表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大英雄が無職で何が悪い  作者: 十文字青
Soul Collector編
27/120

第26話 吠え面



「……あー。食ったな」


 腹を叩いてみると、妊娠しているみたいに膨れていてパンパンだ。


「大丈夫ですか?」

 ミリリュがちょっと眉をひそめて、気づかわしげに俺の顔を見おろしている。

「んー。どうだかな」

「だっ、大丈夫ではないのですかっ!? わ、わたくしはどうすればっ……」

「いや大丈夫だけどな」

「……よかったです」

「どう見たってただの食いすぎだろ。大丈夫に決まってんじゃねーか」

「他ならぬキサラギ様ですから、心配なのです」

 ミリリュはえらく真剣な表情でそう言いながら、俺の頭をそっと撫でたり髪の毛を指で梳いたりしている。

 俺は、ふん、と鼻を鳴らして、

「そうかよ。まあ、心配でも何でも勝手にしてろ。ただし、迷惑にならねー範囲でな」

「かしこまりました」

 ミリリュはにっこり笑ってうなずいてみせた。


 ちなみに、俺はミリリュの家の俺たちのために用意された寝室のベッドの上にいる。

 もう少し詳しく言うと、やたらとでかいベッドの上で、俺はミリリュに膝枕されている。

 どうしてもそうしたい、是非ともそうさせてくれ、とミリリュが言って聞かないもんだから、しょうがなく膝枕させてやることにしたのだ。


 モモヒナはさっきベッドから転がり落ちて、そのまま床で眠っている。

 イチカはベッドの端のほうで丸くなって寝息を立てている。


 部屋の明かりは光るキノコを詰めた籠が一つ、カバーをめくってあるだけだから、そこそこ暗い。



 あのあと、イチカは光の奇跡を使ってぶっ倒れた。

 魔法は完全ではなくて、俺は完治しなかったが、すぐには死なない程度までなんとか回復した。おかげでどこもかしこもメタクソ痛くて、何もかもいやになってしまいそうだった。

 そうはいっても死にそうにはなかったし、イチカは意識不明だし、モモヒナは騒ぐばかりでミリリュはおろおろしっぱなしだったから、自分でどうにかするしかない。

 自力でどうにかするのはさすがに無理があったので、俺はミリリュを落ちつかせてアルノートゥから呪医を連れてこさせた。ところが、その呪医がよりにもよってあの高慢ちきなアリャレアだった。俺は、やっぱこのまま死ぬかもな、と思ったりもしたが、やつは意外にもちゃんと俺を治療してくれた。それから、テムジンも。


「なんでだよ」

 と尋ねたら、アリャレアはいやそうな表情で、

「わたしを誰とお思いなのかしら」

 と答えた。

「この程度の傷を癒やせなかったとなれば、ランドゥロワル家の名折れだわ。そもそも、相手があなたのような下劣な人間であろうと、ドワーフであろうと、救える者は救う。それが呪医たる者の務めであり、誇りなのよ。下賤な人間風情には理解できないでしょうけれど。それにしても……」

 アリャレアはキマイラの屍をちらっと見て、

「まさか祓禍の儀を成し遂げるなんて。ミリリュさんだけの力でなしえることだとは思えないわ。あのリーリヤ様でさえ、独力では不可能だったと言われているのだから。あなたたち、いったい何者なの」

 俺は、単なる大英雄様とその家来だ、と教えてやった。

 アリャレアは変な顔をしていた。


 それから俺たちは、魔法力を使い果たして昏睡状態に陥っていたイチカをテムジンに乗せて、アルノートゥに帰った。

 俺たちがキマイラを倒したという話はすでに広まっていて、大勢のエルフが俺たちを出迎えた。

 その中にはもちろん、ミリリュの父親もいた。

 俺の予言は当たった。

 父親は駆けよってきて、人目もはばかることなくミリリュを抱きしめた。その目には涙が浮かんでいた。な? 言っただろ。吠え面かかせてやるって、な。笑い物にしてやってもよかったが、やめておいた。ミリリュが嬉しそうだったしな。まあ、勘弁してやるさ。


