EP3 撃退せよ! 宇宙巨獣サーペントⅠ・Ⅱ型!
※EP3以降は自我が確立してきたので主にエルイム目線で進行します。
「ーーーサーペントⅠ型、三体確認! ……あいつら、宇宙で僕たちを待ってたのか? ザライレム暫定隊長、指示をください!」
「落ち着けレイヴィス、旧文明が遺してくれたこの船は自動で宇宙巨獣を退治する自動防衛機能がついている。……見ろ」
宇宙船外殻を映すディスプレイに僕たち一同が目を向けると、紫外線レーザービーム砲とコイルガン砲台、プラズマ砲台が展開されてサーペントⅠ型に砲口を向けている。レーザービームとプラズマ弾がサーペントⅠ型の体表を灼き、コイル弾が胴体を貫く。
「俺たちが乗ってきた宇宙船より武装が高性能だ! これなら充分に自衛できる!」
オーギュストがそう叫び、宇宙船は残った2体を順調に退治していく。ーーーそのやられてゆくサーペントⅠ型の後ろに動く影が見えた。
「! まだ何かいます! ザライレムさん!」
僕が声を張り上げてディスプレイを指さし、ザライレムが注視する。動きの早いソレは砲台の回転を振り切り、砲口の背後に回る。
「ーーーⅠ型より体表の灰色が濃い! サーペントⅡ型か、厄介な!」
サーペントⅡ型は口から糸のようなものを吐いた。それはコイルガン砲台に付着し、回転を無効化した。続いてレーザービーム砲台、プラズマ砲台にも糸を吐いて宇宙船の全武装を無力化した。
「こうなっては振り切るしか……! 推進装置、最大稼動!!」
ザライレムの操作でエンジンがより激しく火を噴き、サーペントⅡ型との距離が徐々に開いていく。
「……距離はできていますが、決定的に振り切れる差ではありません!」
「レイヴィス、分かっている! ……くそ、武装を封じられたらもう出来ることは無いじゃないか……」
ブリッジ内でヨツリ族たちが宇宙巨獣に対処しようと奮闘している。なのに、僕は何だ。
(確かに僕は何も知らない。僕は目覚めたばかりで、言葉を覚えたばかりだ。それでも、何もできないのはつらい)
何か力になりたい。そう思った瞬間、手元に握っている剣の機械の回路状の溝が光り、全身の細胞へと、まるで波のように情報が伝わってくる。見える。ーーーサーペントⅡ型の弱点と、この船に積まれた僕のための武装が。
「……僕の手でサーペントⅡ型を倒せるというのかい、剣?」
剣は沈黙したままだ。だが確かに、あの巨獣を倒せる情報を僕にくれた。3か所の弱点をこの剣で突く。それができれば僕でもあの巨獣は倒せる。倒せる。が、高速で移動する宇宙船に置き去りにされて僕は宇宙空間に放り出されることになる。それでも僕の目の中にはザライレムがいる。オーギュストがいる。レイヴィスがいる。僕が目覚めてから、僕を異物扱いせず、お世話を見てくれた親切な人たち。僕の恩人たちが生きてくれるなら、僕は命を投げ出したって構わない。
「ーーーみんな。聞いてほしい。この剣があの巨獣の倒し方を教えてくれた」
そう声を上げると、三人が一気にこっちを見た。オーギュストとレイヴィスはこちらに希望の眼差しを向けるが、ザライレムは心配げに剣の方を見ている。
「……この船には砲台が無効化されたときのために僕専用の宇宙戦闘ユニットが積まれているんだ。僕はどうやら宇宙空間でも長時間生きていられるみたいだから、一か八か巨獣の弱点を突いて勝ってみせるよ」
オーギュストとレイヴィスが、おお、と歓喜の声をあげるが反対にザライレムは眉間にしわを寄せる。
「あんたはどうなるの。この船は高速であいつから逃げている。いつまでもサーペントⅡ型との相対速度を同じままではおけない。あんたがサーペントⅡ型と戦い始めたら、きっとあんたたちが遅くなって私たちとは離れちゃう。イルフⅡともずいぶん離れた。ーーー自分がどうなるかわかって言ってるの?」
「分かっているけど、勝っても負けても僕が死ぬことに変わりはない。なら僕はみんなと一緒に死ぬより、みんなを生かす方を選ぶ」
これでいいはずだ。そう思って戦いに赴こうと振り返ったとき、ザライレムの4つの手に肩を掴まれてもう一度振り向かされる。パン、と乾いた音がなった。平手打ちを受けたのだ。
「……なんてことを言うんだよ、エルイム……ああっ、こういうときにうまく言葉が出てこない……!」
そのザライレムは怒っているような、泣いているような、複雑な表情をしていた。
「……それが一番合理的かもしれない……実際そうかもしれないけど、あんたには生きたいという気持ちはないの?!」
実際のところ、僕には生きたいという感情が分からない。まだほんの僅かしか生きていないからかもしれないが、”生きたい”が具体的にどういうことなのか分からなかった。仮に生きることがただ生存するだけのことならば、それ自体に意味はないように思えたのだ。それよりも、例え死んだとしても何かしら価値のある事をした方がずっといいに決まっている。
「……ごめん、”生きる”こと自体に特別な意味ってあるの?」
僕の言葉はザライレムの感情を更に複雑にしてしまった。面食らったような、失望やら絶望やら入り混じったような顔つきになってよたよたと後ずさってしまったのだ。ヨツリ族には死者を弔う文化がある。だから彼女たちには生に対しても特別な意味があるのだろう。それは分かる。ただ、僕にはないというだけだ。立ち尽くすヨツリ族の3人を其処に放置して、ひとりハッチへと歩いていく。
