3 358回目の倦怠期
「ねえあなた?」
「誰があなただ」
「私、あと半年で卒業じゃないですか」
「いっそ今すぐ卒業して欲しいけどな、俺は」
「もしかして、指輪とかもう用意してくれてるの!?」
「どうして自分に都合の良い考え方しかできない!」
「ネガティブだったら、私の精神はそろそろ崩壊してると思うんです」
なんたって酷く理不尽な理由で恋を邪魔され、ウッカリ死んだり殺されたり難病に苦しめられたりし続けているのである。タフでなければやっていけるわけがない。
「それで、指輪は何処?」
「ねえよ」
「じゃあ一緒に買いに行くの?」
「いかねぇよ! そんな予定もねぇよ!」
机をばんばん叩きながら彼が主張すると、周りの教師達がまたかという顔でこっちを見ている。
ちなみにここは職員室である。
恋愛小説などでは教師の個室、例えば科学準備室だとか社会科資料室なんて物が二人の愛の巣として用意されているが、残念ながらそんな素敵な部屋はこの学校にはない。
なので私は来客用のパイプ椅子を拝借し、彼の席の隣に自分のスペースを作っている。
もちろん誰も何も言わない。言われたとしても聞かないが。
「最近、なんかつれないですね」
「元からつれたことねぇよ!」
「でもなんか特に冷たいです」
「そりゃ毎日毎日好きでもない女に追いかけ回されたり妄想語りされたら、心の広い俺だって擦れるぞ」
「安心して、擦れたあなたも大好きですから」
とっておきの笑顔でそう言えば、周りの男性教師達が顔を赤らめた。
しかし彼だけは、むしろ青い顔でうなだれている。
「どうしたんですか? 具合悪いんですか?」
「お前の所為でな」
そう言う彼は本当に気分が悪そうで、私は思わず息をのむ。
もしかしたら、また何かしらの呪いが発動したのかも知れない。
「どうしよう、やっぱり何の問題もないなんてあり得なかったんだ……」
とりあえず彼に触れないよう距離を置き、それから私は口を閉ざし、それから側にあったプリントに筆を走らせる。
『呪いを特定するまで会わないようにしましょう』
そう書いた紙を突きつけると、今度は彼が息をのむ
『と言うことでしばらく休学します』
その場で休学届けを校長に叩き付けて、私は一目散に家へと帰った。