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楽式野球部  作者: おちゃ
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第5話

 日曜日の朝も、俺たちは商店街の端っこに集合し、5人で野球部のグラウンドへ向かった。


「はよーっす。今日も早いな、お前ら」

「「「おはようございます!」」」


 グラウンドには、新藤先輩や後藤田先輩をはじめ、すでに何人かの先輩たちが準備を始めていた。

 でも昨日と違って、どうも試合仕様の準備っぽい。紅白戦か、あるいは――


「もうすぐ小学生の野球チームが来るから、怖がらせるなよ〜」

「新入生には言い忘れてたけど、今日は少年野球チームとの練習試合もあるのよ」


 ……練習試合“も”?

 

 つまり、普通の練習もやるってことか。

 そうこうしているうちに、ユニフォーム姿の小学生たちが集団でやってきた。


「「「おはようございまーすっ!」」」


 さすが小学生。声がデカくて、気持ちがいい。


「松澤先生、今日もよろしくお願いします」

「こちらこそ。朝早くてすまんのう。今日も、野球を楽しもう」


 あいさつに来たのは、少年野球チームの監督らしき人。松澤監督とは顔なじみらしく、笑顔で会話している。どうやらこの学園から少し離れた小学校のチームらしいが、交流があるのは監督同士が知り合いだから、ってことか。


「集合ー!」


 後藤先輩の声で楽式の部員が監督の前に集まり、小学生たちも同じように整列している。


「今日の練習試合に出ない人は、見学してもいいし、小学生と一緒に練習してもいい。ただし、ケガには十分注意すること」

「「「はいっ!」」」


「では、今日のスターティングメンバーを発表する。一番ショート・佐藤、二番センター・長縄、三番サード・丹羽……九番ピッチャー・清水。以上だ」


 名前を呼ばれたのは主に2・3年生。昨日の練習を見た限り、このメンバーはベストとは言えない。

 ――あ、相手が小学生だからか。


 俺たちは出番がないので、ストレッチをしながら試合を見学。俺は軽いダンベルトレーニング、大と颯真も身体を動かしつつ、和佳はフォームに注目してじっくり観察。

 七海はというと、少年野球チームにいた小学生の女の子と話したあと、グラウンドの端っこでその子とキャッチボールを始めていた。


 新入生の大半は見学を選び、上級生の中には、試合に出ない小学生と一緒にノックやトスバッティングをしている人もいる。


 そして、試合開始。

 先攻・楽式野球部、後攻・少年野球チーム。


 相手はおそらく5~6年生が中心。でも数人、明らかに中学生レベルの技術を持った子がいる。こっちも実力を合わせた編成っぽいし、なかなかいい勝負になりそうだ。


「しーみずー、小学生相手にデッドボールはダメだぞ〜! 頼むからコントロールはキレッキレでいけよ〜!」


 外野で小学生と練習している先輩たちが、試合に出てるメンバーに野次とも応援ともつかない声を飛ばしている。


「今の小学生って、こんなに上手いんだね」

 と、和佳が驚いたように言う。確かに守備のフォームも綺麗だし、キャッチの音もいい。


「今出てる子たち、もともとは俺たちと一緒に練習してたんだ。フォームの基礎とか、守備で怖がらないコツとか、少年チームじゃ教えきれないところまで一緒にやれるのが、楽式の良さなんだよ」


