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第五十四話:メアリ。来たよ

 神保町には多くの書店がある。古風な古書店から、今風のブックカフェまで、その在りようは様々だ。

 そんな中に一件、堂々とその姿を見せ付けるように建つビル。本屋街である神保町を象徴するようにどっしりと構えるその書店は、三省堂の名を与えられていた。


「思えば、ここだけなんともなかったんだよね、この三日間」


 再生と消失を繰り返す混沌とした街の中で、いつもと変わらずその存在感を見せ付ける重厚なビルの前に立ち、結季奈が呟いた。


「灯台下暗し、というやつだな。潜伏先にここを選ぶとは。あいつらしいというか余裕の表れというか……」


 そんな結季奈の腰に取り付けられた通信機から月姫の声がする。

 今、三省堂の前には結季奈、トーマ、センチュリオン、宇琳の四人が立っていた。復活した月姫は何をしたのか、早々にメアリーが三省堂に潜伏しているのを突き止め、四人を急行させた。結季奈にとっては三日ぶりの外出となったが、相変わらず外はこの世の終わりのようなありさまで、ほんの数分歩いただけなのにもう気が滅入ってしまいそうだった。


「……さて、どうしようかしら?」

「このまま中に入るのはまずい気がするなー」


 センチュリオンも宇琳も流石に慎重だった。メアリーが強力なイコンだということは二人ともよくわかっている。それだけに無策で突っ込んではろくなことにならない、ときちんと理解していた。


「……大丈夫。あいつのことは……よく知ってるから」


 不意に結季奈が呟き、一歩前に出る。


「……メアリ。来たよ」


 静寂。まるで友達に声をかけるような気楽さで放られた結季奈の言葉が、宙へ消えていった。


「……」

「……」

「……はぁいいらっしゃぁい」

「!」


 イコン達が一斉に構えた。結季奈の言葉が消える直前に唐突に入り口からメアリーが現れ、恭しくお辞儀をした。理不尽な程唐突に現れ、おちょくるような態度を取った。


「三日ぶりだね結季奈。あれからどう? 随分お通夜ムード漂ってるケド」

「……」


 メアリーの言葉に結季奈は答えない。重苦しく、探るような態度で、返答を先伸ばしているように見えた。


「ケッ、なんだよアンタにはシリアスは似合わねーンだよ、なんとか言いなよ」

「あんたは……何がしたいの」


 ん?とメアリーが眉をひそめる。


「こんなことして……皆を傷つけて……!あんたはどこを目指してるの? 何がしたいの?」

「ふふん……いいよ。教えてあげる。結季奈ならわかると思うんだけどさ、メアリー・スーってなんでもできちゃうワケよ」


 メアリーはそう語りながら、その場を歩き始めた。まるで講演会で語る講師のようだ。


「でもさー、それってつまんないンだわ。わかるっしょ? 万能故の渇望ってヤツ。いや、わかるワケねーか」

「……」

「まぁでも、そんなワケで私は求めたんだよ……万能の私を阻み、無残に叩き潰し、思い通りになることを防ぐ……脚本ガン無視、整合性皆無の、クソみたいで最ッ高な……理不尽を!」

「……何、それ……」

「世界はそこに生きる人間に優しくあるべきって私は思うんよー。だから私は願いを叶えてもらうことにしました。この世界には、理不尽に溢れてて、意味わかんない混沌とした私の理想に溢れた世界……〝私の世界〟になってもらうことにね!」

「──ッ」


 絶句。言葉が出てこない。なんとか感想を搾り出すとすれば──

 ──狂っている。

 まるで理解できない。目の前の少女の頭の中はどうなっているのか。結季奈は寒気すら覚えた。


「そんなことの為に……忠雪は……!」


 おっ、とメアリーが声を漏らす。


「そうそう。忠雪。アンタ達この三日間、滑稽なくらい必死になってアイツのこと探してたよね。もうちょっと引き伸ばすつもりだったケドいいタイミングだし、もう教えちゃおっか。はいカモォン!」

