第10話『共闘』②
「あ、風間さんですか。迫川ですが」
優は研究室から早速電話を掛けた。
「迫川さん? 珍しいな、どうしました」
応答したのは風間の声に間違いなかった。
「単刀直入に言います。貴方と情報交換がしたい」
優はこう言えば相手が乗って来るものと思っていた。しかし、その目論見は外れた。
「ふうむ、どういう風の吹き回しかな。残念ながら、今、あなたと交換し得る有益な情報はない」
「ええっ。あんなにこちらの事を探ろうとしていたじゃないですか。情報を交換しようと言っているんだ、悪い条件ではないでしょう」
「ふふっ。都合の良い事を言うね。どうせ、私の事でも探りを入れたくなっての思い付きだろう」
「そ、そんな事ないですよ。こっちも情報が欲しいので、貴方に協力して、何か得られればと……」
優は苦し紛れの言い訳をするが、見破られている感は否めない。
「まあいい。では一度会いますかね。どちらでお会いしましょうか? 私からそちらへ伺っても構いませんが」
「こちらへ?」
優はぎょっとした。風間は優達が研究室にいる事がわかっているかのような口振りだったからだ。
「研究室へお伺いしてはマズかったですかな。ふふふ」
「俺がいる場所を把握している……って事か」
「探偵ですからね。どうするんですか? 辞めますか?」
(こいつ……、挑発してるのか。やはりウォーグに繋がる者なのか……)
優は瞬時に考えた。風間の言は明らかに怪しい。だが、あの自信満々のウォーグとも少し違う気がする。ウォーグの手の者という可能性は否めないが、やはり接触して糸口を探るのは悪くない手のように思えた。
「いや、お願いします。是非お話したい」
「いい度胸だ。楽しみにしている。それじゃ原子力研究センターの前などはどうかな?」
「貴方は……」
これも挑発なのか、風間の指定場所は昨日、爆発が起こったところだった。しかし、これを避けても始まらない。
「いいですよ。原子力センターの前で。何時がいいですか?」
優はそう答えた。
「大学も封鎖されているし、何時でも構わないよ。いや、しかし、原子力センターは火災もあったし、逆に目立つか……」
「風間さん……貴方、本当に何でも調べてるんですね」
優秀な操作能力なのか、それとも風間自身が関与しているのか、とにかく昨日起こった事を把握しているようで不気味に思えた。
「探偵ですからね。事情も知らずに動けませんよ」
「本当にそれだけですか?」
「どういう意味です?」
「ひょっとして、それらの事件に関与してるんじゃ……」
「はっはっは。面白い。私の自作自演とでも言うつもりかな?」
風間は通話口から耳が痛くなるような声で笑っている。
「わかりませんが、それら含めて会って確かめたいと思っていますよ」
「なるほど、覚悟を決めてきているといったところかな。それでもあなたは私に会おうと?」
「ええ。会わなきゃ何も始まりませんからね」
「いいでしょう。じゃあ原子力センターの前に1時間後で。無事に来られる事を祈ってますよ」
意味深な言葉を残して風間は電話を切った。
「無事に来られるか……なんて、如何にも罠でも仕掛けていそうな感じだな」
「先輩、本当に行くんですか。危険じゃ……」
咲が心配そうな顔をして言う。
「行かないのは行かないので危険かもな。既にここにいる事もわかっているようだし。やはり打って出るしかない。ここは攻めの気持ちが大事だ」
「先輩、私も連れて行って下さいね。ここに一人は怖いです」
「む……そ、そうだな」
風間の不気味な観察力から考えると、確かにここに一人で留守番させておくのも危険な感じがするので、優は咲の懇願に承諾するしかないのだった。