第10話『共闘』④
「ちくしょう。やっぱり罠だったか」
二体の怪物は取り残された優と咲を舌なめずりするように見ており、とっとと逃げた風間を追う気配はない。
「咲、逃げろ。そして、これでカイゼルを呼んでくれ」
「はいっ」
優は咲を後方に追いやり、カイゼルとの通信機を渡した。そして改めて二体の怪物に向き直った。優に相対しているのは、自分よりも少し大きいくらいの巨大なカマキリと蜘蛛の怪物だった。相変わらず双方とも真っ黒で、父の発言が真実ならば、地球の生物の遺伝子を改変して作られた化け物なのだろう。奴らは今にも襲い掛からんとしている。
優は一度右側にダッシュした。惹き付けて咲から奴らを引き離す目的が一つ。もう一つは、
「ソラっ!」
同時にポケットから玉のような物を取り出して、地面に叩き付けた。次の瞬間、煙幕が辺りを包む。投げたのは一種の煙玉のような物だ。
「これで変身できる。装填っ!」
煙の中から黒装束の忍者が出現した。その姿に気付いたカマキリと蜘蛛の怪物は、一斉に襲い掛かって来た。
「ハイヤァッ!」
気合一閃、優は二体に飛び蹴りを食らわせ、その位置を入れ替わった。綺麗に当たったが、ダメージはさほどでもないようで、怪物は唸りを上げ、再度向かって来る。
「二体、確かに脅威だが、お前達自身にもスピードやパワーに差がある……。それを見切れば……」
優はカマキリ型に飛び蹴りを食らわすと、それを足場にして、すぐさま蜘蛛のどてっ腹に次の蹴りを見舞った。吹っ飛ぶ蜘蛛型の怪物。
だが、カマキリ型が怯まずに襲い来る。上背は優より高く、2m以上はあるだろう。頭上から、鋭利な鎌を振り下ろしてくるが、優は左右から振り回される凶器を完全に見切っていた。無駄な動きをする事無く、寸前で全てかわす。それどころか、かわすと同時に踏み込んで、これも腹部に強烈なパンチを食らわせた。
「さすがにタフだな……」
優の攻撃は確かに効いている筈だが、決定的なダメージにはなっていないようで、二体とも起き上がり唸りを発していた。その時、咲から通信が入った。
「先輩、カイゼルさんに通じました! まもなく来ると思います」
「サンキュー。これで気分的にラクになった」
既に咲の姿は見えないので、距離を取ったのだろう。彼女の無事も含めてカイゼルが来るという朗報は、優に慌てて自力で二体を倒さなくても良いという気持ちの余裕を持たせた。
「さあ来い」
優は自らは動かず、相手の動きに対応する事にした。カマキリが前に出て再び鎌を振り回して来る。優の高性能マスクは蜘蛛が横に動くのを認めたが、まずは目前のカマキリへの対応が優先だ。優は旋風のような鎌の振り下ろしを見切ってかわした。
「何だ?」
優は左脇から何か白い物が飛んでくるのを検知した。慌ててそれもかわしたが、カマキリの乱れ鎌は止まらない。
「くっ」
鎌を避けながら、脇から飛んでくるものが蜘蛛の糸である事を把握した。マスクはその両方の動き・流れを察知している。しかし、それに脳と身体を同調させるのが困難を伴う。優は何度か波状攻撃を避けたものの、一瞬頭が付いて行かなくなり眩暈を覚えた。その隙を逃す敵ではなく、蜘蛛の糸が優の右脚を捕らえた。
「しまった……」
太く白い糸が足に絡んで巻き付いてくる。そして蜘蛛は優の脚を引っ張って自分に引き寄せようとする。同時にカマキリの鎌が頭上から振り下ろされる。
「むうっ」
慌ててギリギリでかわしたが、次の瞬間、糸に引っ張られ、優の身体は宙に舞い、地面に叩き付けられた。巻き付いた糸はかなり丈夫で、それでも外れない。必死に引き千切ろうとする優だが、再度蜘蛛の力で引っ張られる。足から身体を持って行かれて、またしても振り回される。
「させるかっ!」
優は動きを先読みして、自ら中空で回転し、受け身を取った。そこへカマキリが飛びながら鎌を振り下ろしてくる。
「ぬおっ」
優は咄嗟にレーザーブレードを抜き、これを向かい討った。青い閃光が煌めき、カマキリの右の鎌を斬り落とした。怪物は痛みからか、悲鳴を上げる。相手が怯んだのを見て、優は足に絡みついた糸も切り落とした。
再び蜘蛛が糸を吐いてくるが、レーザーブレードでそれを斬りながらかわす。その脇からカマキリが飛び掛かって来るが、優はそれを引き付けてギリギリでかわし、二体を衝突させた。「ギョアァッツ」と凄まじい呻き声が上がる。カマキリの左の鎌が蜘蛛の脳天に突き刺さったのだ。
「お取込み中申し訳ないが、とどめといかせてもらうぜ。分身の術っ!」
優は前回同様、また四人に分身した。そして同士討ちで動揺しているカマキリの首を総掛かりで斬り捨てた。斬り抜けた後、優の姿は一人に戻っていた。
「さてと、俺の実力を示す為にも、カイゼルが来る前に仕留めさせてもらう」
優は居合抜きをするような構えを取った。蜘蛛は唸ると、複数の脚を蠢かしながら突進してくる。優はそれに向かって走りながら斬り抜けるつもりだった。しかし、
「ちょっと待った!」
宙から降りた何者かがそれに割って入った。優は踏み止まったが、勢いの付いた蜘蛛は止まらず、降り立った者にぶつかろうとした。次の瞬間、銀色の煌めきが走り、蜘蛛は凄い勢いで後方へ吹っ飛んだ。
「カイゼル!」
割って入って来たのはカイゼルだった。




