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先ほどの村を出てしばらくすると、より栄えている村、というより街に着いた。
太陽は傾きあたり一面を夕焼けがまるで燃えるように赤く染め上げる。久しぶりに見た大きな夕焼けに見惚れていると、街の奥から大きな羽の生えた男性とその後ろを男女の二人組がこちらに向かって歩いてきた。
大きな羽の生えた男性は私を前に深くお辞儀をする。
思わず同じようにお辞儀をし返すと、その男性は少し笑っていった。
「いやいや鳥たちのいうとおり、不思議なお方だ」
鳥?なんのことだろうと思っていると、レイがこの方はイブー族族長です、と耳打ちしてくれた。
「我らはイブー族、はるか昔最初のユグヌム国王と共に地球から逃げてきた、フクロウを祖先にもつものです」
そういうと族長は背中の羽を大きく広げる。
広げた翼は大きく、とても立派だ。
「立派な翼ですね」
そう返すと、族長はにっこりと笑って、風の噂通りの人のようだ、と呟いた。
歓迎されているのだろうか?
疑問に感じていると、馬の手綱を握ったレイが危ない翼をしまってくださいと族長に冷たく言い放った。
翼が危ないものなのか、その辺の常識がよくわからない。
そう考えるとさっきの行動は一種の威嚇だったのか。小さい子猫が体を大きく見せる、みたいな。
そう考え込んでいると、さっきまで族長の後ろにいた男女が目の前にいた。
一人はレイと同じぐらいの成人男性。もう一人はまだ若干の幼さの残る女性だった。
「すまない、遅くなった」
レイがそういうと青年はレイの肩を叩きながら、初日から野宿かと思ったぜ、と笑っている。
その振る舞いからして二人は古くからの付き合いなのだろう。
「まずはあいさつじゃない?」
女性はそういうと青年の腰に蹴りを入れた。
じゃれつくぐらいのそれにしては痛そうな音がしたが。
青年は蹴られたあたりをさすりながら深く頭を下げる。それに続くようにして女性も頭を下げる。
「ご挨拶が遅れました、俺はグラーツ・ローデリヒと申します」
「私はディヒラー・ローリエです」
二人があいさつするのに続いて自分も名を名乗った。それをきいた二人は知ってます、と言って微笑んだ。
やはり私はこの世界では有名人らしい。
「今日はもう疲れただろう、宿をとってある。ゆっくりと休むといい」
族長がそういうと、同じく背中に翼を携えた人がご案内します、と私たちを導いた。
街の中でも結構立派な建物に通され、みんなで夕食を取り終えると、そのまま2階の宿へと案内された。
私はローリエさん同じ部屋に泊まることになった。
ふかふかのベットにゴロンと横になると、今日の朝自分のベットで目を覚ましたのがはるか昔のように感じる。
この世界に来て初めての夜。予定していたことは何ひとつ出来ず、こんな異世界で夜を迎えるなんで誰が想像しただろうか。
おじいちゃん、心配しているだろうなぁ。いや、あのジジイは不安のようなマイナスの心配はしないか。
ふと、昔小学校で上級生にいじめられそうになってやり返した時のことを思い出した。
あのジジイは私を怒るでも、心配するでもなく、よくやった!と頭を撫でてくれたっけ。
ふふ、と思い出し笑いをすると、ローリエさんが不思議そうにこちらを見た。
その手には缶のような銀色のケースを持っており、ローリエさんは私にその缶の中身を見せた。
色とりどりのそれは部屋の明かりを反射させてキラキラと輝き、まるで宝石のようだった。
どうぞ、と言われ手にとるとふんわりと甘い匂いがする。
「今日は長旅で疲れたでしょう。食べてみてください、甘いですよ」
ローリエさんも缶の中からひとつ選び、ぽいと口の中に入れる。
それをみた私もひとつ口に入れるとふんわりと甘い味が口いっぱいに広がった。
「ありがとう、ローリエさん」
ローリエでいいですよ、と微笑みながらそう返され、少し恥ずかしい気持ちになりながら再度ローリエ、と呼び直してみると、さらに優しく微笑まれた。
この世界の人はみんな顔が綺麗なせいか、微笑んだローリエの顔は眩しくて直視できない。
飴を舐め終えるとどっと疲れが出たのか、体全体を眠気が覆った。まるで沈むように意識が遠のくなか、ローリエが愛しむように私の髪を梳き、そのまま私の頭を優しく撫でる。
「どうですか? この世界も気に入ってくれると嬉しいです」
ローリエの優しい声はまるで子守唄のようで、どんどん意識が沈んでいくのを感じる。
ふわりと、どこかで感じたことのある匂いがしたような気がした。
最後まで読んでくださりありがとうございます。