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第2話『迫川優』①

 新型強化スーツの力で、怪事件の裏に潜む怪物は倒した。しかし、迫川優は、これはまだ始まりに過ぎないのを知っている。何はともあれ、まずは目撃者かつ危うく犠牲者になりかけた後輩・桜花咲をどうにかしなくてはなるまい。


「桜花、歩けるか?」

 優は抱き抱えていた後輩を立たせてみた。

「だ……いじょうぶです」

 足元はふらついているが、地に足は付いているようだった。

「一人で帰れるか? 俺はこれを始末せにゃならん」

 優は怪物の死骸を指差した。しかし、咲は首を振る。

「無理ですよぉ。こんな怖い目に遭って一人でなんて帰れません」

「そうか」


 確かに彼女の言う通りかも知れない。いくら一段落したとはいえ、見た事もないような化け物に襲われて、すぐに平常心を取り戻せる筈もない。今被っているマスクには暗視スコープが付いており、暗闇でもよく見えるのだが、彼女は憔悴し切って、足もまだ震えているようだった。服も返り血で汚れている。


「じゃあすまんが、俺がこれを片付けるまで待っててくれ」

「えっ……正当防衛なんだし、先輩がこの死骸を片付けなくてもいいんじゃ」

「そうもいかん。こんな怪物の死骸を誰かが見つけたら騒ぎになるだろう」

 優の言葉に咲は頷いたが、何処か解せないような顔をしていた。


「あの、先輩。この怪物って一体何なんですか? 先輩は何か知ってるんですか?」

「気になるか? あまり深入りしない方が良いと思うんだがなあ」

「もう深入りしてますよぉ。殺されかけましたし」

 咲は不満気にふくれっ面をする。

「そう……だよな。また狙われんとも限らないし、少し話しておくか。これはな、簡単に言うと地球外生命体だ」

「宇宙人……って事ですか」

「まあそんなところだ。俺も根本のところまで詳しくわかっていないので説明は出来んが、とにかくこいつらは地球を狙って来ている」

「そんなマンガみたいな話って……」

「信じるも信じないもお前の自由だ。だが、現に何人かは殺され、お前だって襲われただろう」

「それはそうですが……。あのう、先輩、一つ聞いていいですか?」

「何だ」

「実は私、最初に目撃した時に先輩が死体の近くにいるのを見たんです。でも、それを警察には言えなくて……。アレは何をしていたんですか」

「そうか。それで俺を疑ってたのか」

 優は笑った。マスクで笑っている事まではわからないだろうが、咲が真剣な顔で睨むので、すぐに笑うのを止めた。


「私、それを見て、ずっと先輩が犯人なんじゃないかと不安な気持ちでした」

「まだ、わからんぞ。俺が犯人かも知れない」

 優がそう言うと、咲は首を振った。

「そうじゃないのはさっきの出来事でわかりました。先輩は私を守ってくれた。最初の殺人からこの怪物が犯人だったんですね」

「俺も現場を確認出来た訳ではないが、まあそうだろうな。俺は最初からこいつを追っていた。お前が見たのは、俺が死体もそのままにこの怪物を追ったところだったんだ」


 優は怪物の死骸を見つめた。顔面と右腕がぐちゃぐちゃになって、醜悪な状態だ。こんなものをこのままにして行ったら一騒動になるだろう。


「私も狙われたんですか?」

「多分な。第一発見者になってしまい、運が悪かったな。推測でしかないが、おそらくそれで狙って来たんだと思う。本当は俺が第一発見者だったんだが……」

「そうですよぉ。私は先輩を見付けただけなのに……」

「すまなかったな。俺は俺で必死だったんでな。だが、桜花が危険な目に遭うようなら守らなければとは思っていた」

 優は頭を下げた。咲が狙われるであろうとは、何となく予感があった。結果的に危ない目には遭わせたが、守る事は出来た。


「あ、ありがとうございます。先輩がいなかったら私殺されてました……」

 咲も頭を下げてきた。

「何にしても無事で良かった」

 優がそう言うと、咲は笑顔を見せた。


 それから優は、怪物の死骸を片付けにかかった。装着しているスーツのパワーで木の下に大きな穴を掘り、そこに怪物を投げ入れて埋めた。咲はさすがに死骸に触れる勇気はないようだったので、誰かが来ないか見張りをしてもらった。やっている事は死体遺棄そのものだが、これをまさか殺人とは言うまい。優自身、怪物を倒した感覚はあるが、人を殺したとは感じなかった。何より殺らねばこちらが殺られていた。そもそもスーツはその為に開発したのだ。


 一通り、始末した後、優は強化スーツを脱ぎ、咲に声を掛けた。

「車で来ているんで送っていくが、アパートに一人で大丈夫か?」

「えっ。それはちょっと……自信ないです」

 優もそれはよくわかった。あんな目に遭った後で、女子が一人で家に帰るのは怖いだろう。

「じゃあ実家に帰るか?」

「うーん。それも……」

 何か訳があるのか、咲は首を縦に振らない。

「なら仕方がない。ウチに来るか?」

「えーっ」

「そんなに驚くなよ。他に妙案があるならそうするが、考え付かないから言ったまでだ」

「わ、わかりました。お願いします」


 咲は頭を下げる。優は妙な事になったと思ったが、確かに彼女が再度狙われる可能性もあり、放っておく訳にはいかなかった。一緒に駐車場まで行き、自分の車RAV4に乗せようとしたが、彼女はもじもじとして乗ろうとしない。


「どうした?」

「さっきの怪物の返り血で汚れていて……」

 どうやら汚れた格好で車に乗る事を遠慮しているようだ。

「気にするな。大した車じゃない。さ、乗って」

「は、はい」


 咲はようやく助手席に座った。優だって強化スーツを着ていたとはいえ、液体が複数個所付着していた。毒性はないと思われ、優はさほど気にしていなかった。エンジンをかけ、サイドブレーキを解除し、アクセルを踏み込む。


「先輩のお家ってご実家ですか」

 駐車場が構内から出た頃、咲が尋ねてきた。優はハンドルを握りながら頷いた。

「じゃあご両親とかいらっしゃるんじゃ……」

 咲は不安そうな顔をしている。

「心配ご無用。両親は不在だ。あ、いや、俺と二人じゃ逆に心配か……」

 幸い家は部屋も十分にあるが、独身男女の二人きりはマズいかと思い当たり、優は頭を搔いた。

「だ、大丈夫です。ご両親いたら、気を遣いそうだったので」

「空いている部屋があるし、そこを使ってもらえばいいから。気を遣う事はない」

 咲は頷くとしばらく恥ずかしそうに俯いていた。


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