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私は生まれてからおじいちゃんの勧めで、あらゆる格闘技はやってみたし、そのほかダンスとか、花道とかもやったことがある。
何事も経験だ、と色々引っ張り回してくれたおじいちゃんには感謝しているが。
「お尻痛い」
レイの馬に乗って2時間ぐらいだろうか、人生で初めての乗馬はかなり苦しい経験になっている。
「そろそろ村が見えるはずだ、休憩しよう」
レイが指差した方を見ていると確かに村らしきものが見える。
私は安堵のため息を漏らした。
村に入るとレイは私を馬から下ろした。
久しぶりの地面はなんがかまだふわふわと浮いているように感じる。
長時間の乗馬に私のお尻は悲鳴を上げており、思わずその場にしゃがみ込んだ。
そんなところにしゃがみ込まないで、そうレイは言って私に手を差し出す。
私はイヤイヤながらも手を掴んで立ち上がり周囲を見渡す。
村の中には普通の人間のほかに背中に羽の生えたものもいた。
「ここはイブー地方なので、鳥と人間の雑種が多いんです」
「そういう言い方しないよ」
『雑種』という言い方が耳障りで思わず口調がキツくなる。
少し驚いたような顔のレイに言い過ぎたことを自覚し謝ろうとするも、レイは馬に水をあげてきますと近くの井戸へと向かってしまった。
レイについて行こうとしたとき、何か転んだような音がして音の方を振り返る。
何か、というのは7歳ぐらいの少年だった。
少年の後ろには何やらガラの悪そうな男が立っていた。
「ガキは黙って俺のいうことを聞いていればいいんだ!」
男は少年の髪を掴むともう片方の手で顔をつかむ。
あまりの扱いにカッと頭に血が昇るのを感じる。
私は思わずその少年の方に歩いていた。
視界の横でレイが慌てたようにしているのが見えるが気にしない。
私が少年の横に立つと、男はこちらを向いてなんだぁ?と怒鳴ってくる。
うるさいなぁ、と頭の中で思うものの、少年の苦しそうな声だけははっきりと聞こえた。
「この世界にはお行儀が悪い人が多いのね」
そういい終わると同時に右足で男のみぞうちに蹴りを入れた。男が怯んだうちに相手の前髪を掴み顔を自分に向ける。
相手の右腕が飛んで来る前に私の右腕が相手の鼻を直撃した。
相手は鼻から血を出し、少年を掴んでいた腕で必死に顔を押さえている。
「まさか、一日で2回も殴るとは」
私は殴った手をひらひらと動かし、殴った感触を逃していると、レイが後ろから声をかけてきた。
やれやれと呆れ顔のレイは私が殴った男に何かを囁いた。おどしかと思ったが、なにかを男に握らせていたのできっと賄賂だろう。
男はその場を慌てて逃げさった。
「手、痛くないですか」
少し赤くなった私の手を慈しむように撫でる。
なんだかその仕草が照れ臭くて急いでレイの手から自分の手を引き剥がす。
「ありがとう」
「怪我はない?大丈夫?」
礼を言う少年に目線を合わせるために私は少し腰を曲げる。
「あのおじさん、最近この村に来てみんなに迷惑かけていたんだ。お姉さんのおかげでもうきっと来ないと思うよ」
少年はあの男が去っていった方を見つめる。
少年が見つめる方を私もみる。私たちの周りを何事もなかったように数人の大人が通りすぎる。
私たち以外にも大人はいるというのに、みんな無関心だ。
まるで私たちだけが世界から切り取られたようだった。
「さぁ行きましょう」
レイがそういうと、少年はもう一度頭を下げて村の風景に溶け込んでいった。
私はなんとも言えない気持ちを抱えながら、レイの手を借りて馬に跨った。
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