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第三十三話:ふざけるなああああぁぁぁぁぁああぁあぁあぁぁああぁぁぁあああぁあぁぁあッ!

「……え」


 トーマが驚いたような声を上げる。


「もう……いいよ。もういいから……」


 見ると、結季奈がうつむいたまま震えている。


「結季奈……? どうして……?」


 多摩川結季奈は弱くない。しかし優しすぎるのだ。

 もう見たくない。自分がいる限りトーマらは傷つくだろう。もはやそれはもう苦しみではなく恐怖の域に達してしまっている。

 ──怖い。自分が苦しみの元になってしまっているこの状況が怖い。

 ハンターの力にあてられていることもあるのだろうが、結季奈は自らが置かれた状況に激しく恐怖してしまっている。もうこの恐怖から逃れたい。どうなってしまってもいいからとにかく逃れたい。


「もういいんだよ……もう、私のことはいいから……このままじゃ本当にトーマが死んじゃうよ……」


 恐怖と苦しみから結季奈の思考は短絡的になっていた。殺人事件に巻き込まれた人間が孤立するのも構わずにその場から逃げ出そうとするように、結季奈はトーマを救い、恐怖から逃れる為に改めて自分の身を差し出す決意を固めてしまった。


「あいつはそう言ってるが」

「……どう、して……」


 結季奈の言葉にハンターは踵を返し、改めて結季奈に向かい合った。


「まぁ、我の目的はお前だ。お前がそれでいいならいい」

「な、ん……で……」


 再び結季奈がローブの中に招き入れられる。


「ゆき……な……」


 ハンターが元の縮み、人間サイズになっていく。


「ま、って……」


 ローブの中からふと結季奈の顔が覗く。ちらと、トーマと目が合った。


「……」

「ごめん、トーマ……」


 ローブの中から小さく結季奈の声が漏れる。 


「ふざけるなああああぁぁぁぁぁああぁあぁあぁぁああぁぁぁあああぁあぁぁあッ!」


 声がした。

 ──声?誰の?

 聞いたことのない声。とても、とても怒っている。いや、聞いたことはあるかもしれない。でも、こんなに怒っている声は聞いたことがない。

 いったい、誰が──

 急に意識が鮮明になる。自分は今どうなっている?目の前が暗い。ローブの中にいる──出なくては!

 そう思い、結季奈は反射的にローブの中から飛び出した。ふと、視界に誰かが目に入る。


「僕は……僕はそんな中途半端な覚悟で君を護るなんて言ってないぞ!」

「!」


 トーマだ。トーマが立っている。既に扉を破ってきた時以上に痛々しい姿になっているが、それでも瞳は爛々と輝き、再び闘志が宿っている。

 拳銃をホルスターに収め、ゆっくりと背中の散弾銃を引き抜いた。腰のポーチから

実包を一発一発おぼつかないながらもしっかりした手つきで装填していく。


「いいかい結季奈……! それは本当はめちゃくちゃ重たい言葉なんだ……! 僕は、その重さを理解しているつもりだ……!」


 脚が振るわれる。しかし今度は散弾銃で受け止め、そのまま力任せに打ち返した。同時に腕の中で一回転させ、素早くその脚を撃ち抜き爆散させる。


「なんで……なんでよ! 助けてなんて言ってないよ!」


 結季奈にはもう理解できない。なぜここまでするのか。目の前のイコンが何故自分にここまでするのかがわからない。ただ、出会っただけの自分に。


「いいじゃん! もう関わらないでって突き放したのは私の方だよ!? なんでそこまでするの!?」

「君は……」

「?」

「君は、僕にとって……大切な……」


 言い終わらない内にトーマが吹き飛ぶ。見るとハンターのローブから先程よりも大量の脚が伸びていた。


「なんで……」

「結構だ、君の言うとおり僕は求められてやってるわけじゃないっ……! でも、だからこそ僕は……君に何を言われたって諦めないぞ……!」 


 ハンターに押さえつけられ、地に頭を押し付けながらもトーマはそう言う。真っ直ぐに結季奈を見据え、はっきりとそう言い放った。

 トーマは諦めていない。この期に及んでまだ、諦めていないのだ。


「耳に心地いいことだけを言うな。無謀に徹するのは結構だが、お前にどうにもできない相手をこいつにどうこうできるわけがないだろう」

「それはどうかな」


 突如、別の声が部屋に鳴り響く。


「えっ……先生……?」


 月姫の声だ。教室に月姫の声が響く。今朝まで聞いていた声だったはずだがしばらく聞いてなかったように感じた。

 どこだ。どこから。必死に辺りを見回すと、黒板の上に取り付けられたスピーカーが目に入った。


「耳に心地いいことを言っているのはお前もだろうハンター」

「……何だと」


 忘れていた。結季奈の学校は少々特殊な構造をしており、保健室と放送室は隣接しており、多少無理をすれば仮に閉じ込められようとも移動することはできる。


「本当はお前も焦っているんだろう? だからお前も自分の耳に心地いいことだけを言う……いいか結季奈。〝相手が優位を誇って見せている時はチャンスと知れ〟」

「……その言葉……」


 結季奈にとって聞きなれた台詞が聞こえた瞬間、スピーカーが消し飛んだ。


「黙れ、耳障りだぞ」

「そうだな。私ももうお前の声なんか一秒たりとも聞いていたくない」


 しかし教室のスピーカーを破壊した所でまだそこかしこにスピーカーはある。月姫の声が止まることはなかった。

 ハンターはいよいよ苛立ってきたように見える。ローブから除く脚は動きこそゆっくりとしてきているがその緩慢さから感じ取れるこれは静かな怒り──と、焦り?


「結季奈、立てるか? トーマもだ。よく聞け」

 今度は廊下のスピーカーが消し飛んだ。


「黙れと言っている!」

「こいつの原典を見つけた」





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