9 真実トッピング
咲羅部長からの呼び出しを受け、部室の扉を開けるなり咲羅部長に足を蹴られている東瀬の姿が目に飛び込んできた。
「で、これからどうする〜?」
ニッコニコで東瀬の足を蹴りながら、部員たちにこれからどうするかを問う咲羅部長。
「凛、その表情でその行動はいくらなんでも」
部員たちが言うに言えなかったことを言ってのけたのは唯一部長と同学年の関湯先輩。だが同学年というのは何のアドバンテージにもならない。咲羅部長に対しては。
「関湯はどうしたらいいと思う?」
蹴るのをやめずに関湯先輩の方を向き、ニッコニコで問う部長。
「いや、だからな」
「どうしたらいいと思うかな?」
まるで聞こえていないかのように同じ問を繰り返す咲羅部長に関湯先輩は諦めたのか、斜め上を向き視線を逸らした。
「他のみんなは?」
その問いにもちろん誰も答えるはずがなく、沈黙の間も東瀬に対しての足蹴りは止まらない。ただただ蹴る音だけが鳴り響く時間が数分続いたところで猫布が口を開いた。
「でもさ、部長」
「なに?猫布ちゃん」
「東瀬は別に何もしてなかったというより、何もできなかった感じだし、そこまで蹴る必要はないんじゃない」
「いやいや、私も何も鬼じゃないよ。犯人を捕まえろとか未然に防げとか言ってるんじゃないの。犯行の手掛かりくらい掴んできてもいいんじゃない?」
今のところ、どういう手段で宝石を盗んでいるのかわかっていない以上、犯人への糸口も見つからない。
「じゃあ部長ならどうしたの?」
「う〜ん、私ならまず来た時点で『跡魔』がないか調べるよ」
跡魔か。まぁ定石な手段だな。跡魔は人が魔法を使おうと意識した時にその場に残る跡であり、跡魔を調べれば何の魔法を使用したかも分かる。
例えば姿を消そうと意識した時には跡魔が残る。だが逆にその魔法を解除しようとした時には跡魔は残らない。瞬間移動も同じで出発地点には残るが、到着地点に跡魔が残ることはない。
「跡魔を調べたとしてもさ〜、透明化を離れた場所でしたなら分からなくない〜?」
と、ここまで黙っていた蝶芽が口を開いた。その疑問に答えたのは同じくここまで口を紡いでいた東瀬だ。
「透明化は絶対あり得ないっすよ!透明化はただ透明になっただけ。ショーケースを開けなければ魔宝石に触れることは絶対に無理。自分は間近で見ていましたがショーケースが空いた瞬間など1秒もありませんでしたもん」
そう、透明化は物体に対して不干渉になる訳ではない。姿が周りから見えなくなるだけであり、何か派手な行動を起こせばすぐに気づかれる。俺がこの前、忍者と馬鹿にされ教室を出て行った時も、ドアを素通りできたわけじゃないしな。
「そっかぁ。そうだねぇ。じゃあなんなんだろうね〜」
「あのさ、別に私は透明化とは言ってないよ」
「え、じゃあなに〜?」
蝶芽は部室にある机に突っ伏したダラけた態度のまま部長に聞く。だが部長はそのことには触れずに、聞かれたことだけを答えようと口を開いた。
「犯人は魔宝石自体を自分の元に手繰り寄せたんじゃないかな」
魔法石を自分の元に。それを聞いた半分ほどの部員はすぐに理解できなかったのか、何を言ってるのか分からないという表情を浮かべた。そして全員が理解できるよう部長がもっと噛み砕いた説明をし始める。
「転送だよ転送。遠く離れた物体をね、自分の元に転送するには対象の物体に自分の魔力をつけてマーキングしなきゃいけないの。その時に跡魔と自分の魔力が残る。だから」
「それを調べるってわけか?でもな凛、奪われてるのは魔宝石だ。魔宝石は魔力純度100%だって知ってるだろ?」
異世界で売っている宝石は全て魔宝石。地球で採掘された宝石は1つも売ってはいない。そして魔宝石は魔力の塊であり、微細な跡魔などを調べるのは困難である。
「知ってるよ。でも調べるのが困難なだけ。無理なわけじゃない」
「そうだが・・・」
「それにそれが犯行方法なら犯人も絞れる。自分の魔力をマーキングする機会のある人は、店員か運搬業者、あとは実際に魔宝石を見させてもらった客しかいないもんね」
咲羅部長の推理はいい線をいっている。しかし、人員を割けないとはいえそんな証拠が残る方法を見抜けないほど騎士団も馬鹿ではないだろう。
その後、再度ジュエリーショップの調査を今度は関湯先輩も含め行われることになった。
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10話は明日7時に投稿予定ですので、どうぞよろしくお願いします!




