逃走
やはり領主一家が殺害されたこの事件は、
早急に手を打つべきか。
「フェノリス大佐、一昨日の一家惨殺について、
一つ疑問に思うところがあるのですが、」
「なんだウォディレス。言ってみろ。」
「はっ。この殺害の首謀者となっているメイド長のイレスですが、」
あぁ、そのことか。
なら私も疑問に思っていたところだ。
「息子の死体が見つからないことか?」
「はい。それだけならまださほど疑問は抱きません。」
しかし、と聞こえたところで私は自分の考えがウォディレスと同じことに気づいた。
「現場に残っていた魔力は『闇属性』でした。
そしてイレスは『氷属性』。
辻褄が合わないのです。」
「まったく、そのとおりだな。」
「上はてきとーにこの事件を処理したんでしょうか。」
「まぁ、犯人につながる物証がなければこれ以上私たちは動けない。」
明らかに肩を落としたな。
分かりやすい奴だ。
「だが、そう悔しがるな。今に犯人自ら行動を起こしてくれるだろうさ。」
「それもそうですね。前例が山ほどありますし。」
「あぁ、正直、かわいそうだがな。」
「闇属性の人間が生きるには、
周りの人間を殺すしかありませんから。」
『この世界で闇属性の人間は、先に殺さなければ、殺される』
あれから何日たっただろう。
ルーガリッドを出ることしか考えていなかった。
走って走って走って走って、途中で考えた。
『なぜ走らないといけない?』と。
解は見え切っている。
捕まれば殺されるから。
闇属性の人間を助けようなんて奴らはいない。
まぁ、いたところで怪しくて協力を求めることはしないだろうけど。
ただ、不用意に人を殺せばすぐに国の諜報機関が出撃してくる。
諜報機関というか、軍隊のようなものか。
父や母を洗脳仕切っていたこの国の国民ほぼ全員が進行している宗教、
『善光教』。
もう文字にした瞬間それがあらわすものが何かわかる。
善い光の教え。
つまり闇の居場所はない。
そして、領主家だからか家の書庫にはたくさんの事件簿のようなものがあった。
もちろん、闇属性の人間が起こした事件についての物も。
大抵の者は、逃げた先で人に見つかっている。
そして証拠隠滅・口封じの目的でその発見者を殺す。
だがこれがよくない。
そんなことをすればすぐにばれる。
魔力がその周囲だけ乱れるから。
攻撃魔法を打てば周囲の魔力に殺意と属性がこもる。
おそらくルーガリッドの屋敷には僕の魔力である闇属性が空気中に充満しているはずだ。
諜報機関はそれを見逃さないだろう。
さて、どうするか。
森の中に入ったのは好手だったと思う。
深い森では中々人は来ない。
潜伏にはもってこいだ。
だが、逆に世界の動きが知れない。
さすがにそれは死を待つだけになってしまう。
それだけは避けたい。
ここまで考える7歳児はいないだろうな。
我ながら自分の頭の良さに酔ってしまう。
ルーガリッド領はおそらくもう出ている。
ルーガリッドから真っすぐ西に向かっているはずだから、
そろそろ森を抜けるはずだ。
大体の地図は把握している。
予想よりも少し早く、森から出た。
その瞬間に、「やらかした」と思った。
右に老夫婦がいた。
「おや、誰かしら?」
「もう夕方だぞ。家に帰らないと親御さんが心配するぞ。」
声をかけられた。
「その服装、それなりにいいところの人じゃないの?」
自分の服装を見てみる。
明らかにいいところの出だ。
第2のやらかしか。
正直、この老夫婦を殺すことは容易い。
だが、そうすれば国に尻尾を見せることになる。
そしてこの老夫婦の雰囲気から、
あまり弱くないことを感じ取った。
体内の魔力の流れが整っている。
それが経過した月日のおかげなのか、
個人の実力なのかが俺には判断できない。
その見分け方は知らない。
本で読んだのはただ魔力の流れが整っている者は強い可能性が高いということだけだ。
さすがに戦闘は控えよう。
「すこし、道に迷ってしまって。」
恐る恐る言ってみた。
「あら、それは大変ね。自分の名前と親御さんの名前は言える?
フェルリアット騎士団に連絡するわ。」
フェルリアット?
「ここはフェルリアットなんですか?」
思わず聞いてしまった。
「えぇ、ほらあそこ。」
老婆が指さした方を見ると、
以前父に連れられてきた時に見たフェルリアットの象徴の時計台が立っている。
これは第3のやらかしだな。
西にまっすぐ走っていると思っていたが、
本当は北西に走っていたようだ。
大誤算。
「もう日が落ちるぞ。」
「あら、あなた、うちで休んでいかない?」
「え?」
「家には帰りたくないようだし、
少しの間なら泊めてあげるわ。」
それは願ってもみないことだが、
なにか裏がありそうだな。
「ありがとうございます。」
とりあえずお願いして、
何かあったらそのときはなるべく魔法を使わずに逃げよう。
「よろしくお願いします。」