「待てやエルイム!!」
ハッチを開こうとノブに手を掛けた瞬間、ザライレムが走ってきて叫んだ。
「エルイム……ハァ、ハァ……。せめて私の言うことを聞いてから行け!!」
鬼気迫るような表情でザライレムが詰め寄って来る。気圧されて何も言えない。
「お前、生きる意味が分からないって言ったよな? そりゃそうさ、生まれたばっかりの君に生きる意味が分からないのは当たり前だッ!」
言ってからザライレムはやや視線を迷わせながらゆっくりと言葉を探す。
「……でも私は死んでほしくないよ。だってエルイムはまだ生まれたばかりで色々なことを知らないじゃん。勿体ない。そりゃ生きたいという気持ちも湧かないかもしれない。……でも私が生きてるのは、色々な理由がある。私は探査隊の隊員だから成果を持ち帰る必要がある。故郷の”風の星”で待ってる妹に会いたい。帰った頃には新しい漫画や映画ができてると思うから一気に観て読みたい。生きてれば美味しいものが食える。……思いつくのはこんなところかな。エルイムくんはまだ何も知らないし、旧文明から託された使命なんかもよく分からないから生きる意味が分からないのは当然よ。でも、勿体ない。もう少し生きてみれば、きっとエルイムくんにも生きる理由に出会えるかもしれない。……だから、今回は生きてみようよ、ねぇ?」
悲しそうな瞳で見つめられる。確かにザライレムの言う通りかもしれない。でも現実問題、この宇宙船が生き延びるには僕が出撃するしかない。
「生きるって言うんだったらなおさら僕が出撃しなきゃいけない。宇宙船が壊されたらみんな死ぬ。結局、僕だけが犠牲になるしか道はない」
「ーーーだったら私達のことも巻き込んでよ! この宇宙船で体当たり位できる! なんだってやる! エルイムくんが生き残るためになんだってやるんだから!」
体当たりは流石にやめてほしい。宇宙船が壊れて、元のヨツリ族の宇宙船の二の舞になるだけだ。だが、それを聞いて僕の中に、ある気持ちが芽生える。
ーーーザライレムと生きてみたい。こんなに僕のことを想ってくれるのなら、それも悪くない。
「分かった。……サーペントⅡ型と戦って生き残る可能性自体は高いんだ。だから僕の願い事を聞いてほしい」
「ーーーそれが君の生き残る道なら、聞くよ」
ザライレムに願い事を言った後、僕はハッチを開けてエアロックに入る。
「ここに宇宙戦闘ユニットが格納されてるか……」
剣の機械を窪みに突き刺すと、ロボットアームが展開されて、僕に次々と宇宙戦闘ユニットのパーツを嵌める。宇宙戦闘ユニットの正体は両腕脚に装着された小さな円筒状のサブスラスターと背中に背負う流線的な青いメインスラスター。
「攻撃はあくまで剣の機械だよりか」
エアロックを開け、身がふわりと浮いて宇宙空間に放り出される。尖った形状の宇宙船が推進装置を吹かしてサーペントⅡ型から逃げている様子を横から見る。
「ーーー行こう、剣の機械。いや、”ネガイノツルギ”だっけ?」
ザライレムから聞いた名前を剣の機械に投げかけて、エルイムはスラスターを吹かす。いちど宇宙船に近づいてから、宇宙船の後方へと移動する。
「僕が相手だ、サーペントⅡ型!」
宇宙空間に声が響くわけはないのだから、心の中でそう叫ぶ。逃げる宇宙船を背にして、突っ込んでくるサーペントⅡ型を待つ。ネガイノツルギの溝が赤熱して剣を覆う蒼い殻が鍔へと剥けていき、超高熱の刀身が姿を現す。
「ーーーここ!」
突っ込んでくるサーペントⅡ型のひとつめの弱点、首筋を狙って剣を突き出す。ジュウウウウウウウ……! と巨獣の細胞が沸騰して弾け、サーペントⅡ型の首と胴を分断する。そのまま胴体を掴み、振り落とされないように懸命にしがみつく。
「ーーーたしか、あとふたつの脳をつぶさないと動きは止まないか」
胴体中央と尾の先端に脳が隠れている。それさえ潰せば倒せる。剣が伝えてもらった情報を無駄にしまいと剣を胴体中央に突き刺そうーーーとしたところで細長い巨獣の躯体が鞭のようにうなり、僕は手を滑らして放してしまう。スラスターで姿勢を制御してサーペントⅡ型と向き合い、ちらりと宇宙船のほうを見る。宇宙船は肉眼ではもはや豆粒みたいに見えるくらい遠くへと離れていった。こんなに距離ができてしまっては、僕が宇宙船に帰るのは難しいかもしれない。
「ーーーこれは、もう戻れないかも……でもいいや」
一方のサーペントⅡ型は興味を宇宙船から僕へ移したのか、頭を失ってなお躯体をうねらせて突進してくる。
「ていーーーあっ?!」
愚直に突進してくる読みで胴体に狙いを定めていたが、胴体に隠れていた尾が鞭のようにうねり、僕の身体を打った。瞬間、僕の胴体が横薙ぎに真っ二つになってしまう。分かたれた下半身が明後日の方向へ飛んでいき、僕の本体もまたサーペントⅡ型から離れようとしている。
「ーーーさせるか!」
スラスターを吹かして速度を上げ、サーペントⅡ型に追い付く。宇宙巨獣のごつごつとした肌を左手で掴んで、右手に握ったネガイノツルギの狙いを胴体中央に定める。サーペントⅡ型が暴れる中、白熱した剣を突き刺す!
