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第三十九話:ワタシが応援してあげようか?

「やっほー、宇琳だよ」

「宇琳だよ、じゃねぇよ。あのカマ野郎は大人しくできないのか……」


 センチュリオンの周囲に生まれた人混みに近づいていくと、中からひょっこりと宇琳が現れた。いつものように間抜けな調子で挨拶をする宇琳を前にシグは頭を抱える。


「健全なる筋肉はあらゆる問題を解決するわ。そう! このワタシのようっ、にっ!」


 そんなシグをよそに相変わらずセンチュリオンは一人ボディビルを続けている。シグはらちが明かないと言わんばかりに大きくため息をつくと人混みを掻き分け、センチュリオンの襟首を掴むとそのまま一番奥の屋台の前まで連れて行った。 


「おい多摩川」

「あ、幣原。どうしたの?」

「お前の兄貴が来てるぞ。話があるらしい」

「やだ兄貴だなんてそんな……あ、でもワタシは大歓迎よ」

「変な誤解生むからやめてくれない?」


 そう言いつつも結季奈はテントの下から出てきた。一方のシグはテントの奥に目をやるが、そこに探し人はいないように見える。


「……キッドはどうした」

「ハンド部のエキシビションマッチがあるってさっき出てったよ」

「熱心な奴め。応援にでも行ったか」


 探し人が都合よくいないことに若干苛立ちを覚えながらシグが言う。


「プレイする側。あいつレギュラー取ったんだよ」

「は?」

「あら! トミーったらスポーツマンだったのね!?」

「待て」

「ハンド? なにそれ! 宇琳も気になる!」

「ちょっと黙れ……」

「シグ殿! これが焼きそばですか!?」

「……」


 ***


「それで? 紫乃崎がどうしたってんだ」


 それからしばらくして、校庭の隅へ場所を移したシグはトーマの到着を待たずして話を切り出した。するとそれまで自分の目的などすっかり忘れたように焼きそばを啜っていた忠雪が急に神妙な面持ちに変わる。


「いえ、話と言うよりは聞きたいこと、でしょうか。できれば先生の居ない所で聞きたかったもので……」


 シグが眉をひそめる。同時に結季奈もまた怪訝な顔をした。

 聞けば忠雪らは学校での月姫の最近の様子について聞きたいらしい。確かに、最近の月姫についてはシグもまた気になる所ではあった。先日、ハンターの一件を解決してからというものの、月姫の態度はにわかに変化していた。それだけならまぁ問題はなかったのだが、数日前からはそれがさらに露骨になってきている。


「態度も事務的だし、なんというか……人間味が感じられないのよね」

「学校ではどうなの? そう思って来たんだけど」


 宇琳が結季奈に質問を投げる。それに対し、結季奈は思案するように首をかしげた。


「うーん、学校でも変わらないかなぁ……ずっと保健室に引きこもってて。それ自体はいつも通りなんだけど確かに最近会ってすらくれないんだよね」

「……何かあったな。ここまで露骨に変わるのは何かある」

「それがわかれば苦労しないよー……」 


 ***


「先輩……遅いなぁ……」


 その頃、校舎の一角、コンピュータ室では。先ほどと打って変わって人気の無くなった室内で相澤が小さくそう呟いた。

 元より配置の悪い教室、部員の少なさ故の展示物の少なさ。そのせいで文化祭だというのに相変わらず人が訪れないこの場所では時間を潰すのも一苦労である。窓の外に見える校庭の喧騒をどこか遠く感じながら、無音ではない静寂にひたすら身を委ねていた。


「……?」


 と、その時である。ふと扉の向こうに気配を感じた。扉の方を見やると同時に扉が上品にノックされる。

 シグが帰ってきたのか。そう思い、やや急ぎ気味に扉を開く。すると──


「ハァイ。調子どう?」


 メアリの笑顔が視界に入り込んできた。


「あ、スミス先輩……お久しぶりです」

「久しぶりだネー。元気してた?」


 相澤とメアリは日向との一件以来、なんだかんだとあまり関わりが無かった。何があったという訳ではないが、ずっと会うことも無かったのでメアリの訪問は相澤にとって意外だった。


「えっと、先輩は今外出してまして……」


 恐らく訪問の目的は自分ではなく、クラスメイトであるシグの方だと推測した相澤は室内にずけずけと入り込んでくるメアリに対しシグの所在を伝える。しかしメアリは優しく微笑み言葉を続けた。


「オゥ、そなの? まぁでも丁度よかったヨ。今日はナオと話がしたかったんだヨネ」

「……私ですか?」


 しかし意外にもメアリの目的はシグではなかった。相澤は少し驚いたような顔をしたが、すぐに椅子を引っ張ってきてメアリに勧めた。メアリはそれに丁寧に礼を言い、やはり上品な所作で座り込む。


「それで……あの、私に用って」

「もーう、ナオも鈍感だネー! 密室に女の子が二人……やることと言ったら一つでショ!」


 ずい、とメアリが相澤に顔を寄せる。ほんのりと良い香りが鼻腔をつき、気圧されたように少し身を引いた。


「え、ええと……やることって」

「恋バナに決まってるでショー!」


 そう言うなり、メアリの顔が噂好きの少女の顔に変わる。先ほどまでメアリの不思議な雰囲気にどこか不気味さを感じていた相澤は少し安心したようにその言葉を受け止めた。


「そ、そうでしたか……」

「ねね、早速だけどさ、シデハラとナオってやっぱり〝そういうとこ〟まで行ったの?」


 その瞬間、一気に相澤の顔が赤くなった。


「そ……そそそそんなことないですっ! 先輩とは、まだ……!」

「えぇ? ほんとにぃ?」

「本当です……!」


 あからさまな相澤の態度を面白がるようにメアリは笑う。いつの間にかメモ帳と悪趣味なペンを手に握っており、あまりにも単刀直入な物言に返って来る可愛らしい反応を楽しんでいた。

 その反応に、少しメアリのいたずら心がくすぐられる。少しいじわるく笑うと、赤面しながら言葉を続けた。


「でもシデハラとはそういう関係になりたくないの?」

「え、えと……その……」


 ふと、相澤の手に何かが置かれた。見ると、黄金のペン先が横たわっている。それに反応するように顔を上げると、メアリが相変わらず優しく微笑んでいた。


「……ワタシが応援してあげようか?」

「……え?」






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