第11話『正体』②
優は構内を走って事務局棟へ向かった。時刻は15時を過ぎていたが、空はまだ明るい。咲にはああ言ったが、やはり身体が少し重い。しかしそれを差し置いても風間を追うのは急務であるように思えた。何よりカイゼルの期待に応えたい。その気持ちが優を動かしていた。
しばらく走って事務局棟の近くまで来たが、やはり警察がいて警戒態勢を敷いていた。学長は出勤しているのだろうか。カイゼルの言う通り、風間が中に入って行ったとしたらどうやったのだろうか。そもそもカイゼルは何処にいるのだ。優は通信機を発信した。
「出ない……何かあったのか」
こうなると、何とかして中に入らなくてはならないように思えて来た。さてどうするかと頭を捻ったところ、妙案を思い付いた。優は少し建物から距離を置き、木陰に隠れた。そして、
「装填!」
SINOBIスーツを身に纏った。
全身黒ずくめの姿になった優は再び事務局棟に近付く。そして、姿を消した。透明になったのだ。これならば警官の目には留まらない。入口の自動ドアは優を感知して開いたが、何者の姿もない。警官は少し驚いて調べていたが、原因はわからず首を捻って元の位置に戻るだけだった。
優は透明の姿のまま、階段を登った。一階のエレベーター前にも警官がいて、警備していた為だ。仮に透明で扉を開いた場合、一緒に乗り込んで来ないとも限らない。なので、二階まで上がって、そこでエレベーターを呼んだ。
「よし」
読み通り、警官は乗っていなかった。おそらく学長など、上階に来ている関係者がおり、上からエレベーターを呼ぶ事があるのだろう。優が二階から呼んでいるなど思いも寄らない筈だ。優は安心して透明状態を解除して箱に乗り込み、10のボタンを押す。扉が閉じて、箱が周囲の景色を見せながら上昇して行く。
十階に着いてすぐに優は異変を感じた。まずエレベーター前に警備員が二人倒れていた。床には血も流れているようだ。
「大丈夫ですか」と近寄って声を掛けるが、気絶しているようだった。もっとも声を掛けてから気付いたが、今の自分の姿は十分に怪しい。下手に関与しない方が良さそうだと判断し、優は前へ進む。
受付をしている秘書の姿は見えなかった。優は辺りを見回しつつ、誰もいない事を確かめると、学長室の方へ向かう。学長室にも人の気配はない。優のマスクのセンサーでも熱反応は感知出来なかった。
だが、奥の応接室で物音がした。熱反応もあるので間違いなく誰かがいる。扉は半開きの状態だ。優は近寄って中の様子を窺った。
「風間!」
中にいたのは風間と速水学長だった。風間は今にも学長に飛び掛からんとしている。
「待てっ!」
優は二人の間に割って入った。そして、速水学長を庇うようにして風間に向き合う。
「風間、どういうつもりだ?」
「タイミングが悪い奴め。今すぐそこをどけ」
風間は強い口調で言う。
「いいや、お前の好きにはさせん!」
「そういう意味じゃない! 馬鹿野郎っ、避けろっ!」
風間が叫んだのと、優が脇腹に衝撃を受けたのがほぼ同時だった。
「ちっ、叫ばなければ即死だったのにな……」
優を攻撃したのは速水だった。その手からはオーラのようなものが出ている。
「が、学長……どうして」
優は状況が理解出来ず困惑していた。そこへ速水が勢いよく拳を振り下ろしてくる。
次の瞬間、閃光が煌めいた。優の前に風間が瞬時に立ちはだかり、速水の一撃をガードしたのだった。
「お前は勘違いしていたのさ」
「えっ……」
風間と優に会話させる事なく速水が攻撃を仕掛けてくる。人間離れしたスピードで拳と蹴りを繰り出して来るが、風間はそれを全て腕や脚で受け流した。優はスーツを着て、マスクを装備しているからこそ付いて行けているが、どちらも人間とは思えない凄まじさだ。
「ちょっとは喋らせろっ」
風間の廻し蹴りが速水のどてっ腹に命中し、後方へ吹っ飛ばした。速水の身体は壁に激突してもんどり打った。これでようやく少し、距離が取れた。
「オイ、大丈夫か」
「え、ええ……」
速水の一撃を食らった脇腹は燃えるように熱く、痛みを感じさせるが、致命的なダメージではなかった。
「それより、何故学長が……」
「気付いていなかったのか、おめでたい奴め。速水学長、奴こそがウォーグだ」
「ええっ……」




