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楽式野球部  作者: おちゃ
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第7話

 週末、楽式と硬式の両方の練習を終えた後、後藤田先輩と新藤先輩は新藤先輩の家でシャワーを浴びてから颯真の家へとやって来た。そして、ほぼ自動的に颯真のおじさんに引きずり込まれるようにしてライブのBlu-rayを視聴。無事(?)に、このビルの地下にあるトレーニングルームのカードキーをゲットすることになった。


「さっそくトレーニングルームへ行ってもいいですか?」

「あぁ、いいよ。ただし、今後も月に1~2回は視聴会に参加することが、利用条件だからね」

「はい、遵守します」


 大達は「見たいBlu-rayがあるからシアタールームに残る」と言い、俺と颯真、先輩2人の4人で地下のトレーニングルームに向かうことになった。


「福冨は、どうして硬式野球部に入らなかったんだ?」


 普段はあまり話さない後藤田先輩が、颯真に問いかけた。


「えっと……うちは父子家庭で、これまでは父さんが夕飯を作ってくれていたんです。でも高校に入ったら、今度は自分が夕飯を作ろうと思って。だから、平日は早く帰れるように楽式に入りました」


 おじさんは今でも自分で夕飯を作るつもりだったけど、颯真が自主的に引き受けた。何だかんだで、この親子は仲が良い。


「……そうだったのか。福冨なら赤星と並んで1年レギュラーを取れそうだと思ったが、家庭の事情にまで口を出すつもりはない。悪かったな」

「あ、いえ!ぜんぜん気にしてません。楽式は楽式で、毎日楽しくやれてますから」


 確かに颯真が硬式にも入っていたら、もっと強くなれたかもしれない。でも、颯真が選んだ道だし、俺がとやかく言うことじゃない。そんな話をしているうちに、目的地に着いた。


 カードキーでドアを開けると、広いトレーニングルームには当番のトレーナーさんと、社員っぽい人たちが数人、すでにフィットネスマシンで身体を鍛えていた。


「おつかれさまです」


 颯真が声をかけると、すぐにトレーナーさんがこちらにやって来た。


「颯真くん、赤星くん、おつかれさまです。こちらの二人が、例の先輩ですね。社長から伺っています。これがトレーニングルームのカードキーです」

「「ありがとうございます!」」

「営業時間内ならいつでも利用可能ですが、いくつかルールがあるので、それだけは守ってくださいね」

「了解しました」


 先輩たちは説明を受けると、さっそく室内を見て回り、どんな器具があるかチェックし始めた。


「ここ、いつでも使えるってすごいな」

「ですね。毎日来ちゃいそうです」


 二人は嬉しそうに話しながら、フリースペースにあるトスバッティング用のネットを取り出し、金属バットや木製バットを数本持って素振りを開始。すぐに新藤先輩がトスを上げ、後藤田先輩がボールをネットに打ち込み始めた。この二人、相変わらず行動が早すぎる。


「俺らも、キャッチボールする?」

「うん、しよっか」


 俺が颯真の家に行くときは、トレーニングルームに寄る前提でマイグローブを持参している。そして、颯真もだいたい来てくれる。キャッチボールやトスバッティング、軽いノックなんかは一人じゃできないから、ありがたい。


 キャッチボールを終えると、新藤先輩が颯真に改めて確認をしてきた。


「ねぇ、本当に料金とかかからないの?」

「Liveの視聴会に参加するのが対価なので、大丈夫です」

「俺も一度も払ったことないですよ。おじさん、大人数で見るのが好きなんです」

「まぁ、そのうち布教される可能性はありますけどね」

「あー、ラバストとか渡されるかも」

「何それ(笑)」

「父さんの推しキャラのラバーストラップです。箱買いしてるので、配るほどあるんですよ」

「へぇ……」


 先輩二人はアニメやグッズ事情には疎いらしい。俺も最初はそうだったし、大がいなければ今も知らない世界だったと思う。


 それにしても、ジム並みの設備を使う条件が「ライブの視聴会参加」ってのは、やっぱおじさんらしいよな。でも、それが意外と楽しい。3年も付き合っていると、さすがにだいぶ詳しくなってきた。


「そろそろ、みんなのとこ戻ろうか。ここは営業時間中ならいつでも使えるから、気軽に来てね」

「あぁ、福冨、ありがとうな」

「いえ、オレは何もしてないですよ」

「いや、お前が誘ってくれなきゃ、この場所のことは知らなかったから」


 律儀な先輩たちだ。この二人の背中についていけば、俺はもっと強くなれる——そう思えた。

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