
イチカだった。
「わぁー。いっちょんちょんだー」
モモヒナがにっこり笑った。
イチカは焦点の定まらない目で部屋全体をとらえて、それからモモヒナを見つめて、次いで俺を凝視した。
口が、ぽかん、と開いたままだ。
「……え……何? え……っ? な、何して……え? どういう……え? え……?」
「何って」
俺はモモヒナのオーバーニーソックスを少しずり下ろしてみせた。
「俺は、ニーソを脱がせようと」
「もっ! モモヒナを裸にしてっ、何するつもりなのっ、しばらくぶりに帰ってきたかと思ったら、な、何考えてるのっ!? 何してるわけ!?」
「いやだから、言ってんだろうが。俺はただ、脱がそうとしてただけで」
「脱がしてどうするつもりっ!?」
「脱がすだけだっつーの」
「そんなわけないでしょ!? 子供じゃないんだから、脱がすだけとかっ! 卑猥な目的があるに決まってるじゃないっ!」
「ねーよ。そんなもん」
「言い訳するんだ!?」
「言い訳じゃねーっつーの」
「堂々としてるとこだけは、取り柄だと思ってたのにっ!」
「取り柄かどうかは知らねーけど、今も堂々とはしてんだろ。俺は逃げも隠れもしねーよ」
「逃げも隠れもしないで変態行為に及ぶってわけ!?」
「なんでモモヒナのニーソ脱ぐの手伝おうとしただけで、そこまで言われなきゃなんねーんだ」
「……信じられない。もう、知らないっ!」
イチカは勢いよくドアを閉めて、どこかへ行った。
「何なんだ、あいつ」
俺がため息をつくと、モモヒナは人差し指をくわえて、
「ふぉー。いっちょんちょん、どしてぷんすかしてたかなー」
「俺が知るかよ。脱がすぞ、ニーソ」
「はぁーい」
俺はモモヒナのオーバーニーソックスを脱がしてやった。
モモヒナは全裸でぴょんぴょん跳ねていって、衣装棚から替えの下着と靴下をとりだした。
「ニーソじゃねーのか」
「その長いのはねー。二個しかなくって、一個は洗ってるんだなー」
「ふーん」
「そっちのほうがいいかな?」
「俺の好みだけどな」
「そっかー。きさらぎっちょんが好きなら、もっと集めないとだね。いしょっと」
モモヒナはパンツをはいて、チチバンドをつけはじめた。
背中に回した紐を結ぼうとしているが、上手に結べないようだ。
「んー……うまくつけれない。きさらぎっちょん、手伝って?」
「いいけど、一人のときはどうしてんだ、それ」
「んとね、一人ではつけれないからね、いっちょんちょんとかにやってもらうよ」
「俺がこなかったら、一人だっただろ。どうするつもりだったんだよ」
「わかんない」
「……ったく」
俺が紐をきつめに結んでやると、モモヒナはくるっと回って、
「じゃーん。でっきあがりー」
「服を着ろ。服を。つーかおまえ、平気なのか。俺に裸とか見られて。それとも、誰にでもそうやって見せんのかよ」
モモヒナはいきなり頬をぷうっとふくらませた。
「見せないもんっ。きさらぎっちょんも、ときたまバカなこと言うなあー」
「いや、だっておまえ」
「きさらぎっちょんだから、いーかなって思ったの!」
「はあ……? 何だ、そりゃ。なんで俺だったらいいんだよ」
「ほむ?」
モモヒナは思いっきり首をかしげて、
「わかんない」
俺はもう一度ため息をついて、舌打ちをした。
「早く服、着ろ」
「うんっ!」
「しょーもねえ……」
着替えるモモヒナをしりめに、俺はベッドに寝転んだ。
目をつぶってだらっとしていると、モモヒナがすぐ隣に身を横たえる気配がした。
「ねー。きさらぎっちょん」
「あ? 何だ」
「だいじょーぶ?」
俺は寝返りを打って、モモヒナに背を向けた。
「あったりめーだろ。俺を誰だと思ってやがるんだ」
「きさらぎっちょんじゃないの?」
「ぎっちょんはいらねーよ……」
「きさらぎんぎん?」
「俺がそんなにギラギラしてるように見えるか?」
「キラキラはしてるかなあ」
「まあ、大英雄様だからな。言ってみりゃあ、スターだしな」
「そだねー」
「明日」
俺はそう言った瞬間、決心した。
「明日、アルノートゥを発つぞ」
「おーっ」
モモヒナが突然、俺の背中に抱きついてきた。
「うっししーっ。旅だちだねー。あたし、旅は好きだなー。知らないとこ行くと、どきどきするもん」
旅、か。
俺はちょっとだけ笑った。
「そうだな」
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