第12話『人獣』③
「何故だ。どうして透明になっている俺がわかる?」
「匂いだよ。姿は消えてもキサマの匂いで居場所がわかる」
「そういう事か……」
さすがは知恵の回る怪物といったところか。獣であれば、視覚的に消失した時点で多少の狼狽はする筈だが、目の前のゴリラは別の五感を駆使して対応してきた。しかも、おそらく優が透明になる事は承知しており、父・マインズなりから知恵を授けられていたのかも知れない。
「ここだっ!」
見えないところから引きずり出すように、ゴリラが優の右肩を掴んだ。肩を砕かれそうな握力だ。無理矢理引き剝がそうにも万力のような力で外れない。ゴリラは片腕で優の身体を持ち上げた。そして、野球のピッチャーが全力投球するかのように壁目掛けて優の身体を投げ飛ばした。優は咄嗟に身体を丸めたが、まさにボールのように壁に叩き付けられた。
「ぐうぅ……」
ダメージは最小限に抑えたつもりだが、全身に痛みが走っていた。機能が破壊されたのか、透明化も自然に解除されていた。そして、考える時間を与えてくれる暇無くゴリラは突進してくる。
「くっ」
優は右腰から玉のような物体を取り出し、ゴリラの足元目掛けて投げ付けた。液体が床に飛び散り、勢いでそこに足を踏み入れたゴリラは滑って転倒した。優の投げた玉には潤滑油のような液体が入っていたのだ。
「もらった!」
のけぞり気味のゴリラの顔面目掛けて優の飛び膝蹴りが炸裂した。顔面にヒットした一撃は、お返しとばかりにゴリラを壁まで吹き飛ばした。
「確かに強い……だが、負けられないっ」
優は大股で自分の撒いた滑る液体を飛び越え、躍り掛かる。腰からレーザーブレードを抜き、切り掛からんとするが、ゴリラは「ガアァァッ!!」と一吠えして口から黄色いレーザービームのようなものを吐いてきた。突進して勢いがついていた優は、咄嗟に身をよじってこれをかわした。その威力は凄まじく、レーザーが通った部分は跡形もなくくり抜かれて消えていた。
「こんな能力を持っているとはな……」
慌てて起き上がった優は戦慄した。今の一撃を食らっていたらひとたまりもなかったであろう。腕や脚の一本は消されていたかも知れない。
「だが、怯む訳にはいかない。どんな化け物が相手でも俺は勝つ!」
優は再びレーザーブレードを構え、ゴリラに正対した。
「今の威力を見ても怯まぬか……。ならば消えてなくなれいっ!」
ゴリラはまたも優目掛けて口からレーザーを放射した。黄金のような輝きと共に破壊の光が室内を巡るように放出される。奴がレーザー砲を吐きながら優を追うように身体を回しているのだ。レーザーが部屋にまき散らされ、建物は次々と空洞化していく。優はマスクの性能で何とか予測してかわすが、結構な速度で連続して吐いてくる。
「これで弾けるなら戦いやすいんだが……」
優は右手に持ったレーザーブレードを見つめた。レーザー同士なので撃ってきた光線を弾ける可能性はある。しかし、それが出来なかった場合、かき消されてしまうのは間違いないので大きな賭けだ。
そんな思考を巡らせている間にもレーザーの乱れ撃ちは続く。優の避ける動きにも段々と余裕がなくなってきた。
「仕方ない、やってみるか」
優はマスクの演算機能で乱れ飛ぶレーザーの動きを予測し、かわすと同時に横から光線を叩き切った。青と黄の閃光が弾け飛ぶ。優の中に確かにレーザーを切り裂いた感触が残っていた。「これなら!」と確信した優は、レーザーブレードを携えてゴリラに突進する。
「消え失せろっ!」
ゴリラが真っ正面からレーザーを吐いてくる。金色に近い輝く光が迫って来る。
「ぬおおっ」
優は叫びと共にレーザーブレード前に構えて前進した。これでゴリラのレーザーを弾きながら接近出来る。優は吐かれるエネルギーをレーザーブレードで斬り進み、距離を詰めた。瞬時にレーザーの軌道を外れ、上段で斬り掛かったが、敵もさるもの、跳躍してそれをかわした。
「死ねっ!」
抜けた天井より高く飛んだゴリラが上からレーザーを放出してくる。避けるのは難しいと判断した優はレーザーブレードを振るい、これを凌いだ。そして、逆に落ち際こそチャンスとばかりに再度躍り掛かったが、ゴリラは空中で回転し、これを回避した。さすが、人間の知能を持っているというところか。
「こいつは手強いな」
優は目の前のゴリラを強敵認定した。今までの粗暴な怪物どもと一味違うのは間違いない。だからといって引く気は毛頭ない。優は再度剣を構えた。
「俺の力はレーザーだけじゃないぞ」
ゴリラは叫ぶと今度は飛び掛かってきた。優はレーザーブレードを振るうが、奴はそれをかわすと強烈な蹴りを見舞ってきた。何とかガードするもその威力に押され、優の身体は後方に飛ばされる。ゴリラは綺麗に着地すると追撃を加えんと突進してくる。
「ナメるなっ!」
吹っ飛ばされた優も空中ですぐに体勢を立て直し、しっかり両足で地に着くと向かってくるゴリラに切り掛かる。今度はゴリラが慌てて宙で身体を捻り、これを回避した。
「おのれっ」
前転してから起き上がったゴリラは再びレーザーを吐く。優はこれをレーザーブレードで受けながら距離を詰める。近付いたところで優が光の剣を振り回す。しかし、その一撃は空を切り、バックステップしたゴリラは再びレーザーを吐かんとする。その時、
「させるかっ」
何者かが、後方からゴリラに蹴りを食らわせて吹っ飛ばした。




