アパート
初ホラーです。結構短いですが、結構頑張りました。
これは僕が大学生だった時の話です。その頃僕は一人暮らしをしていて、ちょっとしたアパートに住んでいました。そのアパートは二階建ての、よくあるものです。二階へ上がるための階段とその通路は鉄でできていて、足音とか、傘をつく音とかがよく響いていました。それだけじゃなくて、部屋の扉の下部分は少しかけていて、音が簡単に入るし、冬は隙間風でとんでもなく寒かったです。それに加え、壁が薄いのでしょう。隣の部屋の嬌声とか、騒ぎ声とかがよく聞こえてきました。僕は角部屋だったからよかったのですが、両側に部屋がある部屋の人はうるさくて眠れなかったでしょう。そのせいか、家賃が月一万円とかなり安く済みました。理由を聞いてもはぐらかされるだけで何もわかりませんでした。家賃が高くなっても良いから修理をして欲しいと思った時もありました。でも大家さんは歳をとったお婆ちゃんで、その頃からすでにだいぶボケていたから、今度業者を呼んでも修理してもらうと言っても、その業者を呼ぶのを忘れて冬が終わったりしていました。
そして僕が大学二階生の時の夏、流石に友人もできました。しかも女子の。仮にAとでもしましょう。ちょっといい雰囲気になったりして、今度僕の部屋に呼ぶことになっていました。しかし部屋はあまりにも汚かったから、改めて片付けることにしました。色々なゴミをまとめていたとき、外の通路からポツ、ポツと水の滴る音が聞こえ始めました。別に雨は降っていません。不思議に思いましたが、今はゴミをまとめるのを優先し、ゴミを出しに行くときにでも確認すればいいと思っていたんです。
色々なゴミをまとめ、結局日を跨いでしまいました。そういえば今日はゴミ出しの日だったなと思い出しゴミを出しに行くことにしました。そのとき外からはまだ水の音は聞こえていました。しかし、外へ出てみると何もありません。それに音も止まっています。おかしいと思いつつもゴミを出すことを優先しました。ゴミを出しにいきながらなんの音なのかと考えて、「ああそういえば壁が薄いから隣の部屋の音が聴こてているだけかもしれない。そうに違いないだろう。」そう思い込むのが適切だとなぜか感じました。そう思いながら、僕は家の中に戻りました。
するとどうでしょう。また音がなり始めました。なんならさっきよりも音が少し大きくなっているのではないだろうか。そんな疑念が頭を支配し始め、正体不明の水音で一睡もできず、気がついたら夜が明けていました。その日は一限目から授業があったため、急いで準備をして講義に向かいましたが、結局講義中に爆睡してしまい、Aにノートを写させてもいました。
結局その日から僕は眠ることができなくなりました。音はだんだん大きくなってきている。そのことに恐怖を覚え、何もできないほどに憔悴していました。そんな僕を心配してくれたのか、Aが家に見舞いに来てくれました。憔悴していたとはいえ、流石にその状況に僕はドギマギしてしまいます。しかし、それでも外から聞こえてくる水の音に一気に現実に、いや、今思えば現実とはかけ離れていますが、確かに現実に引き戻されるのを感じました。
その水の音はAにも聞こえているようで、「なに、この音」ととても怯えていたのを覚えています。僕もそろそろ怖いという感情より苛立ちが勝ってきて、僕は数日ぶりに外を見に行くことにしました。這うようにして玄関を開けると、やはりそこには誰もいません。この間と同じようにやはり何も見えない。しかし、一つだけ違う点がありました。開けたドアに生暖かい風が吹き抜けたことです。湿気も全く感じないこの時期にそれは、直感的に嫌な予感がして慌てて振り向くとAの体が大きく跳ね、こちらを向いていました。その目は血走っており、明らかに正気ではありません。僕が声をかけても全くもって反応がない。
慌てて外に出ようとしますが、気づけば背後にAはいました。そして僕は首に手を回される。それは明らかに殺す気の力の強さで、僕は反射的に鳩尾を蹴ってしまいました。それにAの体はよろけますが、瞬時に僕の頬を殴り返してきました。鈍い音が部屋の中に響き、僕は倒れ込んでしまいます。そんな僕に馬乗りになったAに乗り移ったであろう何者かは僕を殴り続け、部屋に何度も何度も鈍い音が響きました。そうして僕の意識は薄れていきました。
次目が覚めた時、最初に目に入ったのは見知らぬ天井でした。目だけを動かして辺りを見渡すとそこが病院だということがわかりました。その後警察から聞いた話では、隣人が通報してくれたのだといいます。多分壁が薄いから殴打音が隣の部屋にも聞こえていたのでしょう。本当に感謝しかありません。
その数日後、Aが近くの川で溺死体として発見されました。首には手の形の痣が残っており顔には苦しさが滲み出ていたらしいです。そのすぐ後、川下で大家さんの遺体も見つかったと聞きました。しかし何の証拠も残っておらず、多分すぐに捜査が打ち切られるだろう。
入院している今でも水の音は続いています。もうすぐ、私は殺されてしまうでしょう。だんだん、だんだん音が近づいてきているのです。絶対に、あそこには住んじゃいけなかったんだ。あのアパートはN県N市O町にあります。絶対に近づかないようにしてください。取り壊してもいけません。取り壊せば、悪霊が外の世界へ出てしまいます。良いですか、絶対にあのアパートに関わらないでくだs