1
「今日は日陰がよくないね」
こんなところに占いなんてあっただろうか。
なんてことない日曜日、ちょっと買い物をしに外へ出た。駅までのいつもの道を歩いていると、明らかに不審な道端の占い師のお婆さんに声をかけられた。
駅前の繁華街の道ではあるが、居酒屋がメインの通りで、占い屋さんはなかったはず。
別に特段急いでいるわけではないが、不審者の相手をしているほど暇ではない。
「今日はあんたにとってよくない日だよ。いいからちょっと話を聞いていきなさい」
あまりの不審さに無視しようとするが、なんとなく気になってもう一度お婆さんの方を見ると、おばあさんはにこりと笑って、店内へ手招きをした。
「おばあさん、悪いけどこれから用事があるの。それに私占いは信じないタチで」
そこまで言ってもおばあさんはニコニコと笑って手招きをやめない。
無視して駅に向かえばいいものの、不思議とお婆さんの手招きに誘われるようにして私の足は店内に向かった。
言われるがままに椅子に座ると、机の上には小さな黒猫の置物が置いてあった。
「それが気になるのかい」
「かわいいな、黒猫。昔から黒猫が一番好きなんです」
そういうと、黒猫の金色の目がキラリと光ったように見えた。
手のひらぐらいのサイズの黒猫はじっと私の目を見つめる。
そうかい、そう呟くとおばあさんはポケットから小さなペンダントを取り出す。
ピンク色の宝石があしらわれたネックレスをおばあさんは私に握らせた。
やっぱりよくない店か。
確実に売りつけられると思った私はお婆さんに一言言ってやろうと口を開く。
しかし、それはお婆さんの声にかき消された。
「行くべき道へ、行くべき時に」
おばあさんがそう唱えるとペンダントは私の手のひらでゆっくりと熱を持った。
「あるべきものはあるべき場所へ」
ペンダントは一段と熱くなり、指と指の隙間から光が漏れ出しているのが見える。
急に椅子がぐにゃりと歪み、私はバランスを崩す。
慌てて足元を見ると、床が砂漠の蟻地獄のように崩れていた。
私は急いで椅子から立ち上がろうとするも体がうまく動かない。
「きっとあたしがここで何を言っても未来は変わらない。占い師とは未来を見ることしかできないのさ」
徐々に床に体が沈んでいくのに抵抗しながら、呑気に話し続けるおばあさんを見上げる。
占い師とはそういうものさ、そう呟くおばあさんはゆっくりと目を開く。お婆さんの目がきらりと光り、私はお婆さんの瞳を吸い込まれるように見つめる。
「でもあんたは違う。あんたならこの未来を変えられる」
私の体はどんどん床に沈み、もう首まで体が沈んでしまった。
「頼んだよ、未来の女王陛下」
どういう意味ですか、そう口を開けようとした途端、水のような何かに飲み込まれ、私は意識を失った。
最後まで読んでいただきありがとうございます