第10話『共闘』①
夏季は投稿していてあまり書けませんでしたが、またちびりちびりと書きたいと思います。
カイゼルと別れた優は、木の陰に隠れていた咲と合流し、研究室に戻った。戦っている間は感じなかったが、自分がかなりぐったりしている事に気付いた。咲が肩を貸してくれたが、「大丈夫ですか」としきりに心配していた。優はそれに応える元気もなく、部屋に入るやいなや、教授室のソファにもたれかかった。
「すまん……本当にくたびれた」
優はそう呟くと意識を失った。
目が覚めた時、優の身体には毛布がかけられていた。どのくらい眠ったのかわからないが、頭はスッキリしている気がした。
「先輩、やっぱり無理したんですね。十時間も起きないから心配になりましたよ……」
「そんなに寝てたのか。確かに咲と合流した時は疲労困憊だった」
「スーツの影響でしょ、やっぱり。先輩が寝ている間に少し解析しましたけど、負荷と言うか、無理矢理超人的なスピードに付いて行かされて身体に負担が掛かったんだと思います」
「さすがサポーター、全てお見通しか……」
優は苦笑いした。
「だが、それを差し引いても新スーツは凄い! あのトラはもとより、カイゼルとも十分渡り合えたんだ」
「データを解析しながら見ました。確かに凄い戦いっ振りでした。でも……」
「身体に無理が懸かっているってか」
優は咲の言葉を遮って言った。咲がじーっと見つめて来る。
「そうですよ~。だからそんな風にぐったりしちゃったんじゃないですか」
「そんなものは慣れればどうにかなるさ」
「いいえ、慣れの問題じゃないです。数値的にも相当な疲労度が検出されています」
咲は一枚の書類を取り出して渡して来た。それは今日の戦いのデータを数値化したもので、確かに指摘通り、疲労度や負荷の数値が高く出ていた。
「初回のデータで全てがわかる筈はあるまい。あくまで参考値だろう」
「でも、それだけの数字が弾き出されているのは事実です」
何とも研究者らしい発言だが、数字で示されているのは事実で、優の方が若干分が悪い。
「わかったよ。その数字、俺が覆して見せればいいんだな」
「そんなに簡単な話じゃないと思いますけど」
「いーや、咲は人間の成長力を侮っている。人間、鍛えればある程度までは強くなれるんだ。俺だってもっと強靭な肉体を手に入れる余地はあるさ」
「も~う。先輩って本当に諦めないんですね……」
咲の頬が膨らむ。
「諦めないからカイゼルにだって認めて貰えたんだ」
「先輩の憧れの人ですもんね」
「だから俺はもっともっと強くなる。あの人と共にウォーグを倒す!」
「はいはい。先輩は夢中になると止まりませんね~」
咲は少し呆れ顔だ。なかなか男の興奮を理解しろと言っても無理があるのかも知れない。だが、優の興奮が冷めやらぬのも無理はない。スーツの真価が発揮出来た事といい、カイゼルと共闘出来るようになった事といい、それだけの材料が揃っているからだ。
「先輩、喜ぶ気持ちはわかりましたが、カイゼルさんとはどうやって連絡取るんですか。まさか口約束なんて事は……」
「ふふん。これを見ろ」
優は得意気にスマホと同じくらいの大きさの機械を取り出した。真ん中にボタンが付いているスマホといった形状だ。
「何かあったらこれで呼べとの事だ。ボタンを押すと、彼に通じる仕組みになっている」
「へえ~、凄い。押してみましょう」
咲は目を輝かせて、優から機械を奪い取ると、真ん中のボタンを押した。
「お、おいっ……」
まさかの行動に慌てる優。すぐに機械から「どうした?」という声が聞こえて来る。カイゼルだ。咲は苦笑いして機械を返して来た。仕方なく優が言葉を返す。
「あ、すみません。ちょっとテストを」
「テスト? 何かあった訳じゃないのか」
「はい」
「遊びじゃないんだ、ふざけて呼び出すな」
「すみません」
優が機械越しに頭を下げると、通信は切られた。優は咲を睨む。
「ご、ごめんなさい……」
咲は深く頭を下げて謝る。優は仕方ないな、という顔をしてその頭を軽く小突いた。
「本当に遊びじゃないんだからな~」
「つい私も興奮しちゃって……」
「それに関しては俺も人の事は言えんからな。こんな風にあの人と繋がれるとは思わなかった」
「でも、これで先輩が一人で化け物と戦わなくていいんだって思うと安心です」
咲はにこやかな表情を見せる。心配のタネが一つ減って安堵しているかのようだ。
「そうなればいいがな。だが、そんな簡単な話でもない。ウォーグには父が参謀に付いている。カイゼルだってそれがわかっているから俺に協力を求めたんだろう」
「そっかぁ……こんな戦い、早く終わって欲しいんだけどなあ」
「それは俺も同感だ。その為にもサポート頼むよ。やっと一歩前進したのは間違いない」
「わ、わかりましたよぉ」
少し納得のいかないような表情はしたものの、咲は頷いた。
それから優は咲の出してくれたデータを改めて検証した。戦いで示した通り、やはり速度はトラの怪物を上回り、パワーも決定機にはこれまでのマッハキック以上に上がっていた。気になるのは咲も指摘した疲労度や負荷、身体にかかる重力の数値だ。確かにアドレナリンが出ているせいか、戦っている最中はさほど感じていなかったが、弾き出された数字を見ると、疲れるのも無理はない気がする。まるでF1レーサー並みの酷使を身体に強いているのがわかった。だが、優は前向きだった。
「要はプロスポーツ選手並みの体力、精神力、集中力を付ければいいって事だな」
「簡単に言いますね、先輩は」
「まだまだ肉体強化は出来る筈だ。あくまでスーツで戦う為の下地を作ればいいんだし、オリンピックで結果を出すなんて事よりも現実的だろう」
「でも、オリンピック選手はウォーグとは戦いませんよ」
咲の言葉を聞いて優は苦笑した。
「そりゃごもっともだ。だが、現実問題として、俺はウォーグと戦わねばならん。オリンピックに出るくらいの気持ちでやるさ」
今度は咲が苦笑いを浮かべた。優のあまりのやる気に水を差せなくなったと思われる。
「それはそうと、スーツの解析や調整はするとして、これからどう動きますか? 相手の動きを待っているだけという訳にもいかないでしょうし」
「うむ。まずは構内がどうなっているかだな。いつまで封鎖状態なのかもわからないし、この前、トラの怪物が持ち去って父に渡した物も気になる。あとは風間だな……」
「風間さん……確かに怪しいままですね」
「今の新スーツを手にした俺なら、多少危険を冒してでも近付けるチャンスはあるだろう。他力本願ではあるが、いざとなればカイゼルを呼ぶ事も出来る」
「接触するんですか?」
咲の顔が真剣なものになる。
「ああ。その時じゃないかと思う。虎穴に入らずんば虎子を得ず、待ってばかりじゃ何も解決しない。カイゼルとの繋がりも出来た今、攻めに転じるべきじゃないか」
「でも……」
心配なのか、咲はなかなか納得しなかった、優はそれを宥めるように諭し、ようやく承諾させたのだった。