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EP10 浮かむ瀬亡き迷子

「……え?」

「正確に言うと、風の星の地表にあったヨツリ族の文明は大昔に核と気象兵器の戦争で滅亡しました。数千陽周(ねん)前、風の星の資源枯渇問題に直面したヨツリ族は宇宙開発を取り巻く思想を巡って二つの陣営に分かれ、星全体を巻き込む戦争をしたのです。戦争は一ヶ月で終わりました。一ヶ月で全部滅亡したからです」

「……それでは、今はもう国は……」

 ガルフ少佐がタブレットを操作して画面を見せてくる。ーーーそこには、雪と氷で覆われた青白い星が映っていた。

「ご覧の通り、核と気象兵器の影響で雪と氷に閉ざされた星になっております。ヨツリ族が生きているところはありません。今では、せいぜい宇宙コロニー用の空気を採集する時にしかヨツリ族は降り立ちません」

「……あ、あ……」

 ザラ姉は口をぽかんと開け、長い時間ずっとそうしていた。風の星を発った時から帰還の時を待ち遠しにした故郷。そこに住まう、ザラ姉の妹をはじめとした様々な人間関係が無くなってしまっていたのだ。その事実を全部受け止めるには時間が必要なのだろう。ーーー僕も残念だ。ザラ姉の妹に会ったら、僕の知らないザラ姉の姿を教えてもらおうと思っていたのに。

 しばらくして、ザラ姉の口が再び動く。

「……では、貴方がたはいったい何なのだ? ヨツリ族が滅びたというのなら……」

「我々は、当時宇宙に住んでいたかすんでのところで宇宙に逃れたヨツリ族とその末裔です」

「ーーーだったら、私の妹、マルヘイム・ガンロードも宇宙に逃げているかもしれないだろう! し、調べてみてくれ……!」

「……宇宙政府への照会は私の権限ではできかねる。準惑星基地に同行していただき、そこで基地長の許可を貰おう」

 そう言うガルフ少佐からは呆れているような、元から諦めているような色が見て取れた。


 僕とザラ姉はエプエス・セルチ号ごと準惑星の宇宙基地に連れてこられ、其処の休憩室にを案内された。しかし、そこでも知らされたのは「妹は名簿にない」だった。

「残念ですが、ザライレム様の妹だという人は見つかりませんでした」

 ガルフ少佐が静かにそう告げる。

「……どこかで、風の星のどこかのシェルターに隠れてやり過ごしてる線はないの……?」

「過去に何度か大捜索を行いましたが……」

「もういい! エプエス・セルチ号で着陸して探す! エルくん、準備して!」

「ザラ姉! まだ審査は終わってない。ヨツリ・ゾーン領宙にまだ入れる身分じゃないんだ!」

「……くそぉっ!!」


 しばらくして審査が終わり、領宙に入ることが許されるとザラ姉は一目散にエプエス・セルチ号に乗り込み、ブリッジでパネルに風の星への航行データを入力して風の星へ向かおうとする。

「ザラ姉、流石に落ち着いてよ。風の星に行っても何も無いって、さっき詳しく説明されたばかりじゃないか」

「人の言う事だ! 自分の目で確かめたわけじゃない!」

「……分かった、もう何も言わない。手伝うよ」

 僕はガルフ少佐からもらった、現在の星系のデータをブリッジのコンピューターに入力する。航路の最適化が行われ、目的地の風の星までの最短経路が表示される。僕はそのまま宇宙基地の発着港の管制官へと通信を繋ぐ。

「管制官へ告ぐ。艦長ザライレム・ガンロード、我がエプエス・セルチ号は風の星に向かう。離陸の許可を下さい」

『話は聞いている。許可する。発離着用エアロックゲートを順に開く。タイミング合わせて離陸せよ』

 空気を閉じ込めるための大きな機械のゲートの一枚目が開く。そこを通ると一枚目が閉じ、二枚目が開く。二枚目を通ると二枚目が閉じ、三枚目が開いて宇宙への道が開かれる。準惑星の地下の基地から限りない星の海へと飛び出す。


 何眠かかけて、風の星に近付く。風の星の重力に囚われる範囲にまで近付いた。展望デッキから見上げる風の星は氷と雪に包まれた青白い表情のままだった。前にレイヴィスから風の星の映像を見せてもらったときは、青と緑に覆われた生命力溢れる見た目だったのに。

『着陸シークエンス、開始。目標、ガレリア国ルエンス市周辺』

 船のコンピューターがそうアナウンスしたのでブリッジに向かう。そこには、ぴくりとも笑わないザラ姉がいる。

 宇宙船は星の大気の上を滑空するようにしながら徐々に降りていく。目に見える景色が徐々に”壁”を背景にした宇宙の星の海から、雪の降り積もる銀世界に切替わってゆく。心なしか、景色を見るだけで肌寒くなる。

 ドズン……。 宇宙船が着陸した。その瞬間ザラ姉はガレージへと飛び出し、予め用意していた探査用の車両に乗り込む。確かあの車両はイルフⅡでも乗っていたやつだ。

「古いデバイスにこの周辺の防災シェルターの情報が入っていて助かった! エルくん、手伝え!」

「……はい」

 白く冷たい大地の上を車で駆る。冷えた空気を浴びて皮膚が萎縮する。

「……あ」

 シェルターがあるという場所につくと、立看板があるのが見えた。

【ヨツリ・ゾーン宇宙政府 探索済シェルター 生存者ナシ】

 その立看板が立ててあるところには大きな穴ボコが空いている。覗き込んでみると、地中に埋もれたシェルターの入口に繋がっている。ザラ姉は看板を一瞥しただけですぐシェルター内部に入り込む。僕も後を追い、暗闇をライトで照らす。シェルターの内部は破損していて既に土で殆どが埋まり、入れる部屋はほんの僅かしかない。千を超える時が経っているせいか、遺体は欠片すらも見当たらない。

「ザラ姉、やっぱり妹はもう……」

「まだだ、別のシェルターに逃げ込んだかも! 私は探すぞ」

「……分かった」

 こうなってしまえば、僕にできることはザラ姉のやることにただ付き合うことだけだった。ザラ姉は気の遠くなるような時間を探査隊の宇宙船で過ごした。その果てが故郷の滅亡と身内の死去なのだ。今、ザラ姉は目の前の絶望から懸命に目を逸らそうとしている。付き添ってやる人がいないと危険だ。

 やがて100個めのシェルターを探し終えて外に出た瞬間、ザラ姉は膝をついた。

「ザラ姉、どうしたの? ……」

 その顔からは生気が抜けていた。

「もういいんだ、エルくん。私が帰りたかった故郷はもうない」

 ザラ姉は力が抜けて崩れ落ち、冷たい大地に横たえる。

「ここには私の知っている景色はもうない。私の知っている人もいない。ここは、私が帰りたかった風の星じゃない」

「ザラ姉……」

「あの山を見てよ、エルくん! あの山はあんな風に抉れていなかった! 私の知ってる景色じゃないんだ!」

 ザラ姉がそう言って指し示した山を見上げる。確かに何かしらの兵器でやられたのか抉れている。

「ここは私の帰りたかった風の星じゃない! こんなの私の故郷じゃない! エルくん、どうしよう。わたし、えいえんにかえれなくなっちゃった……もう……かえるところが……ない……ううっ……あうっ……ああああっあああ………うぅあああああああああっ!!!」」

 ザラ姉が嗚咽する。僕にはどうすることもできなかった。ただただ、冷たい雪が吹雪いていた。

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