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第十三話:関わんなって言う割には興味持つんだな

 かくして結季奈の奇妙な日常はとうとう学校生活にも侵食してきた。誰かに相談しようとも考えたが、こんな話誰が信じるというのか。そう思い家族やメアリにすら話せず、結季奈は一人悶々と日々を消費していくことになった。

 初めはできるだけトーマやシグとは距離を置いて生活した。同じ学校、同じ教室に居こそすれ、これといった関係はなく、また構築する気もないと言わんばかりの無関心ぶり。そうやって平穏を得ようとした。

 だが、三日経ったあたりで無駄な努力だと思い知らされた。


「あ! 結季奈! メアリ!」

「ハァイトーマ! おつかれネー!」

「だから……」


 四日目の放課後。生徒が続々と帰路につく校門の前で、結季奈のこめかみで露骨に青筋がヒクつく。

 どれだけ無関心を装ってもトーマの方がおかまいなしだった。日本の学生として生活し始めていきなり堪能な日本語で結季奈の名を、しかも下の名前で呼んだせいで早速クラスでは結季奈とトーマの関係をにおわせる噂が立ち、結季奈の無関心作戦は完全に裏目に出てしまった。

 さらに同じアメリカ人同士気が合ったのか、メアリともすぐに打ち解けてしまい、結季奈が嫌がっても周囲の環境が彼との関わりを隠させない状況にあっと言う間になってしまっていた。


「ここではあんまり関わらないでって……何回言ったらわかんのこの鳥頭シェリフううう!」


 結季奈は前にそうしたようにトーマの胸倉を掴み前後に乱暴にゆする。やはりトーマの頭が危なっかしく揺れた。


「ごっ、ごべんなじゃうぷっ」

「あらぁ、やっぱりユキナとトーマは仲いいネー!」

「メアリ! だから違うって……」

「シデハラもそう思うでショ?」

「あ?」


 不意にメアリがトーマの横に立っていたシグに話を振った。トーマはまだしもシグは流石に偽名を使わなければ怪しまれると判断したらしく、学校では幣原と名乗っていた。その幣原として話を振られたシグはメアリの方を見やり、面倒臭そうに鼻を鳴らす。


「ちょっとシグ」


 結季奈は小声でそう言い素早くシグの肩を掴むと、自分と向き合わせ早口に続けた。


「頼むからマジでトーマなんとかしてくれない? なんでこいつこんなに聞き分け悪いわけ?」

「俺が知ったことかよ。自分でなんとかしろ……あとここではその名前で呼ぶな」


 シグは至極面倒臭そうにそう言うと結季奈の手を振り払う。


「んん? ユキナぁ、トーマという人がありながらシデハラと浮気ぃ?」

「ち! が! う!」

「ふふん、これはトーマも気をつけなくちゃネ。あ、そうそう。二人は部活何に入るか決めた?」

「部活?」


 メアリの発言にトーマが喉仏をおさえながら聞き返す。メアリの方はトーマの反応がまるで予想外だったかのように目を見開いた。


「えっ、決めてない? じゃあちょうどいいネー! ハンドボール部おいでヨー! 歓迎するヨー!」

「えっ、いや、待っ」


 メアリはトーマがまだ部活に入ってないと知るやいなや素早く彼の腕に手をまわし、おかまいなしに廊下を引きずっていく。廊下の角を曲がって姿が見えなくなったあたりでトーマの悲鳴が聞こえたが、結季奈もシグも聞こえなかったことにした。


「……じゃ私も帰る」

「おう。じゃあな」

「え? あんたは帰んないの?」

「関わんなって言う割には興味持つんだな」

「……別に」


 そう言い結季奈も校門へ向けて歩きだした。シグは一応結季奈が無事に校門を出て行くのを見届けると、小さくのびをして校舎へ戻っていく。

 さて──シグの中で何かのスイッチが切り替わる。ゆっくりと、気だるげに校舎の階段を登っていきたどり着いた上層階の廊下、その奥に目をやる。彼が向かったその教室のドアには汚い字で〝コンピュータ部〟と書かれた紙が貼り付けられていた。

 トーマと違い、シグは部活動に関して情報を集めていた。学校で学生として生活しながら、同時にイコンとして活動するにはこの部活動の時間を利用しない手はないと考えたからだった。

 そしてこのコンピュータ部にたどり着いた。聞けば部員全員が幽霊部員らしく事実上の廃部状態であり、誰かに邪魔されることはない。さらにシグは機械いじりが得意なSF作品のイコン。部室にこもって機械を動かしていたところで、コンピュータ部員ならなんら怪しくはない。


「まずはどれだけ設備が整ってるか、だが……」


 そう独り言を呟き、やや重い扉を押す。事実上の廃部状態の部室にしては、素直に扉は開いた。

 そしてシグの手が止まる。〝部員全員が幽霊部員〟であるはずのコンピュータ部。その部室は前情報と明らかに矛盾していたからだ。

 部室自体は思っていた程広くはなかった。教室の半分、いやそれよりも少し狭い程の広さしかない。その中になにやらパソコンやらプリンター、果てはパーティ用品などが雑然と置かれており、その中央に一人用の机をいくつか繋げて作られたテーブルが堂々と置かれている。

 そして、そのテーブルに〝居る〟のだ。テーブルに向かい、一人本を読みふける女子生徒が。この部室にいるということは恐らく部員と見て間違いない。誰も出入りしていないと聞いていた割には掃除が行き届いているのはこの女子生徒がいる為か。一方で機械類の方にはしばらく誰かに使用された形跡が無い。手付かずなのを見ると、彼女はこれらの扱い方がわからないのだろう。

 ほんの一瞬の間にシグはそこまで分析し、部室の一番奥に置かれた大きなパソコンに歩み寄った。部員がいたことには少し驚いたが、人払いをする手間が増えただけだ。やること自体に変更はない。ともかく、今はこの部室にどれだけの設備があるのか。先にそれを確認したかった。




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