表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽式野球部  作者: おちゃ
3/13

第2話

「1年の赤星侑利です。硬式野球部に入部希望です!」


 入学式が終わり、校内の中庭では上級生たちが部活動の勧誘をしていた。

 俺は制服のまま、まっすぐ硬式野球部のテントに向かっていた。


「ちょうどこれから練習あるけど、見学してく?」

「すみません!このあと楽式野球部にも入部届を出す予定なんです」

「……あ〜、今年の“変人枠”はおまえか」


 へ、変人枠?


「毎年ひとりくらい、硬式と楽式の両方に入る奴がいるんだよ。今は3年にひとり、2年にもひとり。ふたりとも成績トップクラスなのに、筋金入りの野球バカ」


「じゃあ、俺が三人目の野球バカですね!」


 変人=野球バカなのか?って疑問は残るけど、先輩たちは悪い感じじゃない。むしろちょっと嬉しそうだった。


「これからよろしくお願いします!」

 俺は深く頭を下げて、待ち合わせの場所へ向かった。


「お、俺が最後か。遅れてごめん、硬式には出してきた」

「じゃあ、次は楽式野球部だな」

「おーっ!」


 俺以外の4人がグーを突き上げる。全員で入部、改めて気合が入る。


 同じ中学から進学した幼なじみ3人+親友1人。家もみんな商店街の中にあり、中学時代はずっとこの5人でつるんでた。高校でも同じ部活に入るなんて、改めて思えばけっこう幸せだ。


「そういえば、硬式と楽式の両方やってる先輩って二人いるらしいな」

「やっぱ、侑利と同じような野球バカなんだろうな〜」

「ぱっと見で分かりそうじゃない?“俺、野球しか興味ありません”みたいな顔してそう」

「その先輩たちに、硬式部の立ち回りとか教えてもらえるといいね」

「上下関係厳しそうだしね……。礼儀でマウント取ってくるタイプはちょっと嫌だな」


「あ、あれかな?」


 和佳が指差した先には、硬式野球部とは違うデザインのユニフォームを着た男女が、入部受付をしていた。


「新入生のみなさん、こんにちは。楽式野球部への入部希望かな?」

「こんにちは!5人とも入部希望です!」


「うれしいっ!!しかも女の子が2人も! 私、3年の清水っていいます。ポジションはライト。入部届、こっちで預かるね。じゃあ、ここにクラスと名前、希望ポジションとか書いてもらえる?」


