アザラシちゃんと人魚さん
『冬の童話祭2025』参加作品です。
「えーん、えーん」
アザラシちゃんが泣いています。
まだ赤ちゃんのアザラシちゃん。まっ白でキレイだけど、お母さんがいません。
…かわいそうに、アザラシちゃんのお母さんはアザラシちゃんをかばって、暴れん坊のシロクマに食べられちゃったんです。
自然の世界は厳しいのです。仕方ありません。
だけど、やっぱり悲しいのです。
だからアザラシちゃんは泣いているのです。
「…泣かないで、アザラシちゃん」
人魚のおねえさんです。
「しばらくはアタシが、アザラシちゃんのお母さんになってあげる」
「…ホント?」
悲しかったけど、人魚のおねえさんが、ぎゅっ、とアザラシちゃんを抱きしめてくれました。
だからアザラシちゃんは、ちょっとだけ元気になりました。
「アザラシちゃん。海には、そりゃあコワイこともあるけど、楽しいことも、いっぱいあるのよ」
「そうなの?」
人魚のおねえさんは、コクン、とうなづいて、
「だからね、アザラシちゃん。アタシと一緒に、海を冒険してみない?」
人魚のおねえさんと一緒なら、きっと楽しい!
アザラシちゃんはそう思って、
「冒険、するー!」
―――ここは冷たい北の海。アザラシちゃんと人魚さんの、広ーい海の大冒険が始まりました。
◇ ◇ ◇
「おねえさん、おさかな、いるよー!」
北の海は、そんなに多くのいきものがいません。
生存競争が激しい海です。お魚は貴重です。
「うん、いるね。アザラシちゃん、おなかすいてない?」
ぐーきゅるる。
人魚のおねえさんに言われ、アザラシちゃんのおなかが鳴りました。
「…うん。おなか、すいてる…」
ちょっと泣きそうなアザラシちゃん。人魚のおねえさんは、お魚を指差して、
「さあ、アザラシちゃん、お魚をつかまえて!」
え!? と驚くアザラシちゃん。
「でも…、でも…、おさかな、かわいそう…」
人魚のおねえさんは、ふるふる、と首を振り、
「アザラシちゃんのお母さんも、きっと『ごはんの捕り方』を教えたかったはずよ」
ごはん…。おさかなは、ごはん。
「………わかった。がんばる!」
キッ、と凛々しいお顔でお魚に向かっていくアザラシちゃん。
ギューン!
アザラシって、海の中でとっても速く動けるんです。頑張ったアザラシちゃん。
パクッ! モグモグ…、ゴックン。
「おねえさん! ごはん食べられたよ!」
人魚のおねえさんに、ぎゅっ、と抱っこしてもらったアザラシちゃん。
「良かったねぇ、がんばったねぇ」
いっぱいほめてもらえたよ。
◇ ◇ ◇
ずぅっと海の中にいると、だんだん息が苦しくなるアザラシちゃん。
人魚のおねえさんと一緒に、海の上にお顔を出すと、海鳥のおにいさんが話しかけてきました。
「おい、休憩するなら、あっちの氷はやめとけよ」
「あら、どうして?」
人魚のおねえさんが聞くと、海鳥のおにいさんは、
「暴れん坊のシロクマを見かけたんだ。そこのチビッコアザラシなんか、一口でペロリだぞ」
大変! アザラシちゃんと人魚のおねえさんは、反対側の氷の上で休憩です。
「…わぁ!」
お空はキレイなスミレ色。おひさまが沈んで、お星様がキラキラ瞬き始めました。
「…これが、おねえさんが言ってた、楽しいこと?」
アザラシちゃんを氷の上に乗せた人魚のおねえさんは、コクン、とうなづいて、
「他にも、もっともっと楽しいことがあるわよ。毎日が冒険だもの」
アザラシちゃんは、人魚のおねえさんと冒険するのが楽しみになりました。
―――冒険の途中アザラシちゃんは、色んな海のいきものと出会いました。
海の妖精・クリオネさんは、カワイイのにごはんを食べる様子がコワかったので、アザラシちゃんはビックリしました。
雪がちらちら舞い落ちる中、遠くの陸地を四本足のいきものが、たくさん走っていきました。
人魚のおねえさんが、あれはトナカイよ、って教えてくれました。
大きなクジラさんも見ましたよ。
プシュー! って音がして、潮を吹き上げたクジラさんに、アザラシちゃんは、スゴイ! って目を輝かせていました。
白イルカさんはステキな声でおうたを歌ってくれました。
「…ステキねぇ。でも、ねむくなっちゃう…」
おうたを聴きながら、波にゆられて、うつらうつら。
人魚のおねえさんはアザラシちゃんを抱っこしながら、白イルカさんと一緒に歌ってくれました。
「♪いい子いい子、アザラシちゃん…」
アザラシちゃんは人魚のおねえさんの腕の中で、波にゆられて眠ります。
◇ ◇ ◇
アザラシちゃんがすっかり上手に、お魚を一人で捕まえられるようになった頃―――。
「…あ! なぁに? アレ! ステキ!」
アザラシちゃんは海の上の陸地に、とってもキレイな紫色の何かを見つけました。
お花です。ムラサキユキノシタって言うんだよ。
「…キレイ。持っていってあげたら、おねえさん、よろこんでくれるかな」
うんしょ、よいしょ。
アザラシちゃんは、陸地を這い上っていきます。
カプッ!
