第1話
「あー、ボクと和佳ちゃん、クラス別れちゃったね」
「大は3組で、あたしは5組かぁ」
「お前らがもうちょい勉強できてりゃ、そもそもクラス分けなんて気にしなくてよかったんだよ」
「すーぐそうやってバカにするの、やめてくんない?」
今日は翠嶺学園高等部の入学式。俺たち“仲良し五人組”(……いや、やっぱこの表現はちょっと気持ち悪いな)が、昇降口前のクラス分け掲示板に群がっていた。
俺・颯真・七海は特進科だからクラスは最初から1組で固定。けど普通科は5クラスあって、大と和佳はそれぞれ3組と5組に分かれちまった。
「ボクが普通科に受かったのも奇跡みたいなもんだし。商業科にしようか最後まで迷ってたしね」
「なな、大ちゃんと同じクラスがよかったな〜」
「うっ、ごめん……俺の学力不足で……」
大と七海は小学生のころから付き合ってる幼なじみカップルだ。
校外でも噂になるほど可愛い七海が、ちょっとぽっちゃりな大にベタ惚れって構図が、なかなか面白い。
ちなみに、俺たち5人は家から一番近いこの高校を目指して、一緒に受験勉強を頑張ってきた。
だけど特進科に受かったのは俺と颯真と七海だけ。大と和佳は惜しくも普通科での合格だった。つまりまあ、点数がちょっと足りなかったってわけだ。
「でも5組には同中の子何人かいるし、休み時間に遊びに行くし大丈夫だよ」
「特進科って、俺ら以外に同中いたっけ?」
「ボクたちが休みに行って、邪魔者扱いされなきゃいいけど……」
「中等部からの持ち上がり多いらしいし、煙たがられる確率は高い!」
「大ちゃんを邪魔者扱いする人は、ななが許さないから安心して!」
「侑利、そろそろ教室戻ったほうがいいよ。大、和佳、またあとで!」
手を振って別れ、俺たち3人は特進科の教室――1年1組へと向かった。
……そうだな、なんて呼べばいいんだろうな、俺たちのこと。
“商店街の悪友グループ”? いや、それも違うか。
とにかく俺たちは、家から近いって理由だけじゃなく、「全員で楽式野球部に入って青春を謳歌する!」っていう、ちょっとダサいけど熱い目標のためにこの高校を選んだ。
中学時代、和佳以外の4人は野球部で(七海はマネージャー)、和佳はソフトボール部。
でも、大は中3のときに足を怪我して、キャッチャーとしての守備は3イニングが限界になってしまった。
颯真は裕福な家の一人息子だけど、父子家庭で夕飯は自分が作るから、平日は早く帰りたいっていう事情がある。
そして俺。赤星侑利。
とにかく野球が大好きで、夢はプロ野球選手。
本当なら強豪校を目指すべきなんだろうけど、どうしてもこの仲間たちと離れたくなかった。だから、この翠嶺学園を選んだ。
――この学校には、硬式野球部と楽式野球部という、二つの野球部がある。
活動時間も方針もまったく違うから、俺は両方に入部するつもりだ。
ガチもやるし、エンジョイも捨てない。
どっちも本気でやってこそ、本当にうまくなるって信じてる。
「侑利、なにぼーっとしてんの? 教室、行くよ!」
――気づけば、入学式は終わっていた。
やべぇ、何ひとつ聞いてなかった。