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第八話:……内緒……

「さて……それから、どうかな?」


 席につき、コーヒーを一口口に運ぶとトーマはすぐに話を切り出した。それからどう、とはつまり結季奈のことだ。結季奈からすれば余計なお世話だったが、声色から真剣に心配していることが感じ取れ邪険にはできず、月並みな返事を放るように返した。


「本当に?」


 返事の代わりに結季奈もコーヒーを口に運ぶ。いつも以上に砂糖を入れたコーヒーはかえって酸っぱく感じた。

 そんな結季奈の様子を前にトーマはそれならよかった、と少し安心したように微笑んだ。


「ねぇ」


 唐突に結季奈が口を開く。トーマは今度は少し驚いたような顔をした。


「なんだい?」

「……やっぱり、昨日のことは嘘じゃなかったんだよね」

「うん。そうだよ」


 結季奈がまた大きなため息をついた。もう何度目かわからないほどしている気がする。


「……聞きそびれたんだけどさ」

「?」


 もうこうなったら不安なことは全部取り除いてしまおう──結季奈はヤケに近い気持ちで質問をトーマにぶつけることにした。

 対してトーマのほうも姿勢を正して結季奈の質問を待つ態勢にシフトしていた。視界の隅にちらちら映るコーヒーの湯気が少し鬱陶しく思えてくるくらいには空気に微妙な緊張が生まれた。


「紫乃崎……先生とか、センチュリオンとか……なんで皆私のことを知ってるの? 皆が他のイコンと戦ってる、っていうのはなんとなくわかったんだけど、なんだか不気味で……」


 最後の方はぼそぼそと尻切れトンボな物言いになってしまい俯く。投げかけた疑問は一つだが、結季奈にとってはなかなかにリスキーな質問だ。もしトーマが結季奈にとって、思っている以上に好ましくない相手ならば、〝自分はあなた達に不信感を持っている〟と伝えたようなものだからだ。

 それだけに結季奈は質問と同時に俯いてしまった。トーマの反応を観察しなければならないが、正直に言うと少し怖かった。


「……」


 トーマからの返事はない。やがて結季奈はこの沈黙に耐えられなくなり、思い切って顔を上げた。

 するとそこには──やたら気まずそうなトーマの引きつった笑みがあった。


「あー、いや、その、あはは……言っちゃまずかった……かな?」

「は?」

「す、すいませーッ!僕が彼らに紹介したからですっ!」

「お……お前かあああああああ!」


 白状するように少し大きな声を上げたトーマの頭を結季奈が勢いに任せひっぱたいた。

 同時に安心もした。少なくとも月姫らは何かしらの理由で自分のことを調べ上げていた、とかそういうわけではなかったのだ、と。

 しかしそう思った瞬間、別の事実にも気づいてしまい、一拍前の安心が一気に引っ込んでしまう。


「……待って、だとしてもあんたと……忠雪はどうなるの?」

「え?」


 月姫らの持つ結季奈の情報の出所はトーマ。そのトーマがどうやって結季奈の情報にたどり着いたのか、そして少なくとも結季奈に襲い掛かった時点ではトーマらと関わりが無かったはずの忠雪もどうして結季奈のことを知りえたのか。

 結季奈はトーマの顔を覗きこむ。


「どういう……こと……?」

「……な」

「な?」

「……内緒……」


 トーマは気まずそうにそう言って視線を外した。いろんな意味で予想外だった返答に、結季奈は面喰らってしまう──


「は?」


 なわけあるか。


「内緒って何あんたこの……話せ、話せこの変態シェリフうう!」


 結季奈はトーマの胸倉を掴み前後に乱暴にゆすった。トーマの頭が危なっかしく揺れるがそれでもトーマは口を割らない。


「いっ……言えっ……ないよまだっ……今、は」

「今は言えない? なにそれ……」


 結季奈は手を離すと不審そうに言う。対してトーマは苦しそうに二、三せきをした。

 話さない、というのはまぁ予想通りの反応ではあったが、〝今は〟とついたのが気になった。ではいずれ話してくれるというのか?もちろん、それにはトーマとの関わりを絶たないという前提があるが。


「言葉の通りさ……今は話せない。ただ安心して。少なくとも僕は別にそんな危ないルートで君を知ったわけじゃないから……」

「知らない人に名前を知られてるって時点で既に危ないんだけど……?」

「そう?」

「あぁそっかイコンには無い感覚か……もうやだこいつ……」


 結季奈は頭を抱える。対してトーマは愉快そうに笑った。

 笑い事じゃない、と結季奈は言葉を続けようとしたが無意味だと直感した。トーマは柔和な笑みを浮かべているがおそらくこの件に関しては絶対に口を割らない。そんな雰囲気を纏っていたからだった。





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