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第9話『忍』⑦

「やるしかないか。いや、やってやる!」

 優も改めて戦闘態勢を取った。新スーツを作ったのもこの時の為だ。ここで力を見せずにどうする。


 先に動いたのはカイゼルだ。一気に間を詰め、拳を繰り出してくる。優は何とか捌きながら直撃を避ける。だが、カイゼルの動きは速い。先程、「本気を出す前……」と言っていたが、言葉通り、確かにトラを上回るスピードだ。


「くっ……」

 優のガードをすり抜け、右ストレートが炸裂し、後方へ弾き飛ばされた。


「そんなものか……」

 カイゼルは追撃の手を緩めず、起き上がった優にさらに飛び掛かる。今度は連続で蹴りを繰り出してくる。二発まではガードした優だったが、間髪入れずに繰り出した三発目が胴を捉え、地面に転がされた。


「もう少し……」

 優は手を付いて立ち上がろうとしながら一人呟く。カイゼルは容赦なくそこへ蹴りを見舞う。優は再度、地面に這わされた。


「はは、へへへ」

 立ち上がった優は笑っていた。

「成す術が無い事を悟って気でも狂ったか」

「いーや違う!」

「何が違うのか、見せてみろっ!」

 カイゼルは瞬時に距離を詰め、細かいパンチを繰り出す。しかし、

「何っ……」

 優の姿はそこにはなかった。


「まずは一発お返しだ」

 いつの間にか背後を取っていた優が強烈なソバットを顔面に食らわせた。少し後退ったカイゼルに低い姿勢でさらに迫る。


「一発入れたくらいでナメるなっ」

 迎え撃つカイゼルの速い蹴りも鋭い拳も優には当たらなかった。優は柳のように緩やかな動きで全てをかわし、反撃の拳を命中させた。


「イケる! このスーツ、カイゼルにも通用する!」

 言葉通り、優には相手の動きが全て見えているのだった。新スーツとマスクは、過去のカイゼルの記録を基に、これまで以上の解析機能がどのように動けば良いかを示唆してくれていた。優自身が口にしていたように、あとは彼の脳・目・身体機能がそれに付いて行くだけの事だった。


 先程、トラと戦った時も最初はスーツの性能に付いて行く事が出来なかった。しかし、戦う中で優はスーツが導く動きを掴んだのだった。それには相当な集中力・瞬発力・筋力を要した。一方でアドレナリンが出ているのか、ここまで戦っている中では疲労を感じてはいなかった。


「どういう……事だ」

 カイゼルが呟くのも無理はない。優は繰り出された攻撃を全てかわした。いや、それどころか、避け際に次々と攻撃を当てていた。威力には欠けるものの、カイゼルを驚かせるには充分であった。当の優自身でさえ、いきなりここまでの成果が出た事に驚いていた。


「一気に行くぜ。分身の術っ!」

 ここで優は再び4人に分身した。とはいえ、実際に4人になっている訳ではない。スーツが発する超精巧なホログラム技術で自身の姿をさらに3つ映し出しているのだ。それで戦っている相手には分身したように見える、といった仕組みだ。


 4人の優がカイゼルに猛攻を加える。さしものカイゼルが防戦一方だった。キレの良い右ストレートが顔面に入り、怯んだカイゼルに優がマッハキックを繰り出す。


「四身マッハキック!」

 4人の優が飛び蹴りでカイゼルを襲う。これに対してカイゼルも「うおおおっ!」と吠えると、身体をさらに発光させて右の拳を繰り出してくる。


 まさに激突する、と思われた瞬間、双方が寸前で止まった。


「何故、止めた?」

「そっちこそ」

「味方同士で潰し合う必要はない。そう感じたからだ」

「味方……じゃあ」

「お前の力……認めざるを得んな」


 カイゼルの方から手を差し出す。握り返した優の全身が喜びで満ち溢れる。ずっとこの時を待っていたのだ。


「やっと、やっと認めて貰えた……」

「それだけの戦いを見せられてはノーとは言えん。本当を言えば、戦わせたくなかったが……」

「いいんです。前にも言ったように、俺は貴方と一緒に戦いたい! その為にこのスーツも作ったんだ」

「フッ、恐ろしい執念だな。それがそこまでの力を得た原動力か。これからは頼んだぜ、相棒」


「カイゼルさん……」

 優はマスクの下で泣いていた。憧れの対象に認めて貰えるのがこんなにも嬉しい事とは思わなかった。


「ウォーグを倒す為にはお前の力が必要だ。奴にあのマインズとやらが付いている以上、俺も一人では危ういからな」

「マインズ……奴は俺の父なんです。父はウォーグをこの星に呼び寄せ、そのまま配下に……。マインズは俺に……俺にやらせてください」

「自分の父を討てるのか」

「討つ……しかありません。俺がやらないといけないんです」

「わかった……その覚悟は伝わった。どちらがどちらを倒すという決まりもないだろうが、その意志は尊重させてもらう」

「ありがとうございます!」


 優は再びカイゼルの手を握った。その手は熱を帯びて温かかった。彼の銀の光は収まっていたが、それでも眩しく映った。


 優はようやく戦いのスタートラインに立てた気がした。


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