 飲み物を取りに来た新藤先輩が、俺の横に立って教えてくれた。


「高校生と試合ができるって、刺激になりますよね」

「だろ?でも俺たち、こういう試合には出してもらえないんだよな」

「え、どうしてですか?」

「実力差がありすぎるのと、硬式との掛け持ち組は、同じポジション使えないってルールがある」

「逆に面白そうっすね、それ」

「うん。ポジション変えてみると、新しい気付きがあるんだよ。……まあ、硬式部には内緒だけど。いろいろ勉強になるからさ」


「先輩らしいっす(笑)」


 そんな感じで、ゆるくも熱い練習試合は進み、5回裏で2対2の引き分け。時間的にも、このあたりがちょうどよかったようだ。


 試合後は簡単な反省会。小学生たちはグラウンド整備、楽式部員は道具の片付けを分担して、今日の活動は終了となった。


 正直、時間がもっとあれば、小学生たちからも話を聞いてみたかった。

 でも、次の部活がグラウンドを使うため、急ぎ撤収するしかない。


◇◇◇


 帰り道、ふと気になって七海に聞いてみた。


「そういえば、なんで小学生の女子とキャッチボールしてたんだ?」

「かおりちゃんっていうの。ぽつんと一人でいたから声かけてみたの。そしたら、お兄ちゃんが試合に出てるから相手がいないって言ってて、じゃあ一緒にやろうかって」


「……他にキャッチボールできる子いないのか?」

「本当は、もう一人女の子がいるんだって。でも今日はお休み。しかも、男の子とキャッチボールすると、からかわれるから嫌なんだって」


「うわ、小学生全員思春期かよ……」


「監督に頼めば代わりの子をつけてもらえるらしいんだけど、後から何か言われるのがめんどくさいみたい。同級生だと特に」

「どこにでもしょうもねぇ奴いるなぁ……」


「かおりちゃん自身は割り切ってる感じだったけど、でも、ほっとけなかったんだ」

「……うん。ななは、そういう子だもんな」


 男子に混じって野球をやる。それがまだ当たり前になりきれていない。

 ――そういえば、和佳も小学生の頃、少年野球に入りたいって言って泣いてたな。


◇◇◇


 夕方、いつものように颯真とジョギングしていると、前から歩いてくる二人組の姿が見えた。


 ――新藤先輩と、後藤田先輩。後藤田先輩は自転車を押していて、ふたりともグローブを持っていた。


「あれ?先輩たち、今まで硬式の練習だったんですか?」

「いや、午前中で練習終わったんだけど、物足りなくてさ。後藤田先輩を誘って、バッティングセンター行ってきた」

「あぁ、あそこですね。オレたちもたまに行きます」


「二人は、いつも一緒にジョギングしてるのか?」

「そうですね。そのあと、颯真んちの地下トレーニング場で素振りとかやってます」

「なにっ、トレーニング場!?」


 普段あまりしゃべらない(イメージの)後藤田先輩が、前のめりに食いついてきた。


「父さんの会社の地下にあるんです。素振りもできるし、トスバッティングも、ちょっとしたピッチング練習もできます」

「あのビルの地下に……そんな空間が?」


 二人は顔を見合わせてから、真剣な目で颯真に言った。


「……俺たちも、そこで練習させてもらうことって、可能か?」

「大丈夫です。ただし――条件があります」


「条件?」


「うちの父さんの趣味に、付き合ってもらうことです」


 先輩たち、そろって首をかしげる。まあ、反応としては正しい。


「父さん、あるコンテンツのガチオタでして……。アニメやライブ映像を一緒に観てくれる人には、快く鍵を渡してくれます」


「……それって、ハードル高いのか?低いのか?」

「人によりますね。大は最初からその界隈の大ファンだったし、侑利はあっさりハマってました」


「最初は話だけ聞いてたけど、みんなでBlu-ray観て、うまいもの出てきたら、もう流れでね。……正直、今は結構楽しんでます」

「なんか、面白そうだな。じゃあ、一度参加させてもらえるか? 練習場所を探すのも限界でさ、人様に迷惑かけずに打てる場所なんてそう無いし」


「わかりました。父さんに聞いておきます。OK出たら、アクセスキー渡しますね」

「ありがとう、よろしく頼む」


 ――この二人は、間違いなく“こっち側”に来る。


 そう確信した。


 そして、ひとつだけ言わなかったことがある。


 ……趣味に付き合わされるのが「たった1回」では済まない、ってこと。


pixiv の方で、颯真が主役の二次創作もやっています。

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