2 不遇の歴史
初めて出会った時、彼は騎士だった。そして私は彼が守る国の姫。
今のキャラからは考えられないとか散々言われているが、あのころの私は身も心も純情で純粋で、歌を歌えば小動物達が周りに溢れるようなそれはもう絵に描いたようなお姫様だったのだ。
そんな私が一目惚れしたのは彼。そして私も若くてたくましくて笑顔が素敵な彼とあっという間に恋に落ちた。
彼は将来有望な騎士だったから、身分の差も問題にはならず、交際も結婚の準備も順調に進んでいた。
……はずだったのだ。あの日、嫉妬深い魔女が現れるまでは。
どうやら魔女は彼のことが好きだったようで、その上美男美女である私達が幸せになるのが、醜い彼女はとにかく気にくわなかったらしい。
この世界的な言葉で言うと、「リア充死ね」という奴だ。
だが魔女は、私達を殺すよりずっと酷い呪いをかけたのだ。
「美しき姫よ、貴様は我が呪いにより今日この日より愛を得られぬ定めとなった。例え命果てたとしても、新たなる生を得たとしても、貴様は孤独から逃れることが出来ないのだ」
理不尽である。ただちょっと私が可愛くて、魔女が彼に気があったという理由で降りかかるにしては、その呪いはあまりに理不尽である。
だが残念ながら、呪いの効果は抜群だった。
その後すぐ、私は原因不明の熱病にかかり、彼と結婚するよりさきにぽっくり死んでしまったのだ。
だが死ぬ間際、彼が私にたったひとつの希望をくれた。
「例えこの生で貴方と添い遂げられなくても、私は何度でも貴方を愛します。魔女の呪いが消え、貴方と添い遂げられるその日を迎えるまで!」
そしてその宣言通り、生まれ変わった私と彼は再会し、再び恋に落ちた。
残念ながら2回目の人生では、ロミオとジュリエット並みの血で血をあらう抗争に巻き込まれた上に、両者事故死という惨憺たる結果だったが……。
しかし一方で、ひとつだけ運の良かったこともある。
呪いの副産物かなんだか知らないが、私達はお互いの前世を必ず覚えていたのだ。
そして今度こそ! と思うのだが、敵対する家柄同士だったり種族同士だったり国同士だったりと、とにかく障害が多い。
他にもお互いに触っただけで死ぬ。声を聞いただけで死ぬ。キスしたら死ぬ。とうスキンシップ禁止的な物もあった。
色々な項目がミックスされてお互い会った瞬間に死ぬ、という展開も数十回はあった気がする。
そんなこんなで気がつけば、私の人生も357回目に突入。
呪いや魔法もなく、結婚の制約もお互いの婚約者もない世界と時代と国に内心ヒャッホーーーーーーーーと叫んでいたのだが、やはり人生そう上手くはいかない。
出会った彼は、私のことをすっかり忘れていたのだ。
高校の入学式で初めて出会い、校長先生の演説中にもかかわらず彼に飛びつき、抱きしめ、キスまでしたのに彼は喜ぶどころか私を見事に投げ飛ばしたのである。
その見事な投げっぷりと、この世界での両親の「この子頭がちょっと……」という謝罪のお影で、彼が解雇されたり私が退学になったりする事はなかったが、おかげさまで最初の一年は酷い目にあった。
この私の彼なので当たり前だが、彼はとにかくモテたのだ。生徒にも同僚にも教頭にまで。
お陰で色々な嫌がらせを受けたが、こちとら357回も生死に関わる嫌がらせを受け続けているのである。こんな物は屁でもない。
屋上に呼び出してきた女子を片っ端から投げ飛ばし、嫌がらせの手紙に一通一通丁寧なお返事を書き、教師陣に馬鹿にされないよう常に学年トップの成績をキープし、飛び級でハーバード大学にも入れるほどの頭脳を見せつけた。
おかげさまで、高2になると嫌がらせはかなり減った。更に一年もたつと、私と彼の仲は学校全体での共通認識になった。
「あの二人の間に立ち入ってはならない」という裏校則まであるらしい。残念ながら、私の一方的な片思いと思われているようではあるが。
しかし何はともあれ、私は彼の隣に好きなだけいて良い許可を得られたのである。まさに奇跡である。
故に朝も昼も放課後もべったりなのだが、ひとつだけ懸念もある。
最近どうも彼の様子がおかしいのだ。
前々から優しくはなかったが、2学期を過ぎたあたりから妙に冷たくなったのだ。
358回目の倦怠期。そんなまさかと思いつつも、その言葉があたまを離れなかった。
※11/13文章一部修正致しました