「!」


 すると、メアリーの背後にあった自動ドアを手で開き、誰かがのそのそと歩いてきた。俯き気味で生気を感じられない姿だったが、ふと、目の前に誰がいるのかを認識すると腰に手を伸ばし──

 刀を抜いた。


「忠雪ッ!」


 誰かがそう叫ぶと、ほぼ同時に忠雪は一気に間合いを詰め、センチュリオンに斬りかかった。結季奈と初めて出会った時と同じ濃厚な殺意を身に纏い、全身が鳥肌立つのを感じる。


「はぁい忠雪ちゃんくんです。もっかい従順になってもらいましたー」

「アナタまた……もう、ほんっとチョロい子ね!」


 怒ったように言いながら振るわれたセンチュリオンの拳を忠雪は易々とかわし、死角からまた刀を振るう。しかしその切っ先がセンチュリオンに届く前に横から銃声が鳴り、刀身に弾丸が着弾した。


「忠雪! しっかりするんだ!」


 トーマが叫ぶ。しかし忠雪は苛立つように首をかしげると、今度はトーマに標的を変え走りだした。


「先生! 忠雪が……!」

「くそ! やむを得ん、応戦しろ!」


 月姫と通信する結季奈の目の前で、忠雪がトーマに対し大上段から斬りかかった。しかしトーマは半身に体をそらしそれをかわすと、振り下ろされた忠雪の腕を掴み、顔を近づけた。


「僕の声を聞くんだ。君はそんな奴じゃないだろう?」


 しかし忠雪には届かない。やや乱暴に腕を振りそれを振り払うと、反対に片手でトーマの首を掴み、地面に乱暴に叩きつけた。


「待ちなさい!」


 しかし忠雪が上体を起こすとセンチュリオンが後ろから羽交い絞めにする。同時に宇琳の人形が二体飛びかかるが、忠雪はまだ自由だった両脚で飛び上がり、羽交い絞めにされたまま脚で人形を叩き落す。そのまま着地の勢いを使ってセンチュリオンを背負い投げの要領で投げとばした。


「うわっ!」


 着地点にはトーマ。センチュリオンの巨体の下敷きになったトーマは情けない声を上げる。


「うっわ強っ。忠雪ってこんなに強かったんだ」


 そんな様子を見てまるでメアリーが他人事のように笑っている。

 足がすくむ。そんなメアリーやイコン達の姿を見て、結季奈が初めに感じた感覚はそれだった。イコン達が戦う場には何度も出くわし、巻き込まれたはずなのに今回は何かが違う。

 しかしこのまま立っているわけにはいかない。だって自分はここに戦いに来たのだから。トーマ達の助けになるためにここへ来たのだから。すくむ足を、進むことを拒否する頭を、無理矢理に動かして前へ出る。


「……メアリ」


 そして友の名を呼ぶ。これまで何度も口にし、何度も浪費してきた単語だったが、今ほど口に出す事を躊躇い、苦労したことはなかった。

 その言葉に、メアリーがいやにゆっくりと反応した。まるで名を呼ばれるのを待ち望んでいたかのように、もったいぶって首をまわした。


「……なぁに結季奈」

「もうやめて」

「……」


 もっと沢山の言葉を用意してきたはずだったが、結季奈の唇を通って放られた言葉はそれだけだった。その言葉にメアリーは何か反応を返すわけでもなく、ただ黙り込んだ。


「……」

「……え、そんだけ?」

「もう……やめてよ、忠雪を止めて!」


 はぁ、とわざとらしくメアリーはため息をつき、腕を組んだ。まるで結季奈の言葉が期待はずれであると言わんばかりだ。


「もっとなんかないワケ? こう……ドラマチックなさ。今めっちゃいい場面だよここ?」

「そんなの関係ない」

「あーんもう、わっかんねぇ子だなぁ。ここめっちゃ盛り上がる場面なんだからさぁ。盛り下げないでよ。気分乗んない。ほらもっと盛り上げて! ほらほら!」


 バチン、と鈍い音が突然響いた。






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