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第七十話:だから私はここが好きなの

これにて完結になります、ありがとうございました!

本作自体はもう五年くらい前に書いたものになるんですが、今回再編集してみてなんだか懐かしい気分になりました……次回作も頑張っていきたいと思っています。ご縁があればまたお会いしましょう!

 日本、東京都千代田区。北部神田地域に属する場所。西は九段下、東は小川町に挟まれた地域。この土地には神保町の名が与えられ、多くの人間が足を運ぶ場所になっている。

 かつての大火事で一度全てを失ったこの町は、焼け跡に生まれた一件の古書店から再出発し、今では国内有数の書店街となった。

 出版界の最先端を走る巨大な書店から、美しく年を重ねた古書を扱う小洒落た古書店まで、おおよそ書店の個性というものをここまで感じ取れる場所はそうそうないはずだ。


「だから私はここが好きなの」

「あぁ……そうだったわね」


 劣化した紙の独特のにおい、多くの人間の手を渡り歩いてきたであろう本が醸し出す老練な雰囲気を全身で感じながら、多摩川結季奈はそう語った。

 向かうはこの古書店の主人。自らの祖母程に年が離れているが、結季奈にとっては数年来の大事な友人である。


「いやね、最近あんまり来なかったじゃない? ちょっと心配してたんだけど、また来てくれるようになって安心したわ」

「えへへ……ご心配かけました」

「しかもお友達まで連れてきちゃって……ちゃんと先輩してるじゃない」

「お邪魔してます」


 主人が笑いかけた先では、相澤が明るく笑っていた。


「いいのよここお店なんだから。それで? あなたはどんな本をお探しなのかしら?」

「違うよおばあちゃん。今回は私の買い物」


 ふと、結季奈が二人の間に割って入る。


「わかってるわよ。ほら、これでよかったかしら?」


 そう言って主人はカウンターの下から小さなビデオテープを取り出した。ボロボロの紙の箱に入れられており、かろうじて残っている銃と荒野の印刷から恐らく中身は西部劇だろうと推察できた。


「これが……キッド先輩の」

「そう。チルドレン・フロンティア」

「本当に結季奈ちゃんがこれに興味を持つなんてねぇ。意外だわぁ」


 上品に笑う主人の前で結季奈は上機嫌に財布を取り出した。


「そうなんですー。これから結季奈ちゃんはかわいい後輩と一緒に鑑賞会なのです」

「あら、そうなのね」

「先輩、その前に秋葉原ですよ」

「わぁかってるって。それよりハードはちゃんと買ったの?」

「大丈夫です。一昨日中野で見つけました」


 そう言って親指を立てて見せる相澤はどこか自慢げだった。そんな彼女を前に主人は孫娘でも見るかのように微笑んだ。


「はい、それじゃきっかり一万円ね」

「はーい、ありがと。それじゃおばあちゃん、また来るね!」

「はいはい、待ってるわ」


 いつものように主人と別れを済ませると、結季奈は相澤を伴って店の出口へ向かった。この後二人は秋葉原へ向かい、近未来の地球を舞台に繰り広げられる戦争を描いたレトロゲームを探しに行くことになっていた。


「……」

「多摩川先輩?」


 ふと、結季奈が足を止める。

 ひょっとして、ここを出たらまた事件が起こらないだろうか。そう、期待してしまった。足元の、この引き戸の桟を踏み越えたら目の前に幕末日本の光景が広がっていて、何者かに操られた人斬りが襲いかかってきて──


「……なわけない、か」


 しかし当然、そんなことは起こらなかった。相変わらず、いつもの神保町がそこにあるだけだった。


「じゃ、いこっか、菜緒ちゃん」

「はい! あれ? 多摩川先輩、駅はこっちですよ?」

「え?」


 ふと、結季奈が振り返る。そして、優しく笑った。


「いいよ。歩こう? どうせたいした距離じゃないんだし」

「……そうですね。わかりました!」


 二人の少女は笑い、大通りへと足を向けた。

 道行く人、流れる雲、頬をなでる風を感じながら、しっかりとした足取りで、歩いていく。彼女達が護った、彼女達の世界を。

 それぞれの〝わたしのせかい〟を。






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