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「ソラ! 大丈夫か?」
馬に乗った男は私にそう問いかけた。
普通に考えて襲われた女子高生は大丈夫ではないと思うのだけど。
そんなことよりも、この男も私のことを知っているのだろうか。
さっきの男も私のことを知っていたようだったし、いつの間に私は界隈で人気者になったのだろうか。
男は馬から降りると私の腕についた土をささっとはらう。
うん、怪我はなさそうだ、と呟く男の顔を見ると、先ほど襲ってきた男と同じぐらい端正な顔立ちだった。
髪の色が若干緑がかった茶髪であるためか、銀髪男より華やかさに欠けるが、こちらの方が馴染みやすいイケメンという感じだ。
「すまない、予定の場所から少しずれてしまったようだ。まさかサーティの方が先についてしまうとは」
イケメンはそういいながら、私の頭や顔についた土もどんどん落としていく。
その手つきはとても優しく、私は疲れて動けないのも相まってされるがまま、地面に座り込んでいる。
時折、イケメンの顔を見ると何故かとても嬉しそうに微笑んでいた。
私はころされそうになったというのに、だ。
若干の不満を感じながらも、その心地よさに浸っていると、一通り払い終わったのか今度は手を差し伸べられる。
これ立て、ということだろうか。
私はその手を掴み足に力を入れると、ぐいっと勢いよく腕を引っ張られる。その勢いで難なく私は立ち上がることができた。
「俺の名前はシュナーベル・レイラー。ソラの護衛を拝命仕りました」
イケメンはそういうと私に向かって腰から綺麗に礼をした。
(護衛? 先ほどの男も王位継承権がどうのこうの言っていたが、一体なんのことだろう)
「シュナーベルさん? さっきの男も王位継承権がどうとか言ってたけど、なんの話? そもそもここはどこなの? 私、梅田に買い物に行く予定だったんだけど」
そう、私は親友の誕生日プレゼントを買いに行く予定だったのだ。
11月生まれの親友に、これからの冬に備えたマフラーを買いにいくつもりだったのに。
「あぁ、ユグヌム王国でもファミリーネームが先に来るんだ。レイって呼んでくれ。あとここはユグヌス王国の端、イブー地方でも端の方なんだ」
そうレイはいうと、顔を上げて指を上の方を指差した。
「あっちの方に山が見えるだろう、あの山を迂回して森を抜けると首都ユグヌムにつくよ」
イケメンが指差した方を見ると高い山が一つ見える。どうやら私の目的地はあの山の向こうのさらに奥にあるらしい。
そもそもユグヌムとかいう地名を私は知らないのだけれど、先ほどの銀髪といい、このイケメンといい、日本人離れした顔からして、ここはもう日本ではないのだろう。
いわゆる異世界というところ。
私が日本人でよかった。異世界転生なんてこんなにすんなり受け入れられるのは、日本人は小さい頃から漫画やアニメで異世界転生の話が身近にあるからだと思うのだ。
「私、死んだ覚えないんだけどなぁ」
私がそうポツリと呟くと、レイはびっくりしたように、少し戸惑ったようだ。
「そう思う心当たりでもあるのかい?」
「いや、ここって地球じゃないんでしょ?こういうのってよくある異世界転生じゃない?」
そこまでいうとレイはなんだ、そんなことかと笑った。
「確かにここは地球じゃないよ、でも君は死んでない。これは保証する」
レイがいうには、この世には無数の世界が存在していて特にこの世界と地球は結びつきが強いらしい。
「地球の人はほとんどこちら側を認識できないけれど、僕たちは地球を知っているよ」
そういうこともあるのか、なるほどねと自分を納得させ、もう一度レイが指差した山を見上げる。
ここから山までも結構距離がありそうだ。
「歩いてあそこまで……」
正直にいうと疲れてもう一歩だって動きたくはないというのに。
私がそういうとレイは楽しそうに笑った。
「歩いてなんか行かないさ、俺の馬に乗って行こう」
そうレイはいうと、馬の額を撫でる。
茶色の毛並みの良い馬は嬉しそうに目を瞑って、気持ちよさそうに撫でられている。
今後お世話になる馬だ、私もあいさつしようと腕を伸ばす。
馬はすんすん、と私の腕の匂いを嗅ぐと許した、と言わんばかりに私に頭を下げた。その頭をゆっくりと撫でると、ほんのり温かい命の温度を感じる。
これからよろしくね、と心の中で思いながらレイと同じように馬を撫でながらふと疑問を呟く。
「馬でどれぐらいかかるの?」
「3日ぐらいかな」
最後まで読んでいただきありがとうございます。