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第十話:君は誰だ

「……」


 二人の男が向かい合う。トーマは厳しい顔をし、銃を向けたまま。対して日向は余裕そうに肩をすくめてみせる。

 結季奈はそんな二人をソファの背もたれ越しに固唾を呑んで見守っていた。既にトーマの頬は少しすすけ、火傷している箇所もある。ほんの一瞬の間にすさまじい熱量が発生していたということが読み取れた。

「お前は見た感じ西部劇のイコンだな?」


 トーマの指に力がこもる。


「君は誰だ」


 そして先ほどの質問を再度返す。相変わらず日向はニヒルな雰囲気を崩さず、腰に手を当ててみせた。


「そこのそいつが今言った通りさ。俺は日向雷楊。雷に楊貴妃の楊って書いてらいよう、だ」


 やはり──。結季奈の背を冷や汗が伝う。例によって目の前のイコンは結季奈のよく知るイコン。もし日向が結季奈の知る通りのイコンなら、トーマは相当厳しい戦いを強いられかねない。

 日向雷楊──ここ数年で爆発的にファンを増やしたライトノベルの主人公だ。ネット小説出身だけあって初めはさほど認知度は高くなかったが、昨年突如アニメ化したことで急激に人気を集めた。雷を扱う超能力者の学生、という変に捻くれてない設定にスタイリッシュなアクション、更には有名声優が声を当てたことで一躍スターの仲間入りを果たしたキャラクター──


「……詳しいんだな」

「はっ!?」


 日向の苦笑いで現実に引き戻された結季奈はあわてて背もたれに姿を隠し、慌ててトーマに助言を出す。


「と……とにかく! あいつ雷飛ばしてくるから気をつけて!」

「……オーキードーキー……」


 トーマも日向が油断ならない相手だということは既に身を以って知っている。返ってくる言葉はくだけたものだがその佇まいからは余裕が感じられない。日向は日向で両手に帯電させ、威圧的に火花を散らしていた。

 店内の緊張が高まる。日向の目的はわからないがおおよそ友好的でないのは間違いない。じりじりと、空気が熱を帯びていった。


「!」


 先に動いたのはトーマだった。まばたきの一瞬で相手の懐にもぐりこみ、そのまま右腕を腹部目掛けてふりぬく。


「おっと」


 しかし目標に届く寸前で横から伸びてきた日向の左腕に阻まれた。一瞬トーマの表情が焦りに歪みすぐに腕を振りほどくと、一瞬前までトーマの腕があった場所でスパークが生じた。

 しかしトーマは止まらない。右腕を引き抜いた勢いを殺さず、そのまま回し蹴りを日向の顎めがけて放った。

 日向はこれを同じく脚で受け止め、その影から拳銃の形を取った右手を覗かせる。しかしそこに向かいあったのは本物の拳銃の銃口だった。


「ッ!」


 両者共に一瞬焦りが見えたが、日向は構わずそのまま指先から電撃を放つ。トーマはそれに対抗し銃口を誰もいない方向へ向け、乱暴に引き金を引いた。爆発音と共に弾丸が吐き出され、日向の電撃を誘導しながらあられもない方向へ飛んでいく。


「あと五発……!」


 トーマは脚を下ろすと瞬時に日向にタックルを仕掛け、そのまま勢いに任せて店を飛び出した。入り口のガラスドアが派手な音を立てて砕け散り、二人のイコンは石材で舗装された道へ転げ出て行く。


「く……! 思ってたより血の気多いなお前!」


 日向は頭をかばいながら悪態をついた。対してトーマは勢いのまま日向を放り投げ、追撃の態勢に入る。

 西部劇の花形と言えば銃撃戦であるが、西部劇の頃の銃は現在よりも弾の再装填に手間がかかり、無駄撃ちはできなかった。そのため、フィクションのような大々的な銃撃戦はあっても彼らの戦闘の主軸には徒手空拳によるものがあったという。従って、〝西部劇のシェリフ〟の設定を持つトーマに体術の心得がないはずはない。


「ぐっ!」


 立ち上がろうとした日向にトーマがとびかかり、瞬時に組み伏せる。その動きはいやに鮮やかであり、先ほどまで朗らかに笑っていた少年のものとは思えなかった。


「君の目的は何だ! 何が狙いんなんだ!」

「うっせぇな大声出すなよ」


 日向がトーマを突き飛ばす。虚をつかれたトーマは体勢を崩し、横転したかと思うと逆に日向に組み伏せられてしまった。


「教えてやるよ。そこのお嬢ちゃんさ」

「えっ、私!?」


 思わず声が漏れる。声に反応して日向とトーマが同時にこちらを向く。


「ま、そういうこと」


 そういうと日向は素早く振り返り、同時に拳銃の形を取った右手を結季奈に向ける。

 まずい。これは──結季奈がそう思うと同時に日向の指先から電撃が放たれた。


「うわっ!」

「くっ!」


 同時に素早い二発の銃声。日向に組み伏せられながらもトーマが無理矢理に引き金を引いていた。放たれた二発の弾丸はやはり電撃の軌道をそらし、電撃の直撃から結季奈を救った。

 しかし。


「隙あり」


 そのまま日向の左手がトーマの顔の前まで移動してくる。


「しまっ……!」


 路上を激しい閃光が満たす。結季奈の悲鳴も、トーマの焦りの呟きも爆音にかき消され、そこにいる者の視覚と聴覚が目の前の閃光に支配された。


「……いっちょ上がりィ」


 閃光がおさまる。するとそこから現れたのは勝者の笑みを浮かべた日向と、ぐったりと動かなくなったトーマだった。



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