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我々は今ここで異世界で  作者: ウミガラス空
1章 盗人の時間
12/21

12 対峙

※今回の登場キャラは犯人と東瀬の体に入った丹羽の2人だけです。

 比較的綺麗な家屋の壁に背中を預け、バッグの中からいくつかの小物を取り出した。


 いくら年に2回しか巡回がないとはいえ、運が悪い時だってある。私は抜かりはしない。何せダミーではなく生身な以上捕まったら今度こそ終わりだ。だからこそ周りに罠をはり最大限の警戒を怠らない。


 罠を張るのは慣れているためそこまで時間は掛からなかった。


「こんなものか」


 手についた埃を払い落とし、バッグの中から水を取り出そうとした時、私の脳が違和感を訴え出した。自分の違和感は一番信頼している。だって何もなければ違和感が働くはずがないんだもの。もし何もなかったとしても、それはその時。警戒するに越したことはない。


 周りをよく観察する。だが何もおかしな点はない。なんだ、何がおかしい。私の思い違いなのか。


「いや、これは」


「もう後ろにいるけど」


 私は声が聞こえた瞬間に後ろに瞬間移動をした。相手の背中を取り、先手をかけなくてはならない。騎士団が相手の場合、先手を取らなくては勝つ確率が大幅に低くなる。


 だが捉えた後ろ姿は騎士団の制服を着用していなかった。騎士団ではないなら誰だ。同業がわざわざこんな真似をするメリットがない。だが考えてる暇はない。一刻も早く仕留めないといけない。私は背中に隠していたナイフを取り出し、相手の背中目掛け飛び込んだ。


 相手との距離は残りわずか。もう相手は魔法を使う暇もない。確実に殺れる。


「ッ!?」


 ナイフを相手の背中に突き刺した瞬間に、相手の体は霧のように露散した。


「まさかッ!?」


「そう、君の得意なダミーさ」


 私が振り抜いた時には、相手はこちらに向けて手を伸ばしていた。こんなところで捕まるわけにはいかない。私は思考を瞬間移動にだけ集中させる。


「うおっ、君魔法使うの早いね。確実に捉えたと思ったのに」


「黙れ、それはお互い様だ。お前、やけに魔力が高いな」


 見たところ10代くらいか。なぜこんなところに。


「それだけが取り柄ですの、でっ!」


 最後の言葉を言い切る前に魔力が高いガキはこちらに突っ込んできた。私は先ほど瞬間移動に集中した際にナイフを落としてしまった。素手で殺せないことはないが、やはり確実に殺せる手段で行くべきか。そう考え、ナイフの方を向くとそこにはすでにガキが立っていた。


「ナイフは渡しませんよ」


「このクソガキが!!」


 私は常人より二倍の速さで魔法を発動できる。今から瞬間移動すればまだ間に合う。ガキがナイフを拾い上げる前に私が。


「なっ!?」


 移動を終えた時に最初に視界に映ったのは、蹴り上げられ空に向かって勢いよく飛ぶナイフであった。そしてその景色も一瞬。ナイフを蹴り上げた足とは反対の足で脇腹を蹴られ、私は勢いよく吹き飛び、古びた家の壁に衝突した。


「おーい、死んでないですかー?」


 私は気絶しているふりをして、回復魔法をかける。幸い土煙で相手には回復の様子は見えていないはず。あとは魔力感知で居場所を把握しておけばいつでも対処ができる。落ち着いて行動すれば大丈夫、いつもそうじゃないか。じっくりと相手が動くのを待てばいい。きっと実力差と私が疲弊している状況から油断しているはず。その油断を狙う。


「きたっ!」


 相手は一直線にこちらに向かってきた。跡魔せきまから回復魔法を使ったのを知ったのだろう。ここまでは計算通りだ。ガキとの距離が残り20センチのところでダミーと入れ替え瞬間移動する。そしてダミーを爆発させる。もう残りの魔力で出来るのはこれくらいしかない。


 そう考えてるうちにもうガキとの距離は1メートルから80センチへと詰まって行く。そしてその距離はついに20センチまで詰まった。


 私は待ってましたと言わんばかりにすぐさま瞬間移動をし、その場から離れて瞬間移動先でダミーを爆発させた。今度は確実に捉えた。あの状況からでは逃げられないはず。でも死体を確認するまでは油断できない。


 数秒してそれが叶うことはないと私は悟る。確実に爆発させたはずなのに、土煙の中からガキが出てきたからだ。


「なんで・・・あん時のお前はダミーではないし、現に傷を負っている」


「そこ気になりますか?そんなことよりもホラ」


 そう言ってクソガキは私の胸を指さしてきた。


「魔力のマーキング、ついてますよ」


 次の瞬間、私の胸をナイフが突き刺していた。



読んでくださりありがとうございます!

今日の夕方に13話更新予定です!

次で第1章終わりです!よろしくお願いします!

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