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第三十八話:なんで来たてめえぇ……

 月姫とメアリのやりとりがひっそりと行われた昼過ぎから数週間後。九段下では某高校の文化祭が無事開催された。学校の内外から人が集まり、校内は普段とは違う賑やかな雰囲気に包まれている。

 その中にあって、校内の隅にひっそりと存在しているコンピュータ部は静かだった。文化部である以上、文化祭の主役であるはずなのだが、目立った宣伝を行わなかったからか、はてまた事実上の廃部状態であったからか、文化祭開催から部室ではずっと閑古鳥が鳴いていた。


「……暇だな」


 シグが口を開く。部室の入り口に行儀良く座り、来訪者を律儀に待ち続けている相澤とは対照的に部室の真ん中に置かれたテーブルに足を置き、椅子をゆらゆらとゆらしている。


「そう……ですね」

「そういやお前、クラスの出し物はいいのか?」

「あ、はい。シフトは午後からなので」


 しかし意外にも、気まずい空気は流れていなかった。部の出し物としてシグが急ごしらえで用意したゲームのBGMが少しやかましかったが、二人は音のある奇妙な静寂に身を委ねることを良しとしていた。

 やがて相澤が黙って立ち上がり、部室の隅に置かれた青いノートパソコンの前へと移動する。数ヶ月前に秋葉原で購入した幸運のパソコンだ。画面にはインターネットのフリー素材を使用したと見える簡素な作りのミニゲームが起動していた。


「……」


 シグがちらと目をやると、相澤がゲームを動かし始めた。シグは視線を元に戻し、ミニゲームが立てるチープな音を背中で聞いた。

 キャラクターが跳ぶ音、コインを拾う音、そしてミスをする音──


「下手くそ」

「う……」


 背中越しにからかってみると、やはり唇を噛んだような声が聞こえてくる。予想通りの反応にシグは鼻で笑った。


「開発者が苦戦してどうすんだ。ゲームバランスちゃんと考えたのか?」

「だって……あんまりゲームやらないので……」

「そもそもの腕前の問題か」


 すると、机の上に置かれたシグの足の先に突然パソコンが置かれた。顔を上げると相澤が少し頬を膨らませながら立っている。〝そんなに言うならやってみろ〟というのだろうか。

 シグは余裕そうな視線を相澤にちらと向け、椅子に座り直すと慣れた手つきでキーボードに手を伸ばす。すると、途端に画面の中のキャラクターは軽やかに動き始め、無駄のない動きで罠を潜り抜けるとゴールに立っているポールへと飛び込んでいった。


「……そんな動きできたんですか」

「お前本当に開発者か?」


 呆れたように言うシグの言葉に相澤は少し不機嫌そうな顔をした。

 と、その時だった。


「ごめんください」

「あ、ようこそっ」


 不意に来訪者が訪れる。相澤はシグとの話を中断し、来訪者に向けて反射的に返事をした。

 それに合わせてシグもまた窓の外へ視線を移し、黙り込む。来訪者の相手は相澤がするだろうし、極力面倒なことはしたくない。


「え……は、はい。そうですか。先輩。先輩? ちょっといいですか?」


 が、相澤がシグを呼ぶ。無視したいところだがそういうわけにもいかないだろう。


「あ? なんだ」


 面倒くさそうに首だけまわし振り返る。するとそこには入り口に立つ相澤と、見慣れた顔が──


「……おい」


 素早く立ち上がり、来訪者に一気に歩み寄る。そのまま肩に手をまわし、相澤と引き離すように部室の隅へ連れて行くと、そのまま静かに切り出した。


「なんで来たてめえぇ……」

「ヒッ、い、いやあのですね……」


 忠雪だ。普段通りの和装ではなく洋服を無難で目立たない組み合わせで着込んでいるが、今シグに拘束されながらその腕の中で気まずそうにしているのは間違いなく忠雪だった。


「その……文化祭? という催しものがあると聞いたので興味を引かれまして……」

「……」

「……いえ、その、先生のことで」

「紫乃崎?」


 シグの表情が変わる。


「紫乃崎はここには居ないぞ。保健室だ。それに……」

「わかってます。そのことでお話をしたく……」 


 不意に忠雪の口をシグが塞ぐ。そのままそっと振り返り相澤の様子を伺った。

 当の相澤の方はと言うと窓の方を見ながらもちらちらと同じく相手の様子を観察していた。


「ふむ……相澤、少し外すが大丈夫か?」

「えっ、あ、はい」


 相も変わらずつっけんどんな物言いに不意を突かれたのか相澤は曖昧な返事を返す。シグとしてはそれで充分だったのかそのまま軽く反応を返すとそのまま忠雪と部屋を出て行く。


「あっ、先輩!」


 が、不意に呼び止められ、振り返る。


「早めに……お願いします」

「おう」


 何故か不安げな表情の相澤に軽く笑みを返すと、今度こそシグは部室を後にした。


「なかなか素敵な方ですね」


 廊下に出ると忠雪は歩きながら不意に口を開いた。


「あ?」

「いえ、相澤殿でしたか。淑女然として素晴らしい女性だ、と思いまして」

「ビビリなだけだろ」

「もう少し優しくしてあげたらどうですか?ずいぶんと貴方を信頼しているようでしたが」

「そうだな。で? 話ってのはなんだよ」


 面倒くさそうに話を切り上げるシグに忠雪は曖昧な笑みで返事をすると、トーマとも合流したいと告げた。曰く、センチュリオンと宇琳も学校を訪れているらしく、全員で話をしたいと。


「あいつらも来てるのかよ……キッドなら校庭だ。焼きそば作ってるテントにいるはずだぞ」

「焼きそば?」

「あぁ、お前の時代にはない料理だったな。まぁ行けばわかる」


 いつの間にかシグが先導する形で校庭に出ると、いくつもの簡易テントが乱立しているのが目に入った。それぞれその屋根の下で各団体がそれぞれの出し物に精を出していた。ほとんどが食べ物を提供しているテントだったが、その中に混じって校章がプリントされた文房具やら小さなポーチやら、学校関連のグッズを売っているテントも見受けられた。残念ながら売れ行きは芳しくないようであったが。

 それら一つ一つに目を輝かせ立ち止まる忠雪の襟首を掴み、引きずるようにしてシグは一番奥のテントを目指していく。記憶が正しければ、一段と派手な煙を上げるそのテントはシグのクラスのテントであり、この時間、そこにはトーマと結季奈がいたはずだった。


「……ん?」


 見ると、不自然に人だかりができている。ちらと嫌な予感がしたシグと忠雪は若干顔を引きつらせながらゆっくりと人だかりに近づいていく。人の波をかきわけ、テントの前まで行こうとすると人だかりの中心に辿りついた。そこには──


「ほらほら見なさいボーイズッ! 男ならこれくらいの筋肉をつけてみなっさいッ!」


 ポーズを決める毎に男子から賞賛の声を浴びるセンチュリオンがいた。






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