ジュウウウウウウウウゥゥゥゥ………!
胴体中央の脳へダメージが充分に届いた確信を得てからすかさず尾の方へとスラスターを使って宇宙巨獣の肌沿いに飛ぶ。目標のポイントに着くやすぐに剣を薙ぎ、尾の中にある脳を焼き斬る。
焼かれて分断されたサーペントⅡ型の身体はしばらく暴れ続けたが、脳を失ったことにより生存機能を喪失したために徐々に動きを止めていった。宇宙巨獣の死体に熱がこもって膨張し、弾ける。僕の宇宙戦闘ユニットのラジエーターからプシューと冷却剤が排出される。
「……そうだ、僕の下半身……」
辺りを見回すと、分断された僕の下半身が円筒状のスラスターを吹かして僕のところに戻って来ている。分断された上半身と下半身がすぐにくっつき、元通りに動く。
「やっぱりザライレム達とは身体の作りが違うなあ。……ザライレムと言えば、願いは聞いてくれたかな」
宇宙船が飛んでいった方向に目を向ける。ーーーかなり遠い所で豆みたいに小さく見える宇宙船が動きを止めて戦いを見守っていた。その宇宙船が動き出してこちらに向かって来、目に見える大きさが徐々に大きくなる。
「ーーー願い、聞いてくれたんだ」
エルイムの願い、それは戦いに勝ったら回収してほしいということだった。戦いが終わるまではある程度の距離の所で見守っていなければならず負けた時はサーペントⅡ型に追われて諸共死ぬ危険があったのに、ヨツリ族たちは危険を覚悟で見守っていてくれたのだ。
やがて船の左舷が僕に横づけられ、ハッチが開いて宇宙服を着たザライレムが飛び出してくる。僕はザライレムの4つの腕に抱かれて宇宙船の内部に帰った。宇宙服のヘルメットを脱いだザライレムの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「ふえぇん、エルイム、いぎてだぁ……!」
ザライレムに力強く抱き着かれて顔をくっつかれ、涙と鼻水を塗りたくられてしまう。気がつけば、オーギュストとレイヴィスも僕のことを労るように頭を撫でてきたり水を差し出してきた。
その後、ザライレムは僕のことで精神を激しく疲弊させてしまったか深い眠りについた。医務室で異状がないことを確認した僕は、身体を分断されたことを理由にレイヴィスから安静にするようにと言われ、医療ベッドに横たわる。
「よう、エルイム。改めてお疲れさん」
そこにやって来たのはオーギュストだった。
「この船を守ってくれてありがとう。そして、申し訳なかった」
「……なんで謝るの?」
「……お前さんが出撃すると聞いて喜んじまったからよ。あの場でお前さんのことを本当に大切に思っていたのはザライレムだけだった。俺は心の何処かでお前さんのことをどこか余所者のように扱ってたんだな。本当に仲間なら心配するべきだった。ーーーだから今ここで俺は誓う。エルイム、お前さんのことを旧文明探査隊の一員だということを認める、と」
「……探査隊? それはヨツリ族が本星で任命された者にしかなれないんじゃないか?」
「こら、エルイム。気持ちの話だ。俺がお前さんを仲間だと思ってるってことだよ。みなまで言わせるな」
オーギュストはそう言い置くと小っ恥ずかしそうに去った。僕の心の中で、ザライレムやオーギュスト、レイヴィスの存在が大きくなってゆく。たぶん、これが僕にとっての”生きる理由”になるのだろう。そんなことを思いながら僕は暫しの眠りに就いた。