お花をくわえたアザラシちゃん。
(やった! おねえさん、待っててね!)
うんしょ、よいしょ。
海に戻ろうとするアザラシちゃんに、空の上から声がします。
「おい! チビッコ! 急いで逃げろ!」
いつかの海鳥のおにいさんです。
アザラシちゃんが、おや? と思って振り返ると…。
「ガオー!」
大変! 暴れん坊のシロクマです!
アザラシちゃんはあわてて、でもお花をしっかりくわえて急いで海に向かいます!
(うわぁあぁ! コワイよー!)
お母さんみたいに食べられちゃう!
アザラシちゃんは必死に逃げたけど、もう少しで海に入れる、ってところで…、
「グァオー!!!」
キャー! シッポが捕まっちゃう!
「ダメーーー!!!」
ドン!
シロクマは何かに激突されました。
「ギャウ!」
人魚のおねえさんです! おねえさんが海から思いっきりジャンプして、シロクマに体当たりしていました!
「アザラシちゃん! 早く!」
アザラシちゃんは急いで海に逃げのびました。
(…おねえさんは!?)
「キャアァ!」
ああっ! おねえさんがシロクマの爪に、バリリッ! と引き裂かれちゃった!
(イヤーーー!!!)
おねえさんの体が、ブクブクッ、と泡になって、シロクマに襲いかかります!
「ギャオゥ!」
シロクマはビックリ。あわてて逃げていきました…。
(………おねえさん、おねえさん!)
ポロポロポロ…。アザラシちゃんの目から涙があふれます。どうしよう、涙が止まらないよぉ。
「おい、泣くな。早く人魚を助けに行けよ」
海鳥のおにいさんが、アザラシちゃんに言いました。
え? どういうこと???
アザラシちゃんが不思議に思っていると、
「人魚は海の精霊だからな。泡からまた生まれ変わるんだ。…ほら、あそこに打ち上げられてるだろ」
あれ!? ホントだ!
…でも、あの姿は………?
「ププー!」
アザラシちゃんが浜辺に近づくと、そこには人魚の赤ちゃんが!
「おねえさん! …おねえさんが、あかちゃんになっちゃった!」
人魚の赤ちゃんは、ププー! と元気な声でアザラシちゃんに手を伸ばします。
アザラシちゃんは、くわえていたお花を人魚の赤ちゃんに渡すと、人魚の赤ちゃんは、にっこり。
「プププー!」
嬉しそうな人魚の赤ちゃんを、今度はアザラシちゃんが抱っこします。
「お前もちょっとだけ大きくなったんだしな。今度はお前が、その赤ん坊の面倒を見てやれよ」
海鳥のおにいさんはそう言って飛んでいきました。
…そういえば、まっ白だったアザラシちゃんの身体に、いつの間にか輪っかの斑点が浮き出ていました。
アザラシちゃんは、ワモンアザラシだったのです。
「…これからは、ワタシがお母さんになるね! おねえさん…、じゃなくって、人魚ちゃんだね!」
「ププー!」
―――アザラシちゃんと人魚さん。
これからは、アザラシさんと人魚ちゃんになって、海を冒険しようね。
アザラシ、カワイイですよね。
アザラシを愛でたいが為に書きました。
『まめつきふゆか』→『豆月冬河』。訓→音。
挿絵はなるべく『子供が描くタッチ』を目指して… いやウソ、豆の画力、所詮こんなもんorz
皆様『なろラジ』と併合して書かれてるのスゴイ。コレは字数的にムリでした。しょぼん。
ここまでお読み下さったそこのお方、ありがとうございました!(*´∀`*)