第11話『正体』④
優は頭から落ちていったが、途中で回転して、体勢は立て直した。傍目にカイゼルが宙に浮き体勢を整えているのが見えた。優は宙に浮いていられないので落下するのみ。スーツを纏っているとはいえ、落ち方が悪ければ脚を負傷しかねない。高速で下降しながら、どう落ちるかを考えていたその時、
「逃がさん!」
ウォーグが宙から飛来した。身には赤いオーラを纏っている。
「くっ、こんな時に……」
「弱い者から屠る……戦いの鉄則よ」
ウォーグは自ら宙を自在に動き、優の上方の位置を取った。落ち続けている優にはその位置取りを逆転する事が出来ない。
「そのまま落ちて砕けろっ!」
赤いオーラと共にウォーグの剛腕が振り下ろされる。優は何とか両腕でガードしたものの、その威力に吹っ飛ばされ背中から地面に激突した。落ちた場所が草地だったのがせめてもの救いだったが、勢いが凄くてダメージを軽減する事は出来なかった。
「虫ケラの割にはしぶといな」
ウォーグがすぐに脇に着地してきた。優も全身に痛みが残る中、瞬時に立ち上がり身構える。カイゼルの位置はまだ遠く、自力で何とかしなくてはならない。
「死ねっ!」
禍々しい鮮血のようなオーラと共に剛拳が繰り出される。
「インビジブル!」
ここで優は後退すると同時に自らの姿を消した。ウォーグの一撃は空を切った。
「こしゃくな、逃げおったか」
ウォーグを取り囲むオーラが怒りで膨れ上がるが、消えている優の姿は捉えられない。優は迷っていた。このままやり過ごせば逃げる事も可能だろう。しかし、戦う者の本能として、彼は攻撃に転じる選択肢を選んだ。
「インビジブルマッハキック!」
透明なまま飛び上がった優は、ウォーグの頭目掛けて飛び蹴りのマッハキックを放った。これが見えていない相手にものの見事に命中した。吹っ飛ぶウォーグの巨体。
「イケる。俺はウォーグとだって戦えるっ!」
以前はマッハキックも通用しなかった。今は死角からとはいえ、効果的な一撃を与えられている。自信を持った優が追撃を狙い、飛び上がった瞬間、
「フンッ!」
ウォーグが一吠えし、赤いオーラが半径100メートル程度に放たれた。再度飛び蹴りを放とうとしていた優は、オーラの壁に阻まれ、跳ね返された。
「そこにいたか、鼠め」
透明が解除され、姿を現した優に、ウォーグがオーラの塊を放ってくる。体勢も崩れており、避けられそうにない。思わず目を瞑るが、
「諦めんな!」
間一髪、カイゼルが立ちはだかり、赤いオーラを右腕で弾き返した。
「カイゼルぅ、小賢しい真似を……」
ウォーグが舌打ちする。
「ウォーグ、お前がこの大学で何をしようとしていたかはわからんが、ここで終わりだ」
「フン、カイゼルの方は我がオーラを前にしても問題ないようだが、そっちの地球人は打ち破る事すら出来まい。そんな足手まといを率いて、お前の力も半減しなければいいがな……」
ウォーグは笑みを浮かべる。先程から優を弱点と見ているようで、見下している感がある。
「ウォーグ! ナメるなよ、俺は……カイゼルさんと共にお前を倒す!」
優は再び立ち上がり、レーザーブレードを構えた。
「粋がるな小僧!」
ウォーグがカイゼルと優、それぞれにオーラを飛ばしてくる。カイゼルは難なく弾き返す。優はオーラに向かってレーザーブレードで斬り掛かった。これは有効だったようで、赤い波が青いレーザーで切り裂かれた。
「うぬう」
ウォーグはオーラを球状にして、次々と二人に放ってくる。赤いエネルギー弾の嵐が襲い来るが、カイゼルは生身の腕や脚で受け返し、優は素早くレーザーブレードを振るい、この猛攻を凌ぎ切った。
「行くぞっ」
猛攻が止んだ一瞬、二人の間にアイコンタクトがかわされた。カイゼルが瞬時に懐に飛び込み腹に拳をめり込ませた。そこへ優が背後から飛び込みながら上段斬りを見舞った。青いレーザーがウォーグの身体を左肩から斜めに切り裂いた。
「ガァアアッ」
吠えたウォーグがまたもオーラを発する。これまででも最大級の出力で、優の身体は吹き飛ばされた。
「フハハハハハ。ここまでやられては認めざるを得んな」
切り裂かれた身体が赤いオーラで修復されていく。とんでもない回復力だ。カイゼルも追撃を狙っていたが、オーラが厚い壁のようになり近付けないようだった。
「カイゼル、お前が直接乗り込んできたのは計算外だった。が、もう少し待っていろ。必ずや我はお前を粉砕する」
ウォーグがそう呟いた瞬間、赤いオーラが竜巻のような勢いで巻き起こった。カイゼルは何とか踏ん張っていたが、優の身体は吹き飛ばされた。ウォーグの姿はこの場から消えていた。
「何とか凌いだな」
数メートルは飛ばされた優の下へカイゼルが来て手を貸してくれた。よろめきながらもなんとか立ち上がる優。
「やはり、俺ではウォーグに敵わないのか……」
「半分はその通りだが、半分はそうではないとも言える。実際、今の戦い、そうだったんじゃないか?」
「確かに……」
カイゼルの言う通りだった。パワーの面では完全に太刀打ち出来なかったものの、技を駆使した場面では何度かウォーグを面食らわせる事には成功していた。
「その強化スーツをパワーアップさせただけで、あの怪物をどうにか出来るなんてのは虫が良すぎるだろう。だが、お前はよくやった。スーツの性能を最大限に引き出し、一矢報いたじゃないか」
「カイゼルさん……」
「いきなり欲張るな。奴に手傷を負わせただけでも上々だ」
「そう……ですね」
言われてみればそうだ。新スーツで成果を出した事から、少し背伸びをし過ぎていたのかも知れない。あのウォーグ相手にいきなり結果を出そうというのは、さすがにおこがましかったか。
「それにしても酷いじゃないですか、ずっと騙してたなんて」
「ああ、すまなかったな。ダメージはどうなんだ」
「脇腹を掠めた程度です。スーツも着ていたんで傷はそれ程でも……」
「ちょっと悪戯が過ぎたか。悪いことをしたな」
「どうして教えてくれなかったんですか」
「俺は早くから速水学長が怪しいと踏んでいた。しかし、お前は彼を尊敬している節があったからな。俺が怪しいと言っても信じたかどうか……」
「確かに……」
「ならばいっその事、謎の探偵・風間が暴いてしまえば良いかと思ったんだ。お前には俺が正体を暴くところを見せようと思っていたのだが、タイミングが悪かったな」
「そういう事か……。で、速水学長は……」
「おそらく殺されて身体を乗っ取られたような感じだろうな」
「酷い……父さんが近くにいながらそんな事を……」
優は在りし日の速水を思い出していた。父の研究仲間で、自分が幼い頃に何度か会った事もある。表彰式の時の彼は既にウォーグだったのか。正義感の強かった父がそんな真似を許すなんて……。ひょっとしたら父も改造でもされておかしくなっているのではないか。
「お前が騙されたまま、殺されたりしなくて良かったよ。逃がしはしたが、これで騙し討ちのような真似は避けられるだろう」
「ただ、奴はもう少し待っていろと捨て台詞を吐いてました。何か考えでもあるのでしょうか」
「さあな。こっちはこっちで備えるだけだ。急いでその破損した部分は直しておけよ」
「ええ」