 そして、あまりにも俺たちの帰りが早かったもので準備もそこそこに、勝利を祝う宴が始まった。

 俺はその宴でエルフの新たな面を見た。

 エルフたちも四六時中しゃちほこばったり偉ぶったりしているわけじゃなくて、羽目を外すこともあるのだ。

 老いも若きも、陽気に飲み、歌い、笑い、語らい、踊る。

 それに、エルフも様々だ。中には、俺たちの武勇伝を聞きたがったり、肩を組んできたりするやつもいた。数少ない若い男のエルフたちは、とりわけ俺たちに好意的だった。女エルフはたいていお高くとまっているが、それでも俺に薬草酒を飲ませようとしたり、途中で目を覚ましたイチカやモモヒナを踊りに誘ったりするやつもいた。

 ミリリュは今回の大手柄でだいぶ評価を上げたようだった。少なくとも、表だってミリリュを馬鹿にするような態度をとるエルフはいなかった。エルフ体形じゃないエルフも多少はいるようで、そいつらがミリリュを囲んで「健康的なエルフの会」とやらの結成について話しあうという一幕もあった。ただまあ、「健康的なエルフ」の中でもミリリュのオッパイはダントツだったけどな。



 そのオッパイが、俺のすぐ上にある。

 ちょっと頭を持ちあげたら、額にむちっとふれそうだ。


「なあ、ミリリュ」

「はい、キサラギ様」

「オッパイさわらせろ」

「えっ……」

 ミリリュは目をぱちぱちさせて、少し身をかがめた。

「で、では……どうぞ」

「ん……」


 誰がオッパイで俺の顔を覆えと言った。


 苦しいってほどでもねーし、いいか。


 俺はしばらくそのままでいた。


 心地いいっちゃーいいけど、なんかアホみてーだな。


「……もういい」

「えっ。よ、よいのですか。これだけ……で?」

「これ以上、何しろっつーんだよ」

「あっ、そ、それはっ、き、キサラギ様が望まれることでしたら、何なりと……」

「いいっつってんだろ」

「は、はい……」


 ミリリュは何か言いたそうにしている。

 言いたいことがあるなら言えばいいのに、口を開こうとしない。


 俺はため息をついた。

「おまえ、これからどうするつもりだ」

「……どう、とおっしゃいますと?」

「おまえはエルフだ。メルキュリアン家の跡継ぎだろ」

「そう、ですが」

「俺とイチカとモモヒナは違う。あたりまえだけどな」

「わたくしは……っ」

 ミリリュは俺の両頬を掌で包むようにさわって、きゅっ、と一度、唇を引き結んだ。

「……わたくしは、キサラギ様にお仕えしています。それは、これからも変わりません。ご迷惑……でしょうか……?」

「迷惑だったら、追い払ってる」

 俺は目をつぶった。

「疲れた。寝る」

「はい」


 どうやら俺は瞬時に眠りに落ちたらしい。


 目が覚めると、俺は横向きになってミリリュに抱きしめられていた。

 ミリリュは俺の頭を抱えこむようにしている。俺の顔はミリリュのオッパイにほとんど埋もれていて、ちょっと息苦しいほどだ。

 おまえな……と言おうとして、やめた。

 呼吸を乱すな。

 俺はまだ、寝ている。

 眠っていることにしろ。

 寝たふりだ。

 そうしろ、そうしなきゃだめだと、何かが俺に告げている。


 耳を澄ます。

 何も聞こえない。

 静かだ。

 でも、気配がする。


 いる。

 何かが。


 俺の後ろに。


 ベッドのすぐそばに。


 ただいるだけじゃない。それだったら、こんな感じはしないはずだ。こんな感じ? どんな感じだ?


