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第9話『忍』②

 しばらく車に揺られた後、到着したのは中小企業が集まる工場地帯だった。幾つか小さい会社が建ち並ぶ中、優は『SHINOBI』という看板のある会社の前で車を降り、中に入った。咲もその後に続く。


「迫川さん、お待ちしておりましたよ」

 入るやいなや、鼻にちょび髭を生やしている三十代くらいの男性が声を掛けて来た。


「斉田さん、遅くなってすみません。少し野暮用で……。あ、こちら後輩で一緒に研究をしている桜花です」

 優は頭を下げ、併せて咲を紹介した。咲も慌ててお辞儀した。

「桜花さん、はじめまして。ここの社長の斉田です」

 斉田は自己紹介すると言葉を続けた。

「迫川さん、取りに来ると話していたのに、急に来られなくなったと言われて、ドタキャンされたのかと不安になりましたよ。はっはっは」

「いやいや、申し訳ない。早く取りに来れば良かったです。今すぐにでも必要です」

「それは一安心。試着されますか」

「ええ、是非」


 斉田は「これです」と言って、紙袋に入った包みを渡して来た。


「では、早速……」

 優は袋から黒い布のような物を取り出すと。それを広げて身に纏った。

「忍者!」

 咲が思わず叫んだのも無理はない。優が身に着けたのは、まさに忍者の装束のようだったのだ。


「さすが、迫川さんの後輩だ。そうです、忍者を意識した強化服です」

「斉田さんは社名の通り、忍者が好きで、色んな製品を開発しているんだ」

「あ、そうか。『SHINOBI』って『忍び』なんですね」

「以前、迫川さんとシンポジウムで知り合って、忍者の要素を盛り込んだ強化スーツを作れないかって依頼されましてね」

「さすが、斉田さん、この軽さでこの強度は素晴らしい」


 優は自分が着たスーツの材質の良さに感心した。重さをまるで感じない一方で、金属繊維で作られた鎖帷子のような形状は多少の打撃や刺突にも耐え得るように思われた。


「忍者は速さが命ですからね。丈夫であってもスピードが落ちては意味がありません」

 斉田は得意気に語る。

「後はスーツとしてのプログラミングと出力調整等を急がないと。それと、お願いしていた物は……?」

「ええ、用意してあります」


 斉田は銀色のアタッシュケースを手渡して来た。優は「拝見します」と言って、中を確認した。ワイヤーロープのようなもの、棒状の鋭利な金属、発煙筒のようなものが入っていた。


「いずれも現代の忍者に必要な道具です。迫川さんが使いこなして下さるのを期待していますよ」

「これは凄い。今までとは違った戦い方が出来そうだ」


 優は興奮していた。自身が注文した想定通り、若しくはそれ以上のものが確認出来たからだ。


「迫川さん、何度かビデオを見せていただきましたが、この装備なら怪物達ともある程度渡り合う事が出来る筈です」

「先輩、斉田さんに戦いの事……」

「うむ。協力をお願いする為、戦っている映像を見てもらった。その上で準備してもらった新スーツの素材と道具だ」

「現代に忍者が蘇るのは私の悲願です」

「斉田さん、本当に忍者がお好きなんですね」

「あはは。私は子供の頃から忍者の漫画や小説が大好きで、聖地とも言える伊賀や甲賀、戸隠なんかも何度も行ってるんですよ」


 斉田は咲の言葉に照れる。


「俺も斉田さんと最初に話した時、その知識の深さに驚かされた。そして、戦いながらピンときた。もしかしたら、奴らと渡り合う一つの方策はコレじゃないかと。だから映像を渡して、もし忍者が現代に存在したら、怪物と戦えるかと相談してみた」

「最初は驚きましたよ。あんな怪物が存在するなんて……。そりゃ戦国時代の忍者じゃ相手にならないですよ。如何に彼らが超人だったとはいえ、映像で見た怪物は規格外過ぎる。ただ、忍者が使っていた技術は、間違いなく現代の戦闘の場でも通用します。それこそ迫川さんのように運動能力を高める技術と組み合わせれば、十分に戦えるんです!」

「斉田さん、その熱意が伝わって来たからこそ頼んだんですよ」


 優は斉田と初めて会った時の事を思い出していた。その時も彼はイベントのブースに忍者グッズを並べて、忍者の凄さ、強さ、カッコよさを熱っぽく語っていた。当時、スーツを構想していた優は興味を持って話を聞いたのだが、そのせいか名刺を渡してくるわ、動画を送ってくれるわで、攻勢を掛けられたのであった。怪物との戦いに行き詰っていた優は、新たなスーツを考える上で斉田の事を思い出し、協力を仰いでいたのだ。


「迫川さん、命懸けで真剣に戦う人にこんな事言っちゃ何ですが、私はワクワクが止まらないんですよ。あなたがそのスーツでどんな戦いを見せるのか……」

「斉田さんのそんな気持ちが素晴らしい製品を作るんですよ、きっと。本当にこれは素晴らしい」


 優は再度手にしたスーツに触れた。柔らかく軽い上に丈夫、まさに求めていたものだ。優は右手を差し出して斉田と握手した。



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