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第二十八話:お望み通りぶっ殺してやるよ……!

「……新手のイコンか……!」

「左様。我はハンター。恐怖に潜む者、だ」


 ハンターはそう言うとローブの中でもぞもぞと何かをいじる。すると結季奈がマリオネットのように突然立ち上がり、恭しくお辞儀をした。


「お前……! 結季奈を!」


 トーマが怒り、ホルスターに手を伸ばす。が、そこに銃は無い。


「えっ」

「こっちだ」


 ハンターの声に反応し、トーマが顔を上げる──

 銃を構える結季奈が目に入った。


「うああああああああああああああッ!」


 銃声と共に左の脇腹に激痛が走る。突然の衝撃にトーマはその場に倒れ、脇腹を押さえたまま転げまわった。見ると少しかすった程度の傷だったが、それにしては想像を絶する痛みが全身を駆け回った。


「痛いだろう。痛みと恐怖は直結しやすい。この世界では痛覚が何倍にも引き上げられるようにしてある。沢山恐怖してくれたまえ」


 ハンターはくつくつと笑いながらそう言うとトーマに背を向け、再び現れた黒い煙の中へ結季奈と共に消えていく。


「ま……待てっ……! 結季奈を……どこへ連れて行く気だ……!」


 その時、ポケットに入れていた通信機から声が届いた。


「トーマ、トーマ! 応答しろ!」

「うぁ……せ……先生……?」

「また改変が起こった! 今どこに居る! 結季奈は無事か!?」

「そうみたい……はぁ、そうみたいだね。うう……っ、今、イコンに会った。ハンター、って……結季奈を連れてどっか行っちゃったよ……」

「ハンター……? くそ、ありきたりな名前しやがって……! 容姿の特徴は!」

「真っ黒……真っ黒なローブ着てた……それ以外はっ、はぁ、わからなかったよ……」

「そうか……わかった。私は今保健室なんだが閉じ込められた。まずは合流したいんだが……」

「先生」


 トーマが月姫の言葉を遮る。


「結季奈は……僕に任せてもらえないかな……はぁ、名誉挽回したいんだ」

「だが……!」

「時間が無いんだ! あいつ……っ、結季奈を連れてった! すぐにでも助けないと!」

「……!  ……わかった。結季奈とハンターに関してはお前に一任する。こっちは敵について探ってみよう。任せたぞ」

「オーキー」


 脚に力を入れ、ゆっくりと立ち上がる。


「ドーキー……」


 結季奈が置いていった銃が落ちていた。それを拾い、ホルスターにしまいこむ。


「任せてよ……!」


 ***


 秋葉原はもともと電気街としてスタートした町だった。今や萌え文化が有名だが、電気街としてもかなり有名な場所であり、パソコンを探しに来るには良い場所である。

 九段下から地下鉄を経由しこの地を訪れた二人は人通りの多い表通りを横断し、秋葉原のランドマークとも言える巨大な家電量販店を訪れていた。


「うわぁ……!」


 店に入るなり相澤は声を上げる。彼女にとっては見たこともないような形のキーボードやボタンの多いマウスなどが目に入り、パソコン本体が売られている場所へ辿りつく前に周辺機器売り場でいちいち立ち止まってしまう。


「せ、先輩、これって……」

「ゲーミングPCだな。ネトゲでもやんのか?」

「いえ、ゲームとかは……」

「じゃあやめとけ。オーバースペックだ」


 そう言われ相澤は目の前の派手なパソコンの前から離れた。その時ちらと見えた値札に見たこともないような数字が書かれていた気がしたが、気にしないことにした。


「デスクトップの方がいいだろうが、お前がやりたいって言ってることはノートでもできる。となると後は価格と……好みの問題だが」


 シグはそう言いながらノートパソコンとデスクトップパソコンの売り場の境目の前へ立った。後からついてきた相澤は目の前にずらりと並ぶパソコンに期待と不安の入り混じった視線を向けた。


「まぁ初めてならノートの方がいいんじゃないか」

「そういうものなんですか?」

「そりゃまぁそいつ次第だがな」


 そう言われ相澤は二つの売り場を行ったり来たりしながら一つ一つ吟味していく。真っ赤なノートパソコン、綺麗な装飾が施されたデスクトップパソコン──どれもこれも興味をそそられるようで、目移りしているように見えた。

 そういえば、店に入る前に割引キャンペーンの案内のチラシを見た気がする。ふとシグはそんなことを思い出し、近くにいた店員にそのことを聞こうと声をかける。


「……?」


 いない。声をかけようとした店員が、いない。不穏なものを感じ取り、とっさに辺りを見回すが視界には誰も映りこんでこなかった。

 まさか。そう思った瞬間だった。


「こっちだ」


 左から不気味な声がする。ゆっくりと声の方へ目をやると、相澤がローブをまとった巨漢に捕まっていた。


「……イコンだな?」


 シグが口を開く前にまた不気味な声がする。


「何の話だ」


 それに対しシグはあくまで慎重に、探るように答える。


「白を切るな。我はハンター。故あってお前を〝処理〟する。擬態を解け」

「知らねえな。擬態? 人間に擬態能力はねえだろ」


 ハンターの腕の中で相澤が不安げな視線をシグに送る。シグは心配するなと言いたげな視線で応え、ハンターとの交渉を続けながら少しづつ間合いを狭めていく。


「おっと待て」


 と、そこでハンターが声を上げる。シグが足を止めた。


「話に聞いていた通りだな。お前は自分を偽る。それでは話が進まんのだ」

「……」

「偽りの理由はこの娘だろう? ならばやりやすくしてやる」


 言うなりハンターはいきなり相澤をローブの中へ引きずり込んだ。


「先ぱ……!」

「おい! 待て!」


 次の瞬間、相澤の悲鳴がフロアに響き渡った。普段の小さい声でしか話さない彼女からは想像もできないほどの絶叫であり、シグですら一瞬気圧されるほどだった。


「……!」


 やがて静かになったかと思うと、ローブの中からずるりと音を立て、倒れこむように相澤が姿を現した。見たところ外傷はなかったが気を失っており、ローブの中で何かがあったのは明白だった。


「さぁ、これで見る者はいないぞ。思う存分……」


 ここでハンターの視界に唐突に何かが映りこむ。自分の上方から天井の照明を背に何かが飛び降りてきていた。

 目を細め分析する。それが掃除機のホースを握ったシグだと気づいた時にはもう、樹脂と金属でできた掃除機本体が体を通過していた。

 がちゃん、と大きな音を立て、床に叩きつけられた掃除機が砕け散る。ハンターの頭部目掛けて振り下ろされた一撃はまるで当然であるかのようにすり抜け、勢い余ってタイル張りの床へ激突していた。


「……血の気が多いな」

「やりやがったなてめぇ……」


 空中で交差し、ハンターの背後に着地しながらシグが言う。見るともう学生服は着ておらず、軍服に変わっていた。


「お望み通りぶっ殺してやるよ……!」


 シグの言葉は静かだったが、恐ろしい程濃厚な殺意がこめられていた。彼自身、何故なのかわからない程怒っていた。





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