 心臓に氷がふれているような。

 冷たくて、やばい。


 そいつが……何者かはわからないが、俺の後ろにいるやつが、すっ、と息を吸いこむような音が、本当にかすかに、だが、聞こえたような気がした。


「っ……!」

 俺はミリリュごと転がった。枕を手にとって投げつける。

 やつは無言で枕を斬った。

 剣だ。

 やつは剣を持っている。


 明かりはついたままだ。部屋の中は真っ暗じゃない。

 やつは黒ずくめで、目だけ出してるような恰好をしているから、やっぱり正体は不明だ。人間みたいな形をしているということくらいしか。

 みたいな。

 あくまで、みたいな、だ。人間じゃない。腕。

 腕が四本ある。


『……追っ手だ……』

 俺の脳裏に、ある言葉が蘇った。

『不死族の……気を、つけろ……きっと、取り返しに……』

 死の間際に、サジという名の男が残した言葉が。


 やつがその持っている、剣。


 赤銅色の剣身。


「ソウルコレクター……!?」


 やつは口をきかない。無言で斬りかかってこようとする。果たして、俺はかわすことができただろうか。

 とにかく結果として、かわす必要はなかった。


「はちょーっ!」


 モモヒナだ。

 いつ目を覚ましたのか知らないが、モモヒナがやつにスライディングタックルを仕掛けた。

 やつは、ひょいっ、と跳んでよけたが、モモヒナはもう次の攻撃に移っている。

 キック。キック。キック。

 鬼のような連続キックで、やつは回避に専念している。

 が……、


「モモヒナ、気をつけろ! そいつが持ってるのはソウルコレクターだ! やられたら死ぬぞ!」

「うみゃーっ!」

 モモヒナは即座に跳び下がり、杖を手にとって構えた。


 やつは、どうするのか。


 あとずさりした。


「モクテキワ、ハタシタ」


 低い、しゃがれた、やつの声……なのか?

 そうしてやつは、笑った。

 顔を隠しているからよくわからないが、たぶん笑ったんじゃないかと思う。


「お……っ」

 俺はやつを呼び止めようとした。

 そんなことしたって、無意味なのに。


 やつは身をひるがえした。

 素早い。

 ドアは三分の一くらい開いていた。

 部屋から出てゆく。

 ドアが閉まった。


「どけ、ミリリュ!」

 まだ眠っていて半分俺に絡みついているミリリュを押しのけ、ベッドから飛び降りた。

 モモヒナは先にやつを追いかけていて、ドアを開けたところだ。

 俺も廊下に出た。

 モモヒナは左右を交互に見ている。

「……うー。どっちかなあ」

「見失ったのか」

 俺は言わずもがなのことを言って、頭を振った。


 マジか。

 嘘だろ。

 夢とかじゃねーよな。


「……違うな」

 現実だ。


 俺は部屋に戻った。


「キサラギ様……?」

 ようやく起きたらしいミリリュがベッドの上で横座りをしている。

「……え? にゃに? ろうかしたろ……?」

 イチカも身を起こしているが、寝ぼけているみたいだ。


 俺は部屋の中を見まわした。

 薄暗いのではっきりしたことは言えないが、壁に立てかけてあった魔剣ソウルコレクターがなくなっただけで、あとは何も変わっていないように思える。

「なんでもねーよ」

 俺はベッドに腰を下ろした。

「ただ、ソウルコレクターを盗まれちまっただけだ」


「……あ、そ」

 イチカは、ふゎ、と一つあくびをして、ぺたんと寝転び、すぐに跳び起きた。

「盗まれたってっ! ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ……!?」

"Soul Collector編"は今回で終わりです。


次回からは"All you need is what編"が始まります。ソウルコレクターを奪われたキサラギはいったいどうするのか……!?


感想、評価、レビューなどいただけますと、ハゲまされます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