第8話 オタクたちの聖地にて(俺は声優じゃない)
【業務日誌 西暦2025年4月8日】
名前:(江呉依 英知)
<内容>
イベント当日。秋葉原某所。
出演拒否のまま会場入り → 控室押し込まれ → ステージ強制登壇。
ファンの歓声に脳がバグる。
<所感>
夢と現実の落差が、物理で来ると怖い。
俺はたぶん今日、少し死んだ。
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ステータス更新
江呉依 英知:羞恥度:限界突破 好感度:微上昇
天乃つかさ:ファン人気:上昇中 MC乗っ取り:完了
天乃あすか:舞台袖サポート率:120%
社長(天使まこと):突発演出:発動準備中
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「お集まりいただき、ありがとうございますー! 本日は『姉が俺をロリ扱いしてくるADV』体験イベントです!」
司会の声が響く。
控室にいる俺の手は震えていた。
「大丈夫やって、英知くん。ほら、うちも緊張してんで」
つかさが隣で笑う。
その笑顔の裏に、アドリブで全部持ってくタイプの気配を感じる。
「それでは皆さん、お待ちかねの──メインキャスト登場です!」
会場がどよめく。
俺は、背中を押されるようにステージへ。
目の前には……満面の笑みのオタクたち。
「あれ? 本物!?」「うわ、まじで本人じゃん!?」「生えろいえっちきたぁあ!」
「……ど、どうも。え、英知、です……」
拍手と歓声。
なんだこの空気、熱い……
ちょっと……悪くない……?
ステージトークは、つかさとあすかの軽快な掛け合いで盛り上がった。
俺は時々頷くだけ。
ただ、それでもいいらしい。
最後に社長が登壇。
「今日の出演、最高だったてんし! 次回作、主演続投てんしね☆」
(まだ何も言ってないんですけど!?)
こうして俺の“声優じゃない”人生は、声優としての転落を始めたのだった。
【次回予告】
イベント後、SNSは祭り状態!
大学、親族、元バイト先にまで拡散の危機!?
次回、
『身内が動くとき、崩壊が始まる』
次なるバレ先──父、姉、そしてかつての初恋の人!?