「ちょ、清水。テンション高すぎ。後輩ドン引きしちゃうって」

「あっ、ごめんごめん。でもね、男女混合って言っても、やっぱ男子が多いからさ……女子が入ってくれると、ほんと嬉しいの!」


 3年の清水先輩は、女子部員が入ってきたことにテンション爆上がり中。悪い人ではなさそうだけど、だいぶ明るい。


 名簿を渡され、ひとりずつ書いていく。

 ……が、なんだこの質問欄? 野球と関係なさそうな項目が多すぎる。


| クラス | 名前 | 希望ポジション | 好きなもの | 好きな食べ物 | 夢や野望 |

| ------- | ----- | ---------- | ------------- | ------- | -------------- |

| 特進科1年1組 | 赤星 侑利 | ショート&ピッチャー | 野球 | クリームソーダ | プロ野球選手 |

| 普通科1年3組 | 兼田 大 | キャッチャー | アイドル育成ゲーム・アニメ | 鶏の唐揚げ | 家業とアイドルの夢のコラボ |

| 特進科1年1組 | 福冨 颯真 | セカンド | ITガジェット | カレーライス | 不労所得で自由な人生 |

| 普通科1年5組 | 白瀬 和佳 | ファースト | 星型の小物 | ケーキ | 自分だけの“新星”を見つける |

| 特進科1年1組 | 本多 七海 | マネージャー | 本・漫画・小説 | あんこパイ | 物語を紡ぐ作家になりたい |


「夢や野望って……これ、何の参考にするんだろうな?」

「まさかポジション決めの参考にされたら困るな……」

「いや、むしろ面白いかもよ?夢とポジションがマッチしてたらテンション上がるし」

「和佳、“新星”って何?」

「ふふ、内緒」


 こうして俺たち5人は、無事に“楽式野球部”へと仲間入りした。


 全員が書き終えたあと、つい気になって名簿を覗き込んだ。

 ……やっぱり、俺の親友たちは正直すぎる。食べ物とか夢とか、よくそんなに素直に書けるな。


 それにしても、好きな食べ物とかそのうち食べさせてもらえるんだろうか。うちのクリームソーダのアイスクリームよりもおいしいアイスクリームがあるのなら大歓迎だ。


「――あっ、光人だ!おーい、光人! ちょっとこっちにも顔出してってばー!」


 突然、清水先輩がグラウンドの方へ叫んだ。

 その声に気づいたのか、体操服にグローブを持った男子がこっちに向かって走ってくる。……って、あれ新藤先輩じゃん。


「……先輩、相変わらず声でかいっすよ。で、お前ら、久しぶりだな。まさか硬式じゃなくて楽式に入ったのか?」


「「「新藤先輩、お久しぶりです!!」」」


「え、知り合いなの?」

「全員、中学の後輩。しかも、全員同じ商店街出身」


 そう言いながら、新藤先輩は大の頭をワシャワシャとかきまわすように撫でていた。


 ――これで確定。硬式と楽式を掛け持ちしてる2年の“変人枠”は、新藤光人先輩。


「へぇ、みんな商店街の子なんだ〜。光人んちは薬局だよね? みんなの家は?」


「俺んちは喫茶店。で、その隣が和佳んちのケーキ屋」

「洋菓子店って言って!」

(いや、ほぼ同じだろ……)


「僕の親はIT企業を経営してます」

「商店街の端っこにある、高いビルの最上階に住んでるお坊ちゃんだよね」

「あー、あれ、確かに目立つよな」

「お坊ちゃんじゃありません!ごはんも自分で作ってます!」


 颯真が顔を赤くして否定する横で、新藤先輩はまだ大の頭をくしゃくしゃやっている。


「ボクんちは肉屋と、隣で焼肉屋やってるよ」

「私は、その斜め向かいの本屋」

「えっ、その本屋さん! 毎週、学校帰りに週刊漫画買ってます!」


 今まで黙っていた先輩が、急に会話に入ってきた。多分、3年生。七海はすぐに丁寧なお辞儀を返した。


「いつもありがとうございます!」

 七海、こういう時だけ本屋の娘っぽくしっかりする。


 紙の本が売れにくくなってる今、七海の父さんは結構がんばってるらしい。手作りのポイントカードやくじ引きイベントとか、いろいろやってる。


「僕は楽式野球部の部長、後藤です。ポジションはサード。漫画大好きです」


 柔らかい口調と雰囲気の人で、見た目も話し方も、ザ・文化系って感じ。


 その後も新入生がポツポツとやってきたので、俺たちは一足先に先輩たちに挨拶をして帰ることにした。


「今日も、颯真んちの練習場、使わせてもらっていい?」

「もちろん。でも、父さんに捕まらないようにね。今週、新しい円盤出たばかりだから、きっと“鑑賞会しよう”って誘われる」

「えっ!?今週のって、あのライブの?」

「ボクも見たい!!」

「大は一回帰って着替えたらうちに来ていいよ。でも、視聴会は今度みんなでする予定だよ?」

「ライブは何回見てもいいの!!」

「はいはい、待ってるよ」


 こうして、俺たちは校門を出て、いつもの商店街の方へ歩いていった。

 それぞれの家の前で「またなー!」と手を振って別れた。


 ――やっぱ、家が近いって最高だ。


pixiv の方で、颯真が主役の二次創作も始めました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ご近所さんばかりなんですね。 近いからおのずと集まることが増えて、その流れで野球をしていたのかな? 今後の部活も楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